神殺しは罪なのか?

@Ueha_su0320

第1話 神の使い

惨憺たる戦場。とてつもない量の人が死んでいる。

ある者は四肢を切断され、またある者は首から上が吹き飛んでいる。そして辺りには血の匂いのみが漂っている。

「状況は!?」

「第1〜第5小隊壊滅!残りは第6と第7だけです!」

「壊滅だと?いったい何があった?」

「『プリンセス』です。あいつが来ました」

「『テミロス』……!やむを得ん、全隊、撤退!」

「「了解!」」

上官らしき者の命令に従い、生き残った小隊が撤退していく。

「おい!何してるレイ!撤退だ!」

「はい!」

レイと呼ばれた白髪の少年が、仲間と共に撤退をしようとしたその時、最後まで前を見ていた彼だけが気付いた。『プリンセス』による攻撃を。

「危ない!」

警告。しかし遅かった。彼の目の前で小隊は塵一つ残さず消えた。

「そん…な……」

『プリンセス』の使う兵器は長射程かつ超威力のビーム砲。人の目では視認できない位置からの攻撃。避けれるわけが無い。

「Grrrrrrrrr……」

「チッ、『テラー』!早く逃げないと!」

彼に立ち止まっている時間は無い。彼は走った。走って走って走り続けた。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

そんな彼を殺意に満ちた様々な容貌の獣達が追いかける。森の木々を巧みに使い、避けてはいるが、見たところこの先は少し開けたところらしい。つまり、小細工は使えない。死を覚悟した彼は、それでも少しでも希望を持って、走った。

「はぁ、はぁ……は?」

森を抜けたレイの目の前に広がっていたのは、この場所には全く似つかわしくない一面の花畑。そしてその中心には古びた遺跡が建っている。

「はぁ、なんだ……これ」

思わず足を止める。けれども後ろからは死が迫ってきている。

「あそこなら……!」

レイは花畑の中心にある遺跡に向け、走り出した。傷だらけの足で、花を踏み散らしながら一心不乱に走った。

「はぁ、はぁ」

何とか中に入れた。理由は分からないがどうやら獣たちはここまで入って来れないらしい。

「ここは……」

辺りを見渡すと、見覚えのある壁面の模様が目に入る。いつぞやどこかの文献で見たことがあるが、詳しくは思い出せない。

「………………」

目の前に広がるのは暗闇。けれど戻ることは自殺行為だ。進むしかない。レイは暗闇の中へ足を踏み入れた。



10分ほど歩いた頃だろうか、少し開けたところに出た。そこにも外と同じような花が咲いていて、真ん中にポツンとテーブルと椅子が2つが置いてある。足元を見ると、テーブルへと小道が続いている。

「進めってことか?」

もとよりレイに前進以外の選択肢は無い。警戒しながらも道なりに進み、花畑の真ん中に着いた。そこに置かれた椅子は、まるで「座れ」と言わんばかりに佇んでいる。

「まぁ座った瞬間死ぬとかはないだろうし……座るか」

一応警戒は解かずに座る。

「……………………何も起きないよなそりゃ」

そう言ってため息をつきながら立ち上がろうとしたその時。

「やぁ」

聞こえるはずのない声に思わず固まる。顔を上げるとそこには女性が立っていた。

「え?」

「初めまして」

「は、初めまして?」

「私が言うのもなんだけど、こんな怪しさ満点の椅子に座るのどうかと思うよ?」

「…………誰?」

レイには全く見覚えがなかった。髪は少し赤みがかった黒で、顔は控えめに言っても美しい。美の女神もかくやというレベル。しかし、彼は不安を感じていた。目の前にいる女性が含みのある笑みをしていたのだ。

「私の名前はリーラ。君は?」

「レイ、レイ・カグナ。」

「レイか……よろしくね」

「よ、よろしく……じゃなくて!貴方誰!?」

「ん?神」

「神!?」

「うん神」

しれっと言っているが、割とヤバいことを言っているぞこの人。

「神が何なのか知ってるでしょ?」

「流石にそれは知ってるけど……」

「うーん……よし復習しよう!」

「復習?」

「うん。人と神とで常識が異なってたりするしね。あとは資格があるか判断するため」

「そ、そうなのか……」

相槌を打っているがこの男、ほとんど理解していないのである。適当に頷いてたら話が進んでいた。

「まずはこの世界の基礎の基礎から。この世界は、『善神』と『魔神』の2つの陣営に別れている。そしてそれぞれの臣下たる神の使いが存在する。『善神』の臣下である君たち人間こと『ヒューマン』。『魔神』の臣下の『テラー』。これは君の知識と合ってる?」

