第5話
今日はいやに疲れた。
大学の時から引っ越していないワンルームのマンションは、通勤に電車で一時間程度かかるが普通に通勤圏内なんだとか。
電車に揺られるのは嫌いじゃない。
満員電車は苦手だけれど、窓の外を流れる景色を見ていると心が空っぽになる感じで心地よいから。
歩いてすぐの駅へ向かおうとして、バッグの中で携帯が鳴ったことに気付いた。
「もしもし、
『透子!』
電話に出ると、聞きなれた男の声が聞こえてきた。
『透子、会いたい』
今日はゆっくりお風呂に入って、コンビニで小さな缶ビールを買って、そうそう冷蔵庫に昨日の残りのキンピラが…
「…OK!いいよ。どこに行く?」
『やった!いつもの店で待ってるから』
電話を切ってそのまま駅へと向かい、電車に乗る。
朝のスシ詰め状態ではないものの、流石夕方だけあって車内は混んでいる。
地下鉄はあまり好きじゃない。
景色が見えないから。
正面の真っ暗な窓に、吊り革を持って立つ女が一人映っている。
肩より少し長い黒髪。白い肌。常に潤んだ瞳。
昔言われたことがある『男ウケする顔』がどういうものかはわからないけれど、正面に映る姿が自分だ。
その表情がどこか浮かないものに見えたのは、慣れない仕事に疲れたせいだろう。
電車が地下から抜けた。
オフィス街から離れて少し落ち着いた街並みが窓に広がる。
窓に映っていた無表情な女の姿は消えていた。
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