第28話 エルフ大樹の森のオーク討伐5 エルフと交渉決裂と襲われるファーマル





「いい加減にしなさいジルアート! 彼等は私がエルフ集落の安全の為に連れてきた冒険者、Sランクパーティー『月下の宴』の方々よ!」



「……ルナレディアか。久しいな。元気そうでなりよりだ」



 エルフ大樹の森に異常発生した、オーク。


 俺たちはルナが開いてくれた、エルフだけが使えるという移動結界の魔法でジャンプを繰り返し、やっとエルフの集落に辿り着いた。


 オークキングを倒し、エルフの集落付近の安全を確保した途端、俺たちに向かって弓が放たれる。


 ロイドさんが大剣で払ってくれたが、まさかエルフの攻撃だとは思わなかった。



「集落は無事なの? オークの侵攻で被害は出ていない? 彼等の力を借りれば、オークの進行も抑えられ……」


「いらん! なぜ我らが人間の力などを頼りにせねばならんのか。弱き存在に借りる力など微塵も無い! オークごとき、エルフの弓と魔法で押し返せている!」


 ルナがエルフの男性に向かって現状を聞くが、向こう相変わらず上からの態度を変えない。



「びっくりした? どうもエルフってああいう感じみたいなの。相容れないって感じ。でもルナは全然違うよねー」


 俺の隣に来たメイメイさんが小さい声で言う。


 ああ……あれが普通の感じなんだ。ルナが優しい感じだったから、エルフ全員がそうだと思っていた。


 まぁ……人間だって優しかったり、平気で他人を傷付けるタイプもいるし、一概には言えないってことか。


「弱き存在だァ? てめェ、誰に向かって物を言っている、クソ雑魚引きこもりエルフごときがこのアタシにふごゥ」


「お、落ち着いてリューネ、そのお話、ちょっと面倒だからやめて……」


 エルフの挑発にリューネが怒り、拳をガツンガツン叩き合わせ出すが、俺が後ろから羽交い絞めにして口を塞ぎ、慌てて止める


 あなたの正体がドラゴンだってのは、俺とルナしか知らないし、知られたらそれこそ面倒なことになりそうだからよして……。





「もうっ……! なんのあれ! 非常事態だってのに、プライド振りかざしたって意味が無いでしょうに! ……決めた、私二度と集落には帰らない! あんな頭の固い人たちといるより、みんなといたほうが何十倍も楽しいし!」


 エルフ側との話は決裂。


 支援を、とロイドさんが申し出たのだが、聞く耳持たず拒否されてしまった。


 同族ということで仲介してくれたっぽいルナだが、後半はルナがガチギレで、むしろルナを抑えるので手一杯だった……。


 今回の目的は、エルフの集落の安全確認であって、共闘ではない。


 ルナ以外のエルフってのを初めて見たが、メイメイさん曰く、大体がああいう感じらしい。


 なんというか、ルナってどっちかっていうと人間側に馴染みやすい、エルフでは特殊な性格なんだろうなぁ。



「まぁまぁルナレディア。今回もエルフの集落の無事を確認出来たわけだし、目的は達成だよ。彼等だってこの異常事態に気が付いているはずだ。でもそれを打開できる策が示せない、そういう自分に怒っているのかもしれない。彼はエルフ集落の、長の息子さんなんだろう? なら、余計にその責任を感じているのではないかな」


 ロイドさんが大人な感じでルナを諫める。


 すごいな、あれだけ挑発的な言葉を吐かれたのに、ロイドさんはニコニコ顔を崩さなかったし、今も微笑みながらルナの肩を叩いている。


「でも良かったよ、森にある、数々のトラップを突破したのがオークキングで。もしもその上の存在、オークエンペラーだったら、エルフの集落は今頃どうなっていたか……。僕らでもオークエンペラー相手だと、防御に徹して逃げるのが精々だからね。そういえば、今回は道中で一回もエンペラーを見かけなかったね、おかしいな……」


 ロイドさんが不思議そうに言う。

 

 そういえば、ここに来る前に王都でオークエンペラー対策の会議をしていたが、今回は運が良かったのか、出会うことがなかったな。


 まぁ別にSランクパーティー『月下の宴』でも逃げるしか出来ない相手になんか会いたくないし、今回はこれで帰還かな?



「…………おいシアン。お前が前にいた街が襲われてんぞ。すげェでっけぇのもいるな。多分、そのオークエンペラーってやつだぞ」


 これで帰れるのかと安心していたら、リューネが空を見上げ、いつもと違う低い声で言う。


「え、前にいた街……それってファーマルのこと……? リ、リューネ、それは本当?」


「アタシはこんな嘘言わねェよ。多分エルフの集落近くで飛ばされたオークたちがそっち行ったんだろ」


 ファーマルに……Sランクパーティー『月下の宴』でも敵わないオークエンペラーが……!



