第22話【最強の騎士、アルタイル・レアン・ヴァルノウド】

「あんたは…………?」


「僕は【アルタイル・レアン・ヴァルノウド】。騎士さ」


「騎士…………」


(本当にいるんだ…………)


呆気に取られていると、その青年は笑いかけてきた。


「君の声が聞こえた、助けを呼んだのは正解だよ」


「この森にどうやって…………」


頭領の問いにアルタイルはこう答えた。


「僕には【窮地の加護】というものが宿っていてね。誰かの助けを遠くからでも把握できるのさ…………まあ、騎士にとっては最高の恩恵だね」


「流石、【何でもあり騎士】ね」


「その渾名は好きではないな、僕でも出来ないことくらいある。ただ‥‥貴方を連れ戻すくらいのことは出来ますよ、リーリル王女」


「…………えっ?」


(…………今、なんて言った…………? リーリル? そんな、そんなことって‥‥)


確かに髪色と目以外はあの時見た顔と似ている。順当に成長すればこの顔になるだろう。


―――ただ、何故この世界にいる?


「王女‥‥? 何を言っているの?」


当の本人は何も知らないようだ。おかしい、まるで記憶が無いよう‥‥。


「‥‥どうやら本当に記憶が無いらしいですね。‥‥盗賊【鋼の風】頭領、ランス・レングリッド、貴方を拘束します」


「…………やってみろぉ、若造」


騎士と盗賊ならこうなるのは当然のことだ。ただ、リーリルと呼ばれた少女はアルタイルに抵抗する気のようだ。


「私だって、【鋼の風】の魔法使いよ!」


「………分かりました。では、実力行使といきましょう」


「おぅらああああああああ!」


頭領の巨大戦斧の一撃を素手で受け止めた剣聖は、それを簡単に砕いてみせた。


「‥‥バケモンが‥‥!」


笑いながらも苦虫を噛み潰したような声を出す頭領に剣聖は、


「バケモン、と呼ばれるのは流石に傷付きますよ。僕も人間なんですから」


(大質量の鉄を受け止める人間がいるのかよ⁉)


アルタイルに気を取られていたが、リーリルが氷を生成していた。


「魔法‥‥本当に…………」


(異世界…………)


「【レ・リフティニー】!」


複数の氷塊がアルタイルに迫る。しかし剣聖はその氷槍を見ずに砕いた。


「うそ…………」


「【反撃の加護】さ」


「チートかよ…………」


思わず漏らした声が、俺の心を呼び覚ました。


(こんなところで、止まれない…………!)


剣聖がどれだけ凄くても、今の彼は剣を持っていない。

剣聖が剣を持たないってどうなの、とは思うが緊急時の救援に来てもらったので何も言えない。

不思議と身体は軽い。完璧と言っていいほど調子がいい。【全力】を出せる。

……前に医師に調べてもらったことがある。俺は常人より脳の制限が緩いらしい。

それによって自分の意志で限界を超えられるそうだ。ただ、何度も使うと身体が壊れると。

最近【全力】を使ったのは事故の時、運動会の時、穴の時、そしてさっきの殲滅。

一日に三回も限界を超えたら普通なら全身筋肉痛で動けなくなるだろう。だけど、今なら。


(【一度死んで未来に飛び、生まれ変わった今】なら、いける…………!)


「助けを呼んで終わりってのもだらしねェ………〝俺〟もこの命、賭けさせてもらう」


黄金の髪に赤い目の青年は、少し驚いた顔をして笑った。


「君、名前は?」


「アラタ。―――フジモト・アラタだ!」


「僕は騎士、アルタイル・レアン・ヴァルノウド。よろしく、勇気ある人」


「………光栄です、騎士様」


「そんな大層な言い方はよしてくれ、僕のことはアルタイルと呼んでほしい」


「そう? ……わかった……じゃあ、助けてもらうぜ、アルタイル」


「―――任せてくれ!」


頭領は新たな武器を、少女は新たな氷を。

騎士は転がっていたボロボロな剣を。俺は己の肉体を。

それぞれの武器を構え、睨み合う。


「アラタ、あの頭領は僕がやる、王女の方を頼めるかい?」


「ああ、俺もそっちの方がいい」


「死にさらせぇ、騎士ぃ!」


「あなたは私のもの、誰にも渡さない」


(―――【全力解放】……!)


本日三度目の解放。スイッチが切り替わる。


「オレが相手だぜ、リーリル」


「少し馴れ馴れしくない? あなたはいったい…………何者なの?」


「さっきも言ったろ………アラタだって」


「どこかで聞いたことがあるような‥‥ううん、会ったこと、あるよね…………?」


「――――さぁな」


次の瞬間には蹴りを繰り出していた。


普通なら一撃で人を気絶さえる威力、だがそれは氷壁に阻まれていた。


「魔法‥‥厄介だな」


「近付かれると私は弱いの」


「…………そーゆーのは言わねぇー方がいいぞ?」

「‥‥あっ!」

「はぁ‥‥変わらねーなー、お前は…………なぁ、リーリル」


「! やっぱり、私のこと知って‥‥」


「オレに勝ってから聞け」


「………そのつもり!」


(氷の矢数十本‥‥一つずつ壊すより‥‥)


「速度で圧倒するか」


全身のバネに力を溜め、一気に解放する。


「上げるぜ」


リハーサルの時と比較できない速度。万能感とはこれのことを言うのだろう。


(今なら何でもできる気がする)


後ろから襲い掛かる氷の雨。


「それはもう見た」


高速移動で躱してみせた。オレがオレなのかも分からない、それほど力が湧いてくる。


「壁作っておけよ、リーリル」


「…………?」


疑問を浮かべているリーリルの顔は、あの頃と何も変わっていない。


やっぱり、そこにいるんだな、リーリル。


「だけど今は、六花(アイツ)の為に帰らなきゃいけねーんだ」


「アイツ‥‥?」


「オレが愛する女だよぉー!」


「………愛‥‥?」



叫びと同時。前方に向けて跳躍していた。


「オ、……ラぁ!」


回転蹴りで氷を砕く。そして蹴りによって発生した風圧はリーリルを気絶させた。


「アラタ!」


アルタイルから声を掛けられる。


「終わったかい!」


「ああ!」


未だ剣で防ぎ続けている騎士に向かって言葉を返す。


「なら僕も、終わらせよう」


「………何をする気だ‥‥!」


「一撃を」


頭領が怯み、一歩後ろに下がる。

騎士はその手に握る剣を構えた。すると剣に光が宿る。


「闘気‥‥っ」


頭領はそれが何か分かっている様子だ。


そしてもう一つ、空間から剣に集まる光が。


「精霊よ、僕に力を」


(精霊までいるのか‥‥?)


「――――‥‥ッ!」


無言で振るわれたその一閃は頭領を吹き飛ばし、その背後にあった木々を切り伏せた。


「マジかよ‥‥」

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