第29話 ファーマル防衛線1 ファーマル着弾でリューネⅤSオーク数万体




「ルナレディア、今何が起きたか聞いては……ダメなんだよね」



「……ごめんなさいロイド。今は何も聞かないで。いつか、話してくれると思う。その、信頼をしていない、というわけではないの。私もだけど、シアンもまだ頭の整理が済んでいないんだと思う。でも大丈夫、彼女、シアンの言うことは聞くから」


「……分かった。シアン君の言うことを聞いてくれるのならば、大丈夫だろう。彼一人に強大な力を持つ者をコントロールする重責を背負わせるのは心苦しいが、信じて見守るよ。……さて、僕らも行こう。オークの件も、彼にだけ背負わせるわけにはいかない」







「……ィ、おーいシアン、起きろってェ……マズったなァ……人間ってこれに耐えらんねェのか……」


「………………う」


 ──なんかすっごい遠くからリューネの声が聞こえる……


 そして何か焼ける匂いが……


「はっ……! こ、ここどこ……ひっ! オークの丸焼きが周囲に転がって……!」


 何かが焦げている煙が鼻に入ってきて、俺は慌てて起き上がる。


「お、悪ィ悪ィ、シアンがアタシに男の顔でお願いなんてしてきたもんだから、嬉しくて人間が耐えられない速度で飛んじゃってよォ、ヒャハハ……」


 俺の横には申し訳なさそうな顔のリューネがいて、その後ろには丸焦げのオークたちが転がっている。


 な、何事……


 って、よく見たら、俺たちものすごい数のオークたちに囲まれているぞ。


「あァ、もう、うっぜェなァ! 今はシアンの褒められ待ちなんだから邪魔すんじゃねェって言ってんだろ……!」


 俺たちの周囲にある丸焦げオークを乗り越え、五メートル近いオーク、さらには七メートルを超える巨体の持ち主、オークキングが武器を構え一斉に襲いかかってくる。


 それを見たリューネがイラっとした顔になり、口の周りから光が漏れ始める。


 次の瞬間、目を開けてられないほどの光が周囲を照らし、リューネの口から放たれた赤い光の帯が、襲ってきたオークたちの巨体を貫通していく。


 一直線に放たれた赤い光線は遥か向こうまで貫通し、光の通り道にいたオークたちが全て消え去る。


 そのままリューネは顔を動かし、周囲を薙ぎ払うようにオークを消し飛ばしていく。


 ひぇぇっ……! 相変わらず、なんという規格外の破壊力……。



 リューネのおかげで急に視界が開け、今どこにいるのかヒントを探す。


「あの壁……ここ、ファーマルか……!」


 遠くに見える、見慣れた壁。


 あれはファーマルの街を守るように作られた防壁……そうか、リューネがエルフの集落からここまで、本当に瞬時に飛んでくれたのか。


「……ありがとうリューネ。これが終わったら、いっぱいお礼をするからね」


「ヒャハ……キタ、シアンのナデナデきたーー!!」


 オークが埋めつくすファーマルの街付近。だがリューネの放った赤い光線で俺たちの周囲がポッカリと空地に。


 見ると、ファーマルの街のほうにもオークが侵攻している。


 すぐにでも行かないといけないのだが、先にリューネの頭を撫で、ここまで運んでくれたこと、そして気を失っている俺を守ってくれたことにお礼を言う。


「くるゥ……! やっぱシアンのナデナデは脳にくるゥーー!! ヒャハッ……ヒャハッ、ヒャハハハー! シアンに褒められたァ……!」


 リューネの頭を優しく撫でると、身体をブルブル震わせ身悶えはじめる。


 こういう時のリューネって、ドラゴンっていうより、犬っぽいんだよな。




「……行くよリューネ。みんなが来るまで、俺たちでファーマルの街を守るんだ」


「ヒャハハ、今のアタシなら街一個消し飛ばせるぜェェ!」


 目を見合わせるが、リューネが大興奮で吼えだす。


 え、その、街を消しちゃだめだよ? 守るんだからね?


