第4話 閑静

 ゆっくりと流れる街灯。遠のく喧騒。カーキ色のダウンジャケットに身を震わす少女が、緩やかな登り坂を歩く。

 もう猥雑な明かりは少ない。暖かな部屋の木漏れ日が降る。住宅街の家々は健やかに眠っていた。


 追ってもこない。補導もされてはいない。でも夜は明けない。


 夜は自由だ。幼子のように自由で無秩序でルールになんて囚われない。時間という概念がまるでない。冷たい夜、悲痛な夜は染み入る程に終わりを知らない。


ーー知ってる


 そんなこと知ったこと。全ては自分の判断に委ねられる。曲がり角、曲がり角、曲がり角。その一つ一つの選択肢に不安が付き纏う。


(次の瞬間、補導されたら)

(酔っ払いに絡まれたら)

(オヤジに見つかったら)


 自分次第で夜は牙を向く。不安が膨らむ。


 坂道の中腹。小さな公園。ブランコがひとつ。キーコー、キーコーと揺れていた。

 彼女は吸い込まれるようして、その揺れる遊具に腰を落ち着けた。ため息が漏れる。冷たい菓子パンの封を切る。


 甘い。しょっぱい。冷たい。


 100円ちょっとの安心を咀嚼する。じんわりとほのかに温まる口の中の菓子パンが、彼女を生きていると感じさせてくれた。


 ブランコの揺れに身を任せていたら、何時か睡魔が押し寄せていた。眠っていたか、いなかったか。少女はウトウトとはしていた。


 そして「にぁあ」という鳴き声で目を覚ます。


 視界が上手く定まらない。ぼやけた眼で、ようやく捉えたのは、艶やかな毛並みをした黒猫だった。


「こんなところで寝ていてるとは危険極まりない」


 私はハッ!とする。猫が喋ってい、た!?


「たしかに夜から身を守るに眠ることは必須。でも、今はオススメは出来かねます。特に、今宵のような快晴の夜、いつ何時にトバリが生まれてもオカシク無い」


 二足歩行の黒猫が腕組みをしている。愛らしい丸い目ではなく、獲物を捉えるような細い瞳をして、前足を舐めては髭を整えていた。


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