第2話 一刻も早く立ち去れ!!

「ろぼっと? これは『ファフニール』と言いまして、聖女のみが搭乗する事が許される機体です。言わば、聖女の権力の象徴とも言えましょう」


「ふぁふにーる……?」


「そう、あれは2年前の事。この世界の神々が教会を通して『人々を導くだろうファフニールは、ダンジョンの奥深くに隠されている。探し出して聖女に与えよ』と啓示されたのです。そうして我々がダンジョンをくまなく捜索した結果、ついにこのファフニールを見つけたのです」


 ポロっとロボットとか言ってしまった私に対し、ジェラルドさんが説明をしてくれた。

 内容を要約するとこうだ。


 ファフニールというのは、異世界の神々が『人々を導く聖女の力』として製造された機体との事。


 神々の啓示通り、その機体はダンジョンに奥深くに隠されていて探すのも苦労したらしい。

 魔物もいるので犠牲者も出たとか。


 そうしてそれを見つけた各国がすぐに聖女を用意しようとしたのだけど、どんなに多くの女性を乗せてもうんともすんとも動かなかったという。

 どうも聖女の資格があるのは「ファフニールを起動させるほどの魔力が豊富な女性」で、この世界に数人いるかいないかの確率なんだとか。


 これにはジェラルドさんが困ったものの、その後に彼が「異世界の人間は魔力豊富な傾向にある」という伝承を思い出し、すぐに異世界召喚を計画したのだ。

 腕の立つ魔術師を集め、聖女の資格のある女性が引っかかるよう魔法陣に仕込みを入れ、そして私が引っかかったと。


「……と、このような経緯いきさつなのですが、ご理解いただけたでしょうか?」


「はぁ……少し」


「少しでも構いません。とにかくこのファフニールに乗って制御すれば、あなたは聖女として認められたという事になります」


 そして私に対してひざまずくジェラルドさん。


「召喚されて戸惑っているとは思いますが、どうかお願いです。このファフニールに乗り、我ら帝国の民を導いていただけないでしょうか?」


 ……まさか皇帝さんに跪いてまでお願いされるとは。


 しかし聖女としてロボットに乗れって、何その悪魔合体的なやつ。


 聖女とロボットなんてどう考えたら結び付くって話ですよ。その神々とやらはロボオタか!

 私はロボットアニメを何回か見た程度しかないよ!


「……とりあえず、これに乗って動かせばいいんですか?」


 それはそれとして、ここまでお願いされると中々断りづらい。

 そもそも断ったところで、この世界の事を知らない私にはどうする事も出来ない。


 これに乗って聖女になった後、これからの事を考えればいいんじゃないかな。


 ……決して面倒事を後回しにしている訳じゃない、断じて。

 そういう事をよくしちゃったりするけど、決して断じて。


「おお、乗って下さるのですね! それではすぐに操縦席の方に! 乗るだけで動かす事が出来るはずです!」


 正座のように座ったファフニールの胸部は既に開いていて、操縦席らしき空間が見えている。

 私は恐る恐るその席へと乗り込んでいく。


 席のサイズは申し分なしで、操縦桿らしき物も手にフィットしている。

 私が着席したその直後、突如としてファフニールが振動し始める。


 ヴィイイイイイイ……。


 まるでエンジン音みたいだ。

 いよいよ動き出すのだろうか……いや動いたぞ、コイツ動くぞ!


 ファフニールがゆっくりと片足を上げていき、立とうとしている。

 続いてもう片方の足を……ってあれ?


 ……ガッ……ガガガ……ガッ…………ガッ………………。


 急にファフニールが震えたかと思えば、何とそのまま動かなくなってしまった。

 ……これってもしかして、起動失敗?


「……えっと、ジェラルドさん……?」


「……馬鹿な……聖女なら動かせれるはずのファフニールだぞ……こんな事はありえない……ファフニールの不具合……? いや神々の用意した機体にそんな事が……」


 ジェラルドさんに尋ねてみたら、何やらブツブツ言っているみたいだった。

 

 彼もこれには想定外だったのだろうか? 

 小さくてよく聞き取れない。


「……なら聖女に問題……? 魔術師がミスをした……?」


「……あの、ジェラルドさん?」


「……は……ではない……」


「えっ?」


「……ユアさん、いやユア・シャクシロ!! ファフニールに動かせなかった貴様は聖女ではない!! ただの役に立たない人間だ!!」


 ギョッと少し飛び上がってしまった。

 それまで穏やかだったジェラルドさんが鬼気迫る表情をして、私に対して怒鳴り散らしてきたのだ。


 って聖女ではないって! 

 問答無用に召喚しておいて、その言い草はなくないですか!?


「きゅ、急にそんな事を言われても……!」


「黙れ!! 聖女ならファフニールを動かせるはずなのにこの状況、貴様にその資格がないと言っているようなものだ!! そんな役立たずに、神からの贈り物たるファフニールに任せる訳にはいかない!! むしろ座らせるのも癇に障る!!」


「さっき乗ってくれって頼んだのジェラルドさんでしょう!? それはおか……しい!?」


 反論しようとした私を従者2人が掴み出して、ファフニールの操縦席から引きずり出してしまった。

 痛いんですけど!?


「ちょ、ちょっと!?」


「消えろ!! ファフニールすら一歩も動かせない貴様など、この国に置いておけられるものか!! 一刻も早くここから立ち去れ!!」


「えっ?」


「追放だと言っているんだ!! 二度とその面を見せるな!! 出て行け!!」


「……えええ?」


 この私、釈城優愛は。

 ジェラルドさんに酷い言いがかりをされた挙句、ネルソン帝国から追放される事となったのだ。

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