第3話 きっと何とかなる!
《トラヴィス王国の王女side》
「おや姫様、こちらに来るとは珍しい。どこかに向かわれるのですか?」
「例の倉庫です。やはりアレが気がかりなもので」
「さようですか。何が起こるのか分かりませんので、どうかお気を付けて」
「ありがとうございます」
私は王女――エリカ・トラヴィリナ。
今は国王である父の補佐を任されている身で、いずれは父の跡に継ぐ予定だ。
そして私達が治めている国こそが、この『トラヴィス王国』。
規模が小さく周りから「小国」とは呼ばれているものの、民度が非常に高く住みやすい国とも評されている。
国力も申し分なく、森や山といった自然豊かさも特徴的。
……まぁ、そういう所には大抵魔物がいるから油断は出来ないが。
とにかく、私はそんな美しい国が大好きだ。
周りが小国と
生まれ育ったこの国を、何よりも誇りにしているのだ。
そんな私が使用人と会話してしばらく歩けば、大きな倉庫が見えてくる。
扉を開ければ、薄暗い空間の中で巨大な物体が1つ。
これが、私がここに来てまで見たかったものだ。
「相変わらず威厳のある姿をしているわね……」
物体というより機体と言うべきか。
これにはファフニールという名前があり、元々はダンジョンの奥深くに存在していた物を冒険者に依頼して回収させたものだ。
これに乗るには「聖女の資格がある魔力豊富な女性」という条件が必要らしい。
なのでその聖女がいないかと国中に候補をかけたのだが、全くもって
かく言う私も乗ったのはいいものの、起動はおろか反応すらなかったのだ。
これでは聖女の象徴というより、ただの置物当然。
私がやれやれとため息を吐いたせいか、後ろから足音が聞こえてきた事に気付くの遅れてしまった。
「ここにいたのか、エリカ」
「お父様……。ええ、ファフニールが気になったものでして……」
入ってきたのは、私の父でありトラヴィス王国の王――ランド・トラヴィリナ。
私と同じ銀髪と髭をたくわえた
王としての手腕は高く、国民からの信頼も厚い。
自慢の父とも言え、最も尊敬している存在だ。
「この機体から膨大な魔力が放たれているからな、常人では考えられないレベルの。お前が気になるのも無理はないさ」
「おっしゃる通りです。常に魔力の波動が、肌で感じられます」
このファフニールという機体。
どうもそれ自体に魔力が内包されているのだが、それがどの冒険者とは比べ物にならないのだ。
ダンジョンで眠っている魔力を秘めた宝剣や魔剣とは訳が違う。
こんなの制御できる人間がいるとすれば、それはもう人間の範疇でないだろう。
「それにこの姿が妙に引っかかる。抽象的な意味合いがあるのか、それともそれ相応の力があるのか……」
「……神々が、意味もなくこの姿にするとは思えないですからね……」
そして私達が目に引くのが、このファフニールの外観だ。
鋭い牙を持った口、長い首、鋭い鉤爪、翼、尻尾。
そう、それはまさしく……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
《釈城優愛side》
「……はぁ」
どうしてこうなった……。
さっきジェラルドさんに怒られた後、私は2人の兵士と一緒に城下町を歩いていた。
これから城下町を出入りする門まで行って追放するつもりらしい。なんて理不尽な……。
「あの……ここまで来て何ですけど、元の世界に帰すとかなかったんでしょうか? わざわざ追放だなんて……」
町中を歩いている最中、私はそう尋ねていた。
本当に今更だけど、自分の世界から召喚されるのなら元に返す方法だってあるはず……。
「元の世界? 召喚魔法は片道だから帰る事できねぇぞ」
「そうそう。そもそもジェラルド様は今、召喚魔術師の拷問で忙しいからな。むしろ追放で済まされた分、あんたは運がいいよ」
「というかアレだよな。召喚魔術師の中に女性もいたっけ。つまり……」
「ああ、そういう事だよな。……あっ、今のは聞かなかった事にしてくれ。女性のあんたからすればいい話じゃないからな」
「……はい」
聞いた私が馬鹿でしたよ……。
というか拷問って……つまりジェラルドさんが最初に見せた優しそうな感じは偽りの物で、実際は酷い性格という事に。
そもそも町中ですれ違う人達に活気がないし、建物も所々ひびが入っている。
さらに路地裏を見てみれば、身なりのよくない大人達がうずくまっているみたいだ。
ジェラルドさんという皇帝がどういう人物なのか、この町の風景を見れば手に取るように分かる。
あの人から追放を受けて逆に正解だったかもしれん……。
「城下町門だ。あとは自分1人で何とかしな、ファフニールを動かせなかった役立たずさん」
「上手く隣国のトラヴィス王国に辿り着くのを祈ってるよ。行き倒れる前にな」
見えてきた門は既に開いていて、その先には草原が地面にぶちまけたように広がっている。
こんな何もない場所を1人で行って、しかも無一文で……。
少しばかり待ったを言いたかったけど、その時には城門が軋み音を立てながら閉じられていった。
バアアアアンン!!
「…………」
ハッキリ言って、これはムリゲーじゃないかな……。
運よく誰かに拾わなければ、行き倒れ間違いなしだって……。
でも兵士の人、隣国とか何とかって言っていたような。
どれくらいの距離なのかは分からないけど、そこに上手く辿り着けれたら……?
「……ここで立ち尽くすよりかはマシかな……」
私は「隣国に向かう」という選択を取る事にした。
この帝国にいても仕方ないしね。
意を決して、見渡す限りの草原を歩き続ける。
大丈夫。私は週に1回はウォーキングしているし、学校と自宅を20分間往復している。
こんなのちょっとしたウォーキングだと思えばいいんだ! きっと何とかなる!
「……これアカン……足が死ぬ……」
どれくらい歩いていたのか分からないけど、次第に自分の足が悲鳴を上げていた。
20分の登下校とかウォーキングとかと一緒にしていた私が馬鹿……いや大馬鹿でした……。
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