「リューネさん、それは本当かい?」


「…………ああ」


 ロイドさんの顔から笑みが消え、険しい顔でリューネに尋ねる。


「……みんな緊急事態だ。大陸西端にあるファーマルがオークエンペラーの襲撃に遭っているらしい。ルナレディア、ここから移動結界の魔法は使えるかい?」


「え……ファーマルが!? そ、それが……ここからファーマル方向には繋がっていなくて、一旦ベイローグ方向に四回飛んで、そこから街道で馬車を上手く拾えれば……」


 リューネの返事を聞いたロイドさんがすぐにルナに確認を取るが、ルナの顔は暗い。


「全て上手くいっても、一時間以上は……」


 ルナが申し訳なさそうに言うが、一時間……今現在襲われている街に、一時間後に辿り着いて、果たして街は……


「迷っている時間はないはずです! 行きましょう、これ以上オークに滅ぼされる街は見たくありません! 私が辛い訓練に耐え、この力を身に着けたのはこの日のため。今日までのうのうと生きてきたのは、彼等にあの時の恩を返すため……! あの街には彼等のお子さんがいます。私と弟を救ってくれた彼等の最後の言葉、それを叶えるため、私は今日まで……」


 皆が暗い顔になっていると、ルウロウさんがそれを振り払うように叫ぶ。


 彼等? はて、ルウロウさんの強い私情を感じるが、どういう意味なのだろう。


「そうだね、事情は分からないが、ルウロウの言うとおりだ。これ以上オークたちに街を滅ぼされてなるものか。ルナレディア、疲れているところを申し訳ないけど、なんとか最短でファーマルに着けるように頼むよ」


 リーダーであるロイドさんが、時間がかかろうとファーマルに行くと決断してくれた。


 ありがたい、ありがたいが……


「分かったわ、また四回飛ぶから、オークたちの対処をお願い……」


 ルナが頷き、木に近付き光の輪を形成し始める。



 一時間……ルナの移動結界の魔法を上手く使っても一時間……くそ、どうにかもっと早く、瞬時に辿り着けないものか……


 飛ぶ……飛ぶ、そういえば移動結界の魔法の使用中に、もう一種類の飛ぶを提案していた人物がいたな。


 しかも、アタシが飛んだほうが速い、と豪語もしていた。



「……リューネ、頼みがあるんだけど、いいかな」


「あァん? 珍しいな、シアンがアタシにお願いとか。いいぜ、アタシはシアンの言うことなら何でも聞くって言っただろ? ヒャハハ、いい男の顔してんな、シアン。さぁ、ドーンと言ってみろ、アタシがシアンの欲を叶えてやる」




「皆さん、今は何も言わず、十秒程目をつぶってください。細かな説明をしている時間はありません。いつか、言えるタイミングが来たら、キチンと説明をします」


 俺はみんなに向かって意味不明なことを言う。


「……? 目を? それはどういう……」


「……シアン。それは私たちも一緒には行けないの?」


 ロイドさんが不思議そうな顔になるが、ルナは何か気が付いたようで、真面目な顔で聞いてくる。


「うん。リューネが最高速で抱えて飛べるのは、一人だけだって。ルナはみんなと後からお願い。それまで、俺がファーマルの街を守ってみせます」


 リューネ曰く、アタシが翼で飛べば一瞬で着ける、とのこと。


 俺はリューネのその言葉に賭ける。


 一秒でも惜しい、俺はみんなに目をつぶるようにお願いをする。



「目をつぶったよ。でも無理はだめだよシアン君。君にはまだまだこれから『月下の宴』のメンバーとして活躍して貰わないと困るんだからね」


「何か策があるんだよね、シアン君? いいよ、私はそれを信じてあげる。すぐに追いついて、鉄球ドーンしてあげるから」


「シアン少年、とても良い顔をしているのね。いいわ、お姉さんがお守りをあげる」


「……これも使って……お金は私が出す、気にしないで、全力で使って……」


「死ぬなよ。すぐにルナレディアお姉様と共に駆けつける、それまで耐えろ、いいな!」


 ロイドさん、メイメイさん、ヴィアンさん、アイリーンさん、ルウロウさんが俺を信じ、送り出してくれた。


 ヴィアンさんとアイリーンさんが、例の魔宝石を手渡してくる。


 ありがとうございます。使わせていただきます。


「……シアン、いい、絶対に無理はしちゃだめよ。すぐに行くから、待っていてね」


 最後、ルナが優しく抱きついてくる。


「うん、大丈夫。リューネもいるしね」





「よっしゃァァ! 行くぜシアン、アタシの本気の飛行を見せてやるぜェ!」


 リューネの背中からドラゴンの翼が出現。


 これを見ると、ああ、やっぱりリューネってドラゴンなんだな、と再確認出来るな。


「頼むよリューネ……でも少し加減は……」


「おらァァァ! 瞬時だ瞬時! 舌ァ噛むなよォ!?」


 リューネが俺の身体を抱くと、翼がブワっと動き、一瞬で遥か上空まで飛び上がる。


 え、ルナたちがあんな小さく……って高すぎじゃ……


 高さを確認していたら、急に横に圧力がかかり、視界が暗転。



 は、速すぎて前が見えな……い……ちょ、リューネ……ひぃ……

















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