第2話 入学試験とデスアナル
私が異世界転生した姿である、アスーヌ・ロゼは良家のお嬢様だ。彼女は、この世界で年に数度は王族の下っ端に謁見できるほどそこそこ良い地位にいるアヌース家の次女である。
性格は、気弱で引っ込み思案――だった。
だが、その気性は180度変わってしまった。あのクソッタレ女神に私の意識をインストールされ、人格を上書きされたせいで……なんということだろう。金髪の縦ロールをからかってきた庭師の少年に出会い頭肩パンを食らわせるほど気の強い女の子に変貌してしまったのだ。
そして転生から2週間が経ったある日。それまで私のあまりの変貌ぶりに遂に気が触れたのかと心配していた両親も、意を決したのかとうとうヘモロッド学園への入学を認めてもらえた。
ヘモロッド学園について説明しておこう。ヘモロッド学園は変な名前に反して数百年の歴史を持つ、名門中の名門だ。
文武(そして魔法)に優れたエリートでなければ入学試験を受けることすら許されず、入学後も進級には定期試験や寮内での点数稼ぎなど様々なハリポタ的難関が待ち伏せているという。
そして、私にはそれら普通の学生が思い悩むこと以外に、一つの懸案事項を抱えていた。
――そう、例のスキルである。
あのスキルに関しては、本当に使いどきがないし使わずに一生を終えられるのならそれに越したことはないと言うほどに忌避感を持っている。
幸い転生してから一度もスキルを使うような場面に出くわすことはなかったが。
そうこうしている内に光陰矢の如しであっという間に時は過ぎ、私は入学試験に挑んでいた。
筆記はなんとか取れただろうが、問題はこの後である。
「えー、ゴホン。私が今期の試験を監督するトリエだ」
私たち受験生は、石畳が丁寧に敷き詰められた広場に集められた。試験官はトリエという神経質そうなメガネの男だ。
「諸君はもちろん知っていると思うが、弊学ヘモロッド学園には実技試験というものがある。腕力を使ってもよし、魔法を使ってもよし、知恵と創意工夫を凝らしてもよし。とにかく私が出す問題を解決してもらおう」
トリエは片手でメガネをクイクイと押し上げながら説明を続ける。
「今回、私が出題するのは……これだ」
コートの胸ポケットからトリエ試験官が取り出したのは、手の平サイズの金属製の箱だった。
「この箱には、魔力が込められた石――魔石が入っている。どんな方法でもいい、これを開けて中の魔石を取り出すのが今回の試験だ。ちなみにこの箱はこの世で2番目に硬い金属――パロハルコンでできている上に多数の魔術プロテクトによって密閉されており、開けるのは一般的な武術家や魔術師でも半年はかかるぞ」
「なんだ、そんなことか。簡単ですね」
すると、あまりの難易度にざわめく受験生の中からよく通る声が上がった。
「お初にお目にかかります、トリエ教官。ボクの名前はメクアといいます」
もったいぶった態度でお辞儀をしたのは、メクアを名乗る少年である。
彼のことなら噂で知っている。若干15歳にして新魔法の開発、剣術の免許皆伝……とありとあらゆる方面で名の知れた秀才だ。ちなみに顔はシャア・アズナブルにそっくりのイケメンである。
「ほう、メクアか。ではやってみなさい」
「それでは僭越ながら……」
トリエから箱を受け取ったメクアは、優雅に杖を取り出すと呪文を唱え始めた。
「イクイクアンアンギシギシアンアン……」
他の受験生たちが見守る中、メクアはその美声で呪文を唱え続ける。
「デルデルシコシコ……イクッ!」
すると、パロハルコンでできた箱がぼうっと仄かに輝き、そしてぱかりと開いたではないか。
「ふん、余裕ですよ……」
「おお……素晴らしい! では他の受験生にも箱を配るから開封に挑戦するのだ」
そして、私の前にもパロハルコンの箱が置かれた。決められた期限は1時間。それまでにこの硬い硬い箱を開けなければ……入学は絶望的だ。
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