第25話【騎士って馬に乗る人のことじゃなかったの?】

コスモス王国騎士団の兵器、それは【二種エネルギー工学】の理論から生まれた人型機械戦士。

その名を【シリウス】。魔法工学から生まれた鉄の身体に、騎士の〝闘気〟で動く駆動部。

前時代的な【馬に乗る騎士】が無くなり、今では騎士とは【シリウスに乗る者】のことである。


その説明をアルタイルから聞き、俺は思った。

(SFじゃん、ロボットじゃん)

王の命令を受けた次の日。アルタイルからの指導を受けていた俺は【騎士】が思っていたものと違うことに軽いショックを受けていた。ただ、今の騎士でも剣は学ばなければいかないらしく、要人の警護も騎士の役目。そしてアルタイル曰く、『騎士は人を守らなければならない』ということで、相当な覚悟が必要な職らしい。

(俺、大丈夫なんだろうか‥‥)

今更だが本当に全うできるのか不安になってきた。

「じゃあ、まずは【闘気】と【魔力】の説明をしようか」

「お願いします先生!」

「よろしい。‥‥これらを説明するには体内と世界に満ちる力、【マナ】を知ってもらう必要があるんだ」

「マナ?」

(魔力と何が違うんだ?)

「簡単に言えば【意志のエネルギー】だね」

「意志のエネルギー?」

(分からん‥‥)

「そう。闘気は自身の体内にマナを取り込んで自身の力にした【力】そのもののことなんだ」

「じゃあ魔力は?」

「その反対にマナを体外に放出して世界に適合させることで起きる力のことだね」

「なんとなく分かった」

(元の世界じゃあり得ないことだから実感は湧かないけど‥‥)

「闘気は運動エネルギーに変換出来て、魔力は【魔法】‥‥つまりイメージを現実にできる」

「………それなら闘気のメリットってあるのか? 聞く限り魔法だけでいいと思うんだが‥‥」

「うん、あるよ。魔力は集中力とイメージが重要だから近接戦では隙が大きい。そして触媒が必要なものまであるんだ。何より知識がないと実現できないし‥‥」

「…………?」

「それに対して闘気は生命エネルギーと同義だから殆ど感覚で使える‥‥けど遠距離には向かないね」

「じゃあつまり、どっちにもメリットデメリットがあるってことか?」

「その通り。‥‥シリウスは騎士の闘気と魔力で稼働するんだ。だけどある程度の闘気量は絶対に必要だよ、乗ってすぐ気絶なんてことも有り得るからね」

「怖‥‥」

「けど君は大丈夫だよ、見た感じ全盛期の騎士にも劣っていないから」

「それは‥‥まあ‥‥」

(鍛えてますから)

「専門的な名称で言うと動力は【闘魔力学電磁転換炉(プラーナフルライトリアクター)】」

「…………」

(パンクするって‥‥)

「そしてシリウスというのは大きなくくりで、機体は多くの種類があるんだ。王国正式採用機【フォーマルハウト】が例だね」

(機体名がそれぞれあるのか…………)

「じゃあ、実戦訓練を始めようか」

「…………おう!」

ヴァルノウド家管理のシリウス格納庫。そこにある機体は二機。

「これがGZ-四弐式【フォーマルハウト】だよ」

「おぉ…………」

銀の機体。全長十六・五M。青いデュアルアイのカメラは太陽光でキラリと光る。

そしてもう一機。

「あっちの機体は…………?」

「あれは僕の専用機、ZXG-X0010【ジークウェスタ】」

「型番が違いすぎやしないか?」

「ああ、それは【セイバーシリーズ】だからね」

「セイバー?」

「要するに主戦力、エース機ということだよ」

おう…………すげぇな‥‥」

ジークウェスタは、細身に黒いボディの機体だ。背中に二本の実体剣を装備している。

「これは当たらなければどうということはない、を体現している機体だよ。速度と軽さに特化していて…………と、こっちの機体はあまり関係ないね」

「フォーマルハウトはどんな機体なんだ?」

「そっちはあらゆる機能のバランスが取れていてどんな環境でも戦えるんだ」

「へー…………」

「両腕についている接近戦武装【バンカーブレード】が大きな特徴で、格闘戦で最も活躍する武装……なんだけど」

「…………まさか何か欠陥でもあるのか?」

「いいや、欠陥という程じゃないんだけど……シリウスでの格闘戦は難しく、近接戦は手に持つタイプの剣を使う人が多いんだよね」

「そうなのか………けど確かに騎士って剣を掲げてるイメージがあるな」

「でも、君は武器だけじゃなく格闘も得意だろう?」

「ああ、そうだな…………」

「じゃあ、そろそろ乗ろうか」

「おし!」

脚立を上り、コックピットに搭乗する。

モニターは全天周モニターらしく、操縦席以外はブラックアウトとなっている。

座席に座ると、アルタイルが声を掛けてくる。

「まず起動だよ。右にある赤いスイッチを押してくれ、その後に操縦桿の両手のトリガーを同時に引くんだ」

「分かった………」

指示通りにやると、モニターに景色が映り機体が稼働する。

操縦桿は戦闘機のそれに近く、どうやって動かすのか想像できない。

「凄い‥‥うおっ‥‥?」

身体から何かを引っ張られる感覚がする。力が少し抜けるような‥‥。

「闘気と魔力を吸っているんだ、エネルギー源だからね」

「なるほど、どおりで…………」

「出撃といこうか」

「はい、先生!」

「一番カタパルトから出る。アルタイル・レアン・ヴァルノウド、ジークウェスタ、行きます」

カタパルトからジークウェスタが出撃する。

「よし、そうやるんだな」

俺もそれに倣う。

「オトハナ・アラタ、フォーマルハウト‥‥行きます!」

加速によるGが襲ってくる。耐Gスーツ無しとは中々ハードだ。

「行くよアラタ!」

「どこに⁉」

「…………魔の森へ!」

「…………⁉」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る