 これはキチンとコントロールしないと、マジで街を守る防壁ごと消し去りそうだな……








「魔法部隊、放てー!」


「壁を壊される前に、なんとかしないと……!」


「た、隊長……! オークの数、数千から数万、さらにオークキングの姿を数百確認……そしてオークエンペラーも数体、目視にて確認いたしました……ど、どうしましょう……」


「数とかキングだの、そんな報告いらん! 見れば分かる! 俺たちに出来ることは、一匹でも多く倒すことだ!」


「……!? 上空から飛来物を確認! そのままオーク軍勢の中心地に着弾!」


「な、なんだ……? 人間が二人……?」


「女性と少年を確認……うわっ発光……! 魔法のようなものが放たれ、直線状にいたオーク、オークキングが、し、消滅……! そのまま周囲のオークを同様に攻撃、彼等の周囲、円状のオークたちが消滅しました!」


「オーク、オークキングを簡単に倒せる人物なんて、あのSランクパーティー『月下の宴』のメンバーぐらいだぞ? 女性、魔法、そうか、黒猫魔法使いのヴィアン様が来てくれたのでは!?」


「魔法の形状が違います、猫の形をしていませんでした! おそらく別人です! 再び上空へ飛行!」


「ヴィアン様じゃない……? いやいや、大体、空を飛べる人間なんて聞いたことがない……あれは一体誰なんだ!」








「リューネ、翼は使っちゃだめだよ! 人間側に混乱が起きてしまうから!」


「わーってるよ。アタシは翼を使わなくても、ただのジャンプでも街一個飛び越せるんだよ……おらァ、行くぞシアン!」


 多量のオークたちが迫っている状況。


 彼等を飛び越えファーマルの防壁付近に行くには、飛ぶしかないが、さすがにリューネの翼は目立ちすぎる。


 走るしかないか、と思ったら、リューネが俺を抱きかかえ空へ向かってジャンプ。


 街と、迫っているオークの軍勢全てが見える高さまで飛び上がる。


 うわわっ……! 本当にすごいなリューネは。


 今度こそ気を失わないぞ……! この高さなら、今の戦況が見える。


 冒険者、騎士、オークの位置、全てを頭に叩き込むんだ!



 よし、ファーマルの街はまだ無事、オークの軍勢が街の直前まで迫っているが、壁も健在。


 その防壁の上に陣を取った騎士、おそらく魔法兵が遠距離攻撃を仕掛けているが、オークにすら弾かれている。


 街の門付近に騎士、冒険者が数百人、抜剣状態で待機。


 ん? 騎士の数がとんでもなく多いぞ?


 俺が住んでいたときの騎士なんて数十人しかいなかったが、今は数百人規模の大軍勢。


 オークの軍勢の後ろのほうに、ひときわ巨大なオークが見える。


 さっきエルフの集落付近で見た、オークキングよりもさらに巨大な個体が数体……もしかして、あれがロイドさんが言っていた『オークエンペラー』ってやつなのか。


 Sランクパーティー『月下の宴』のメンバーでも防御に徹して逃げるのが精一杯というオークエンペラー……。


 あれが街に近付いたら終わりだぞ……その前になんとかしないと……!


 まずい、オークの軍勢が騎士と冒険者が集まっている場所に到着した!


 なんだ? オークたちが穴に落ちてもがいている。


 そうか、落とし穴トラップ! 


 俺の時はあんなの無かったぞ……今回もしかして、結構優秀な騎士が増員されているのでは。


 だがオークの数は数万、数匹のオークが落ちた程度では、その侵攻は止まらない。


 穴に落ちたオークを踏み越え、騎士や冒険者に襲いかかっていく。


 ……冒険者の中に、スコップを持った集団……ってあれ、壁の修復をしていた親方たちの集団じゃ……無茶だ!



「リューネ、街の東門のほうへ! オークを蹴散らし、街を守る!」


「ヒャハハハ! オークの中に、シアンの柱ぐれェ固いやつがいると楽しいんだがなァ……まぁいねェだろうなァ! ヒャハハハ!」















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