第23話【異世界友達第一号】

「取り敢えず礼を言わせてくれ、助かった。ありがとう」

剣聖に頭を下げ礼を言うと、相手は爽やかにこう言った。

「いいや、礼を言うのはこちらの方さ。王女捜索と盗賊団撲滅を同時にできたんだからね」

(それ、お前ひとりで出来たんじゃ…………)

「というか、この子お姫様なのか?」

疑問に思っていたが、彼女はあちらの世界でイギリス住まいだったはずだ。

「ああ、正確に言うと第一王女‥‥つまり王位継承権第一位の重鎮だ」

「いっ……⁉」

(嘘だろぉ……蹴飛ばしちゃったよ王族…………)

「あのー‥‥俺不敬罪とかにならないよね…………?」

「もちろん。協力してくれた恩人に罪を被せる程この国は腐っていないよ」

「…………」

(‥‥この世界の情報が欲しい‥‥)

「なぁ、アルタイル‥‥」

「なんだい?」

「俺、記憶が無いんだ‥‥」

「なんだって?」

この場ではこう乗り切るしかない。

どっちみちこの世界に関する記憶は何一つないのだから、記憶喪失といってもいい。

「さっき目覚めて、その後すぐに襲われて‥‥」

「そうだったのか‥‥それは大変だったね‥‥じゃあ、簡単にこの国の説明をしようか」

アルタイルはいろんな事を教えてくれた。

この国、【コスモス王国】は世界有数の大国であること、リーリルがそこの王族であること、自分が国に仕える【王国騎士団】の一人であること等々。

正直ここまで教えてもらえるとは思っていなかった。‥‥どれだけ人がいいんだよ。

「アラタ、お金に困っているなら家に来るといい、お客として迎えよう」

「本当か⁉ 助かる…………」

「職もそのうち探そう」

「何から何まで‥‥ありがとう!」

「―――友達だからね、当然さ」

「…………!」

(友達‥‥)

「じゃあ、お前は俺の友達第一号だ!」

「ああ、よろしく。友よ」

固い握手の後、二人で王都に向かって歩き出した。

リーリルと頭領はアルタイルが【運搬の加護】で浮かして運んでいる。

他の団員は逃げてしまったようだが、アルタイルは『無理に追っても犠牲が増えるだけ』と言って追おうとはしなかった。騎士にしては優しすぎるような気がする。

(というか、言葉が当たり前に通じてる…………)

日本語が文化として存在しているのか? アルタイルの言う【大陸共通言語】は日本語と同一のものなのか?

謎はまだまだ増えるばかりだ。何一つ解決していない。帰り方という謎も。

街、王都に着くと大きな門があった。

「ちょっと待ってて」とアルタイルが門を守る兵士に説明すると、扉が開いた。

「ここが王都、セルトリス」

「…………すげぇ……」

正に中世ヨーロッパ。そこに魔法等のファンタジーが合わさった世界。

(本当の、異世界………!)

「さてと、じゃあ王城に行こうか」

「えっ、ええ⁉」

「……何を驚いてるの?」

「いやいや、王様の城に行くって、誰でも驚くって!」

「君も連れて行かないと説明ができないよ…………」

「それは、そうだけど…………」

「別に怖い人じゃないから、王様は」

「ホントか………?」

「ほんとほんと。いい人だよ」

アルタイルについて行くと、大きな城が見えてきた。

でかい。今まで見てきたどんな家より大きい。ただ雰囲気は、リーリルの家に近かった。

そこからは展開が早く進み、すぐに謁見することになった。

「くれぐれも失礼のないようにね」

「分かってる。………流石に死ぬ真似はしない…………」

「それならいいんだけど」

「剣聖様、お客人、ご入室願います」

「はい!」

「………はいっ!」

目の前の扉が開く。今更だが、こんな服装でよかったのだろうか。

普段着のパーカー…………駄目じゃね?

「剣聖アルタイルよ、その者が報告にあった勇敢な者か?」

王の間に入ると、様々な人が待っていた。その頂点に、現コスモス王国国王の姿があった。

アルタイルから聞いた名前は確か、【ガイアス・フィニスター・コスモス】。

「は、我が友、オトハナ・アラタで御座います」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る