第4話 喰われて死ぬのだけは!!

「いや……これマジ……ウォーキングの比じゃない……」


 歩けど歩けど、見えてくるのはスタート地点と同じく草原だけ。


 風景がほとんど変わっていないし、まるで同じ場所をグルグル回っているような錯覚に陥る。

 そのうち歩けば人里か何かが見えてくるだろうと思った私に対し、そんな考えは非常に甘いと理解させるのにさほど時間かからなかった。


 誰なの、ウォーキングのつもりで歩けば問題ないって言った人! ……私だよ! 

 ウォーキングと一緒にしたのが愚かだったよ!!


「これじゃあ……人里が見える前に……干上がっちゃう……川とか……」


 もう喉がカラカラ……いち早く水分補給をしなければミイラになってしまう。

 

 ……あっ、川は見た目綺麗でも寄生虫が蔓延まんえんして飲めないんだっけ……。

 ああもう……ネルソン帝国に出る前に水飲んでおきゃよかったかなぁ……。


「……もう駄目……」


 いつしか、草原へと仰向けに倒れ込んでいた。

 澄み渡る青空はとても綺麗だけど、足がヒリヒリする私に感動する余裕などない。


「何でこんな事になったのかなぁ……運が悪いなぁ……」


 ジェラルドさんに突然召喚されて、聖女の資格がないと分かった途端に追放されて、それでこんな目的地に着くのか分からない草原を歩いて。


 ハハッ……本当に運がわるっ。

 占い見てなかったけど、絶対に最下位だったかも。


「ていうか私、食料もないし水もなくて……普通に考えてマズいよ……」


 何1つ持っていない自分は、どうみても詰んでいるとしか思えない。


 このまま人里に辿り着けなければ、待っているのは野垂れ死。

 干上がってしまうとかそんなレベルじゃない。


 ……野垂れ死……。

 正直死にたくないけど……それでも自分にはどうする事も出来ない。


 ああマズい……不吉な事が頭によぎってしまう。

 さっきまで何とかなるとか思っていたのにこのザマとは……。


「……お母さん……お父さん……」


 元の世界に残っている両親が頭に浮かぶ。


 考えないようにしていたのに、2人の事を思うと涙が出てきてしまう。


 ここで死んだら、転生とかして元の世界に帰れたりするかなぁ……。

 そうすれば2人に会えるけどなぁ……。


「……おい、人が倒れてるぞ?」


「行き倒れか?」


「いや、血色はいいから生きているな。単に昼寝してるだけじゃないのか?」


 ん? 人の声……しかも私の方に近付いてくる?


 でもこの匂い、何なんだろう?

 まるで動物園で嗅ぐ獣臭さというか……気になって顔を上げてみると、


 ――グルゥ……。


「…………」


 ――……?


「…………ギャアアアアアアアアアア!!!」


 ――……!!?


 私の目の前に怪物がいるうううううううう!!!

 

 やば!! 喰われる!! 喰われて死ぬのだけは!!


「ダハハハハハハ!! こいつワイバーン見て驚いてやんの!!」


「ワイバーンも見た事ないんか!? さては田舎の出か!?」


「えっ、えっ!?」


 バッと振り向いてみると、怪物の横に3人の男性が立っていた。


 スキンヘッドとか頭のバンダナとか色々な特徴があるものの、揃いも揃って鎧らしきものを纏っている。

 これってWEB小説によくある……、


「冒険者?」


「おっ、それは分かるんだ。ただワイバーンに驚くのは意外なんだがな」


「まぁそりゃ、寝ているところを覗かれたらなぁ。それでもあの驚きようは異常なんだが」


「ワ、ワイバーン……?」


 もう1回怪物を見てみると、まず頭部が恐竜を思わせる。

 前脚代わりの巨大な翼、逆関節の後脚、棘の付いた長い尻尾、そして私達人間より二回りある巨体。


 ああ、確かにワイバーンだ。

 某ハンティングゲームをよくやっていたから分かるっちゃ分かる。

 

 さすがに、大きさはあちらよりかなり小さいけど。


「あの、もしかしてペットか何かですか? 一緒にいるって事は?」


「ペット? 『竜種』は冒険者のお供として有名な奴だぞ? そんな事も知らんのか?」


「やっぱり田舎の出か? よく見ると、服装もちょっと変わっているみたいだしよぉ」


 ……何だがよく分からないけど、とにかくワイバーンは味方って事かな?

 それなら安心だと安堵を吐くと、不意に冒険者の1人が尋ねてくる。


「ところで嬢ちゃん、こんな草原で何してたんよ? ここは近くのネルソン帝国って所以外何もないってのに」


「えっと、それは……」


「あー、皆まで言うな。手ぶらでこんな所にいるってこたぁ、訳ありに違いねぇからな。そんであんた、どっかに行く予定とかあったりするんか?」


「……トラヴィス王国ってところに……」


「なるほど、俺達と同じなんか。だったら俺達と一緒にトラヴィスに向かわねぇか? もちろん報酬は払ってもらうがな」


「俺達は泣く子も黙る冒険者。女の子の護衛なんて朝飯ってよ!」


「どうだい、悪い話じゃねぇと思うんだが?」


「え? ええっと……」


 本来なら願ってもないチャンスだけど……。

 でもさすがに、男の人達と一緒に行くのはちょっと不安……。

 

 かと言って、何もない自分がトラヴィス王国に向かうのも不可能な訳で。 

 いっその事、この人達に賭けるべきか? でもやっぱりなぁ……。


 ――……! オ゛オォン!! オ゛オォン!! オ゛オォン!!


 その時、ワイバーンが突然オットセイみたいな声を出してきた。

 それを聞いた途端、何故か慌ただしくなる冒険者の方々。


「この鳴き声! おい襲撃だ! 用心しろ!!」


「えっ、どういう事ですか?」


「魔物だよ!! こいつの出した鳴き声な、その接近を意味してるんだ!!」


「あんたは邪魔になるから後方に下がれ!!」


「魔物……」


 ジェラルドさんの話にもあったけど、やっぱりこの世界に魔物がいるんだ。


 というかこの人達に合流できなかったら、その魔物の餌食になっていたと。

 運が良いのやら悪いのやら……。


「っ! 来たぞ!!」


 そんな事を思っていたら、冒険者の1人が目の前の丘を指差していた。

 そこからぬうっと覗き込んでくる、緑色をした鬼の顔立ち。


 あーアレか。これは私でも分かる。


「ゴブリンだ! 皆、武器を抜け!!」


 やっぱりゴブリンだ。

 異世界ファンタジーではゴブリンは最弱だし何とかなる……、


「……うえっ?」


 そのゴブリンが全身を出した瞬間、私は目を疑った。


 普通ゴブリンというのは、人間の半分ほどの身長。

 にも関わらず、そのゴブリンとされる魔物は……私達の……。


「…………でかっ!!??」


 何でゴブリンがこんな巨大なんだああああああ!!??

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