『ダンジョンヒーロー』って噂されている正体不明の戦士、それ俺です

アンリミテッド

第1話 バズる希望

 私は花崎はなざき日葵ひまり。金髪のロングヘアで金眼のダンジョン配信者である。今日もいつものようにダンジョンにいる。


「こんひまり~。今日もダンジョンで配信をしていくよ」


〈こんひまり~〉

〈こんひまり~〉

〈待ってました〉

〈今日もよろしくお願いします!〉


 ダンジョン配信は今流行っている。私もその流行りに乗って始めた。最初は人が少なかったが、今では有名配信者にまでなれた。

 私はスキルにも恵まれていて、苦戦することも命の危機に瀕することも無かった。


 今日もきっと大丈夫だって心の中で決め付けていた。


「それじゃあ、早速ダンジョンを進んで行くよ」


 私はダンジョンを進み始めるのだった。




 それからダンジョンの進み具合は順調だった。出てくるモンスターをただ剣で切り裂いていく。それだけでモンスターは倒れて消滅していく。最初の頃に比べて随分手際も良くなってきた。


〈流石ひまりちゃん〉

〈もう少しで20層に到達するね〉

〈このまま進んで行こう〉


「そうだね。このまま20層に……なに、これ」


 それは19層で起きた異変であった。モンスターの死骸が転がっている。


〈うわ、なにこれ〉

〈モンスターの死骸?〉

〈あちこちに、消えてはいくんだけど〉


「……」


 私はあまりの光景に言葉を失っていた。まるで何かに蹂躙されたみたいで……。

 考え込もうとした瞬間、物凄い大きい音がした。そして次の瞬間、何かが私の方向へと飛んできた。間一髪で避けた私は剣を抜く。


「っ! これって……」


〈モンスターの死骸って……〉

〈しかもこれって20層に出てくるモンスターじゃないか!?〉

〈ひまりちゃん気を付けて!〉

〈奥に、奥に何かがいる!〉


 私は奥に目を向ける。足音が聞こえてきた。モンスターの姿が露わになった。巨大な斧を持ったモンスター、ミノタウロスが私の前に現れた。


〈ミノタウロス!?〉

〈19層には出て来ないモンスターだよ!?〉

〈これってイレギュラーじゃない!〉

〈ひまりちゃん逃げて!〉

〈逃げて逃げて!〉


 逃げろと本能が叫んでいるが、ミノタウロスは完全に私を狙っている!


「――――!!」


 ミノタウロスが雄たけびを上げて、私に急接近してきた。


「っ!」


 私は剣で受け流して、斧を回避する。力勝負じゃ私が負けるに決まっている。ここからどうにかして脱しないといけないけど、ミノタウロスは見逃す気が無いみたい。

 どうしよう。逃げるしか出来ないの!?


「――――!!」


 ミノタウロスがまた私に接近する。剣で斧を迎えようとして……斧と衝突した瞬間剣が折れた。


「えっ? っ!?!?」


 私のお腹に衝撃が走り、次は背中から衝撃が走った。ミノタウロスに蹴り飛ばされた……。


 上手く、息が、出来ない……。嫌、来ないで……。

 私は涙を流して弱音を吐く。


「嫌だ、死にたくないよ……誰か……助けて……」


 瞬間、ミノタウロスが横に吹き飛ばされる。何がなんだか分からない。

 そこには黒い人がいた。黒い、鎧みたいなのを身に纏っている。


「嗚呼、助けてやる」


 私の言葉は確かに届いていた。

 黒い人はミノタウロスに向かって駆け出して行った。私は立ち上がり、黒い人とミノタウロスの戦闘を見る。ドローンも降りてきた。


〈何あれ?〉

〈凄い、互角に戦ってる〉

〈何者なんだ?〉


 黒い人はミノタウロスと互角、いや互角以上に戦っていた。斧を避けて、一瞬の隙に拳と蹴りを叩き込んでいた。


〈もしかして、噂になっている『ダンジョンヒーロー』か?〉

〈ダンジョンヒーロー? なにそれ?〉

〈ダンジョンヒーローってあの?〉

〈教えてくれ〉


「ダンジョンヒーロー?」


〈ダンジョンヒーローっていうのは、掲示板とかで掲載されている都市伝説みたいなものです〉

〈ダンジョンで助けられた人が名付けているんだ〉

〈特徴なのは黒い体に赤と青の双眼なんだ〉


「それが、黒い人」


 黒い人はミノタウロスを押していた。連続のパンチでミノタウロスの腹部を叩き込む。ミノタウロスは後退った。

 黒い人は跳躍してキックした。ミノタウロスは大きく吹っ飛んで消滅する。魔石が地面に落ちるのだった。


 ミノタウロスを倒すなんて凄い。私じゃ手も足も出なかったのに。まだまだ私の知らないところで強い人はいるんだね。

 黒い人がこちらを見てくる。黒くて機械っぽい体に赤と青の双眼を向けていた。視聴者が言っていたのと同じ。だからこの人は、ダンジョンヒーローなんだ。ダンジョンヒーローは私に近付いて来た。


「大丈夫?」


「は、はい。大丈夫です」


「そうか。良かった」


 話すだけでも胸がドキドキする。緊張しているのかな。


「武器は壊れちゃいましたけど」


「もし良かったら1層まで送って行くよ」


「えっ、でも、迷惑じゃないですか?」


「迷惑なんかじゃないよ。ほら、それっと」


「ひゃっ!?」


 お、お姫様抱っこされてる!? ダンジョンヒーローってちょっと強引なのかな。


「そこのドローンも回収して、腕を回してくれると助かる」


「わ、分かりました」


 私は空中にあるドローンを回収して、片腕を回しました。は、配信で映っちゃった。


「それじゃあ、勢いよく行くから目と口閉じといてね」


「は、はい!」


「行くぞ!」


 ダンジョンヒーローは私を抱えて進み始めた。




 数分後、私とダンジョンヒーローはダンジョンの1層の、しかも出入り口付近まで送ってくれた。


〈羨ましいぞダンジョンヒーロー〉

〈でも助けてくれてありがとう〉

〈本当にありがとうございます〉

〈これはレアな配信になるぜ〉


 視聴者も満足気な様子だ。


「ここまで送れば大丈夫だろ。それじゃあ、俺は戻るから」


 そう言ってダンジョンヒーローは去ろうとする。私には聞きたいことがある。


「あ、あの! お名前を伺っても良いですか!」


 ダンジョンヒーローは答えました。


「『ホープ』」


「ホープさん! ありがとうございました!」


 ホープさんは手を振って、そのままダンジョンを進んで行った。


「……かっこよかったなぁ」


 私、ホープさんのファンになろうかな。

 そしてこの配信はあっという間にバズっていくのでした。




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