「あぁ、合ってる」

そう、この世界では、はるか昔に神達が2つの陣営に分裂し、戦争を繰り返してきた。

「そして、神の使いにはたまに神の権能を使える者が現れる。それが、」

「『適合者』」

「そう。神の力に適合した者たちをそう呼ぶ。両陣営で区別がつかないから、それぞれ魔神側を『テミロス』、善神側を『オラクル』と呼称しているね」

『適合者』。それは何かしらの外的要因、もしくは精神的要因により急に神の権能の一部を使えるようになった存在。豊穣の神なら他人を癒す力や植物を急速に成長させたりと、割とシンプルなものが多い。

「で、そんな常識的な話をして何がしたいんだよ」

「え?さっき言わなかった?資格があるかってやつ」

「そういえばそんなこと言ってたような……」

「まぁ今までの話は常識だからね、本当の質問はこれからだよ?」

「何の資格かはわからんが、答える以外の選択肢は無いんだろ?」

相手は神。適合者でもないレイ一人でどうこうできる相手じゃないことは、『プリンセス』の攻撃を見た彼自身がいちばん分かっていた。あれより強いのは絶対無理。

「わかってるじゃーん。理解力ある人嫌いじゃないよ」

「で、神様が俺に何を聞きたいんだよ」

「まぁいくつかあるからそう焦らないで。まず1つ目。君の両親はどんな人だい?」

「…………それ意味ある?」

資格云々の話のはずなのに、急に家族のことを聞いてきたぞこの神。

「ある。めちゃくちゃある。」

「あるんだ……。そうだな、親は…顔も分からない。物心つく前に俺の前から消えてた。俺にとって親は孤児院の先生だよ。」

レイは親に捨てられた身だ。孤児院の先生いわく、母親が孤児院に預けに来たらしい。母親は普通の人間で、「事情は言えないが、育てられなくなったから預かって欲しい」と言われたらしい。

「あぁ、なるほど……」

そう言うと、リーラは腑に落ちたようで、次の質問をしてきた。

「なら次の質問。君にとって、神とはなんだい?」

「……率直に言うと、よく分からん。」

「なんで?」

「学校で習うのは、神は人を導くもの、彼らに従えば幸福は約束されるとか、怪しい宗教みたいな謳い文句。初めて話した神は、怪しさ満点の遺跡の中にいた怪しさ満点の神。逆にどう理解しろと」

「へぇ、ヒューマンの学校でそんなこと学ぶんだ?」

「なので、その質問にはわからんとしか言えない」

「うーん……なら質問を変えようかな。君は、適合者とはなんだと思う?」

「一般的に知られているのは、神にその想いが認められた者ってやつだけど……違うのか?」

「いや?それは合ってるよ。私が知りたいのは君自身の考えだ。さぁ、君はどう思う?」

レイは言葉に詰まる。

(俺自身の意見……?そんなこと急に言われても出てこないんだが……。いや、そういやこの前教授に笑われたやつがあったな。ロマンチストだなんだって。)

悩みながらリーラの方をチラッと見ると、悩んでるのが面白いのかめちゃくちゃニヤニヤしてた。こいつ1回ぶん殴ろうかな。

「そうだな……。世間は想いが強ければ誰でも認められるって言ってるけど、俺はそうは思わない。」

「ほう?」

「だって、誰でも想いが強ければ神に認められて、権能っていうある種の才能を授かれるのなら、必死に努力して苦労している人達がバカみたいだろ?」

「へぇ。面白い考えだね。なるほどなるほど……。君なら、いいかもね」

最後の方になにか言った気がしたが、小声だったので、レイには聞こえなかった。

「最後の質問をしよう。」

「………………」

「君、適合者にならないか?」

「…………………………は?」

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