第29話【顕現、聖剣アステローペ】

そして帰還。今度は訓練場で生身の剣術を習うことになる。

「身体から、さっき吸われた穴から命を解き放つイメージを」

「………ふーっ…………」

「今」

「はぁああああああああ―――――――ッ!」

「…………」

身体から力が噴き出る。しかしこれは…………、

「闘気じゃない、これは…………魔力だ」

「!」

「恐らく、穴に対して闘気の絶対量が多すぎるんだ‥‥それで詰まっているんだね。外部から吸われないと闘気を引き出せない‥‥」

「それじゃあ‥‥」

「………ちょっとキツイけど、〝魔剣〟を習得して貰おう」

「‥‥魔剣?」

ゲームでは魔法の力を宿した剣って感じだったけど‥‥。

「魔力を物質化し、剣に宿すことで斬撃と共にぶつける技術。かなりの密度が必要だからね、闘気より辛いよ?」

「………やってやる‥‥。どんなに辛くても、俺は諦めない」

「始めようか」

俺たちが握ったのは鉄の剣。

「これが魔剣だよ」

そう言いながらアルタイルは簡単にやってのけた。

水色の魔力を纏った剣。圧縮された魔力は触れた物を砕くという。

「イメージするんだ。魔を制する自分を」

(魔を制する、自分‥‥)

「世界を制する自分を」

(世界を制する自分‥‥)

「大切なものを守る、騎士としての自分を」

(騎士としての自分、大切なもの‥‥)


――――――六花‥‥――――――――


「身体から剣に力を移すんだ」

水色の力を剣に移した。それは今にも溢れそうな、不安定な状態。


この世界にある【力】。

実体のある【物質】。形のない【無形】。有り得ないを現実にする【魔力】。あらゆる動作を指す【力】。意志を持った自然【精霊】。五つ全てに宿る心【魂】。


それらがこの世界を形作っている。それを認識し、抑えるイメージ。

「…………っ、はぁ‥‥!」

剣に魔力を纏う。圧縮。それを成して一つの剣とする!

「そうだ、アラタ。それが‥‥君の剣だ!」

(このまま、このまま‥‥!)

魔剣の力を制御し、己に屈服させる。俺の力だ、出来ないはずがない。

だが、何かが介入してきた。

「「!」」

(剣を、抑えられない…………!)

「アラタ、冷静になるんだ!」

(冷静…………!)

しかし魔剣は俺の意思に反し、その力を狂わせる。


――――貴方に力を――――


「誰だ、お前は…………!」

(〝あの時〟の男じゃない…………!)

女の声だ。聞いたことのない、けれど聞き覚えのある、そんな声。

「アラタ、しっかり気を持つんだ、自分を見失うな!」


――――――貴方の名前は?――――――――


「俺は、音花新だ‥‥!」


――――ではアラタ、貴方に祝福を。聖なる導きがあらんことを―――


「アンタは、いったい…………⁉」

――――私のことなどどうでも良いのです。ただ貴方に、願いの力を―――


(願いの、力…………?)


――――そうです。あなたの力、剣の名は―――――


「アルタイル、もう大丈夫」

「けど、まだ魔力が…………!」

「大丈夫。―――――――起きろ、【聖剣】」

「⁉ ―――聖剣⁉」

「――――――――〝アステローペ〟!」

剣の形そのものが変化する。美しい白銀の刀身を持った祝福の、聖なる剣。

「聖剣…………⁉」

「はぁ、はぁ、はぁ‥‥」

「アラタ、君は、いったい…………!」

「俺は…………俺だ…………」

「……そうだね、聖剣に選ばれるのも、君らしいことだ」

「………これで、戦えるのか? …………お前に、教えてもらえるんだよな?」

「ああ、もちろん。試練までの一週間、キツイから覚悟してね」

「………今更だぜ、アルタイル。…………覚悟なら、とっくにできてる」

(――――――――帰るために、何度も死ぬ覚悟が)

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