チートスキル【デスアナル】で剣と魔法の学園を無双
不悪院
第1話 デスアナルです
迫りくるトラック。必死でハンドルを切る運転手。それが私、
親譲りの気の強さで子どもの時から損ばかりしている。これが私の自己評価だ。
その日も確か仲の良い友達とBLカップリングの話で言い合いになり、私が持ち前の気の強さで攻めを全く譲らず怒って喫茶店を飛び出して、そしてそのままトラックに轢かれてしまったという記憶だ。
「目覚めなさい」
耳元で誰かの声がする。ここはどこだろう。やっぱり地獄に堕ちたのかな?
「カドノホギク、目覚めなさい」
目を開ける。すると、私は全裸で真っ白な空間に立っていた。あの世では三途の川にいる奪衣婆に服を脱がされて罪の重さを量られると聞くけど、ぼんやり目をつぶっている間に三途の川まで流れ着いてしまったのか。
しかし。
眼の前で神々しい光を纏い、柔和な笑みを浮かべているこの女性は誰だろう。奪衣婆にしては若すぎるし綺麗すぎる気がする。着ている服の露出度は高いし、おっぱいもちょっと垂れてるけど。
「誰がオノ・ヨーコですか。ここはあの世ではありません。私は女神。あらゆる世界を管理する存在です。そして、あなたは私のうっかりミスで死んでしまいました。ごめんなさい」
「――ということは……?」
「そう! チートスキルを得て異世界転生です!」
女神の言葉を聞いた私は、思わずガッツポーズを決める。
異世界転生。冴えないキモオタクが死んだ後にチートスキルで一発逆転。雑誌の裏の怪しげな広告で買えるアクセサリー並みに疑わしかったが、まさか存在するとは。
「へへっ、女神様ぁ……。あっしに恵んでくださるチートスキルってのぁ、やっぱり最強のスキルなんで?」
生前まで無神論者だった私は途端に信仰を捨てて低姿勢になり、揉み手をしながら女神様を上目遣いで見つめる。
「急に卑しくなりましたね……。でも、もちろんです。あなたにはこの女神が見繕った最強のスキルを授け、そして剣と魔法の学園に入学させてあげましょう」
「イケメンはッ!?」
「たくさんいます。堀北真希が主演を務め、後年に前田敦子主演でリメイクされたあのドラマくらいたくさんです」
「パラダイスじゃ~~~~ん!」
女神の言葉を聞いた私は、再びガッツポーズを決める。
「それでは発表しましょう。あなたに授けるチートスキルの名を……!」
ごくり。思わずつばを飲む。
コピー。即死。死者蘇生。鑑定。空間操作。オート。神眼。回復。賢者。スキル作成。アイテムボックス。テイミング。付与。次元転移。
私の頭の中で、これまで漫画アプリで読み漁ってきたチートスキルの名前が走馬灯のように流れる。きっと歴代の主人公たちもチートスキルを貰うこの瞬間が一番緊張したに違いない。
「あなたのチートスキルは……【デスアナル】です!」
女神が何を言っているのか分からなかった。なので聞き直すことにした。
「ええっと、デスアナル……って言いました?」
「言いました。カドノホギクのチートスキルは【デスアナル】です」
「それはその、即死魔法とか死者蘇生とか……そういった類の?」
「まあ、即死っちゃあ即死かもしれませんが。誤解のないように伝えておくと、アナルは肛門のことです」
気づくと、私は女神の足にローキックを入れていた。しかも、三度、四度と。
「ちょ、痛い痛い! いやいや、凄いですよ!? デスアナル。あの最強の鋼であるオリハルコンすら一瞬で粉砕できるほどの最強最悪のアナルです」
「最悪っつってんじゃん!!」
「それは言葉の綾で――痛い痛い!」
しばらく不毛な応酬が続いた後、女神はゴホンと咳払いをした。どうやらこのクソみたいな茶番劇に決着をつけたいみたいだ。
「それでは、カドノホギク。あなたはこれから、チートスキル【デスアナル】を授けられて『アスーヌ家』の令嬢『アスーヌ・ロゼ』となり、剣と魔法の学園『ヘモロッド学園』に入学することになります! よい異世界生活を!」
いっそ地獄に送ってくれと叫ぶ私を差し置いて女神がそう言い終わると、真っ白な空間の輪郭が曖昧になり始めたことに気づいた。
こうして【デスアナル】とかいう産廃スキルを背負わされた私、門野穂菊――いや、アスーヌ・ロゼの異世界転生物語が始まったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます