第4話
業務の手伝いにお茶くみ。
要するに雑用係だ。
入社していきなり重要な仕事が出来るわけでもなければ、それを望んで意気揚揚と入社してきたわけでもない。
自立して生活さえ出来ればいいのだ。
お茶を配り、私も席に戻ると途中になっていた業務を再開させた。
「お疲れさん、今日は疲れただろう。続きは明日でいいから、早く帰って休んで」
木下さんにそう声をかけられて、就業時間が終わっていたことに気付く。
皆早々に出て行ったようで、広くはないが小奇麗なオフィスには私と木下さん、それにもう一人男性が入口に立っていた。
「木下、行くか」
彼を誘いにきたようだ。
私は慌てて帰り支度を始める。
「君が広報の新入社員?」
不意に自分の名前を呼ばれて顔をあげた。
少し軽そうな…かと言って嫌味な感じはしない。
一見普通に見える凝ったディティールのスーツをお洒落に着こなしており、それがとても似合っている。
「は、はい。高嶋透子といいます。よろしくお願いします」
椅子から立ちあがり頭を下げた。
「営業の
営業、と言われて妙に納得する。
愛想のいい笑顔やノリの良さそうな雰囲気など、一種独特の雰囲気を出していて所謂『デキる男』としての自信に満ちあふれた人だ。
一緒に飲みに行く?と半分冗談めかしたような江藤さんの誘いを、木下さんがやんわりと断ってくれ、二人は部屋を出て行った。
「…ふぅ」
無意識に溜息をつくと、大きく伸びをしてみた。
ガランとした仕事場を見渡してみるが、まだここが自分の職場だと馴染みはない。
初日なんだから当たり前か。
…そろそろ帰ろう。
電気を消して部屋に鍵をかけ、一回の守衛室へ預けて外へと出た。
夕暮れとはいえまだまだ明るい。
オフィス街はスーツ姿の人間で溢れていた。
その中には、自分と同じ社会人一年生と思われるような若者も歩いている。
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