第一章最終話・第20話【つながりがつながる、えにしのつながり、わたりのつながり】
ショッピングモール「クラフモール」福岡店。家の近所で徒歩五分ほどの距離だ。
近く品ぞろいの良い場所だが、俺はここに来るのはあまり好きではなかった。
何故ならカップルが多いからだ。右を見ても左を見ても桃色。
そこが俺が気持ちよく過ごせる場所であるはずがなく、自分から進んで来たことはなかった。
ただし、今日は特別だ。いつもの礼ということで六花と一緒に来ている。
これ礼になっているのだろうか、むしろご褒美じゃね?
「さあ、行きましょう。新くん」
「ああ‥‥」
六花に手を引かれ、ショッピングを楽しんでいた。ここは分岐点。
「新くん、今日は楽しいですか?」
「もちろんだよ。ただ‥‥」
「ただ?」
「この髪型がな‥‥」
そう、俺は今髪を上げてかなりカッコよく(見えるように)している。
理由は簡単、学校の生徒にバレないように。
俺達が友人程度の関りだとバレている状況で誰かに会うのは流石に誤魔化せないしキツイ。
コーデは六花に任せたおかげでいつもよりいい男になっているのではなかろうか。
まあ、俺がカッコいい筈がないのだが。俺は凡人、それを忘れてはならない。
「私はいいと思います。格好いいです」
「そうか? うれしいよ…………」
「今日は私の騎士様ですね、新くん」
「おう。お前を守ってやる。これからもずっとな」
絶対に、この約束は守る。そう決心した、なのに。
――――ゾッ…………、
「は………?」
世界はなんて不条理。なんて理不尽。今でなくていいじゃないか。なんで俺達なんだ。
俺が、【オレ】がいったい何をしたって言うんだ。
ショッピングモールの、俺達の目の前に現れたのは、丸い真っ黒の穴。
「なんだよ、なんなんだよ‥‥これ…………!」
その穴は引力を持っていた。引き込まれる。
「きゃっ………!」
筋力の弱い六花が強く引かれている。このままでは、六花が――――、
(………ブラックホール? いや、地上に現れる筈がない、それにあまりにも弱すぎる)
光を逃がさない超重力を持つあれが、こんな弱い筈がない。
(何かと考えるだけ無駄か‥‥今は―――)
「六花、俺の手を離すなよ!」
「…………っ…………はいっ!」
(つってもどうする……この穴の力は俺より圧倒的に上だぞ‥‥―――もう一回…………もう一度だけ、俺に力を…………貸してくれ……!)
血が熱い。肉が燃えるようだ。全身が痛む。前回の反動は完治していない。ただ痛みは、オレがここでやめていい理由にはならない。
「…………うおおおおおおあああああああ――――――ッ!」
痛みなんて感じるだけ無駄だ。リミッターなんて外せ。限界なんて取り払え、超えていけ。
今、俺(オレ)史上最高の怪力を。
「はああああああ――――――ッ!」
(いける! このまま…………!)
しかし、現実は甘くない。穴はドンドン大きさを増していく。
時間すら巻き込むそのうねりは力を増す。
「新くん! 離してください!」
「何を言って‥‥⁉」
「このままでは新くんまで巻き込まれてしまいます! …………早く!」
「ざっけんな………そんなこと…………できるはず…………ねぇだろうがああああ!」
「新くん……! お願いですから………早く……離して‥‥!」
「それは無理な話だ! お前が俺を突き放したとしても、俺は絶対にお前の隣を歩く!」
「でも、このままじゃ‥‥」
(…………覚悟を決めろ…………――――音花新!)
「………ありがとな、六花!」
「えっ‥‥」
足腰の力を振り絞り半回転。六花と俺の位置を入れ替えた。
「短い時間だったけど、俺を色々助けてくれてありがとう」
「駄目‥‥ダメです! ‥‥新くん!」
「もう無理だ。‥‥けど、俺はいつか、きっと帰ってくる」
(‥‥この穴がブラックホールと同質のものなら死んじまうけど‥‥そうじゃないよな)
俺はこんな穴に閉じ込められて孤独死するつもりは毛頭ない。
「大丈夫だよ六花、俺も頑張ってみるから。‥‥愛してる」
「…………!」
俺と六花の手が離れる。穴に吸い込まれていく。
背中で感じるこの感覚は、不思議と嫌な感じじゃなかった。
押しつぶされる気配はない。むしろ…………落ちて行っている気がする。
(―――ああ、ここで死ぬんだな)
―――諦めるのか?
――――諦めたくないさ、死にたくないよ。もっと、六花と一緒にいたいよ…………!
――――なら、抗って見せろ。
――――どうやって…………!
――――その答えは既に『音花新(おまえ)』の中にあるはずだ。
――――俺の、中に?
――――お前はもう、その力を知っている。
――――力…………
――――授かっているだろう、愛を。
――――俺の愛は、六花の物だ!
――――なら、お前の願いを叫べ。何がしたい、その先どうしたい。お前はいったい何者だ!
――――生きたい! 六花といつもの日常を歩いていきたい! …………俺は音花新!白雪六花を――――――愛する男だ!
―――――よく言った。…………お前に与えられる力はただ一つ。その名を『―――――』。またの名を…………〝タイムスキップ〟。
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今までのお話はちょっと長すぎるプロローグです。
原稿用紙換算でおよそ40ページものプロローグにお付き合いいただきありがとうございました。
これより「白逃げ」は本編に入ります。これからもお付き合い願います。
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