第26話 エルフ大樹の森のオーク討伐3 エルフ大樹の森ではオークの雨が降るでしょう





「……大丈夫……付近に気配、無し……」




 ルナが木と木の間に作った光の輪。


 ロイドさんが先行、続いてアイリーンさんが入る。


 続いて残りのメンバーが武器を構え突入するが、狐耳パーカーの女性、アイリーンさんが木の上から安全宣言を出してくれた。



「ど、どこ、ここ……」


 俺も一緒に光の輪をくぐったのだが、出た先は森のど真ん中。


 さっきまで森の入口、というか街道が見える場所だったのに、どうなっているんだ、これ……。


「ここはさっきの場所から徒歩で一日って場所かな。私たちエルフは大樹の力を借りて、あちこちに繋がるゲートを作っているのよ。そしてこれを起動出来るのはエルフだけ」


 何が起きたのか理解できず、あたふたとしていたら、ルナが説明をしてくれたが、ゲート……?


「この移動結界を使わずにエルフの集落に行こうとしたら、一年ぐらいこの広大な森を彷徨うことになるかしら。いえ、一年だと運の良いほうね。一生森を彷徨うほうが多いかも、ふふ」


 ルナが笑顔で言うが、この森を一生彷徨う……? 怖っ。


「おそらく、一種の催眠魔法ね。強制的に方向感覚、記憶をズラされる。この辺りは集落から遠いからマシなほうで、近付くと強制的に森のどこかに飛ばされるランダムジャンプなんていう、極悪トラップがあっちこちにあるから怖いのよね。運が悪いと、崖の上、泥沼の中、とか命を落としかねないところに飛んじゃうから……うふふ」


 黒いドレスに黒い帽子をかぶったヴィアンさんも笑顔で俺に言ってくる。


 え、記憶操作にランダムジャンプ……?


 それマジ? だとしたら、徒歩でエルフの集落に辿り着けるやつなんていないんじゃ?


「でもオークたちは、それを徒歩で突破してきた。まさに数に物を言わせた戦法かしら……。でも辿り着けるのはごく一部で、エルフの集落が落とされるようなことはまだ無いと思う。でもこれ以上数が増え続け、そのチャレンジを突破するオークが増えたら……」


 運が良くて徒歩で一年、悪いと一生森で迷い、彷徨いゾーンを抜けても即死ジャンプトラップとか……オークってマジでそれを徒歩で抜けて来るの? 


 ルナの話に俺は驚く。


 しかし……オークってどういう行動原理でそれをしてくるんだろう。一体何を求めての行動、いや、暴走なのか。


 食料? 住処? 湧き上がる暴力衝動発散のため?


 いつから、どうしてオークたちはその行動を取り始めたのだろうか。



「へェ、これがエルフの移動結界か。おもしれェ魔法だな。ただまぁ、やっぱアタシが飛んだほうが早いな。ヒャッハハ!」


 同じく光の輪をくぐったリューネが現在地を確認するように周囲と空を見上げ、ゲラゲラと爆笑。


 リューネの言う「飛ぶ」は「空を飛ぶ」だと思うんだけど、もしかして空だと催眠だのランダムジャンプトラップが無いってことなんだろうか。


 まぁドラゴンであるリューネと違い、空を飛べない人間には確認のしようもないことだけど。




「じゃあ二回目行きますよ。次からはオークがいる可能性が高いです。心して下さい」


 少し周囲の偵察と休憩をし、ルナが二回目の移動結界を開く。


 一回でエルフの集落に行けるわけではないんだな。


「二回目の先は、感覚狂いとジャンプトラップの複合になるの。絶対に私の側から離れないでね」


 ルナが全員を見渡し、注意をする。


 うへぇ、ランダムジャンプが怖いなぁ。その罠、何か分かりやすい目印でもあるのかな?


「今度は同時に行くよ。オークの集団がいた場合、僕とメイメイが盾となるから、アイリーンの爆発魔宝石、ヴィアンの黒猫魔法を頼むよ。他のメンバーはルナレディアが三回目の移動結界を開くまで守る。いいね」


「……分かった……でもこれ、お高い……」


「アイリーン、命を失うよりマシでしょう? ほら、私が作った黒猫魔宝石もあげるから」


 ロイドさんが役割分担を決め、アイリーンさんとヴィアンさんが返事をする。


 アイリーンさんがリュックから小石ぐらいの大きさの綺麗な宝石、あれは魔力が込められた石、魔宝石って言うんだっけ、それをたくさん取り出しブツブツと言う。


 そうか、攻撃手段として使えはするけど、あの魔宝石ってのが高いから、使い捨てばら撒き戦法は懐が痛いのか……。


 ん? ヴィアンさんの言う黒猫魔宝石ってなんだろう。



「行くよ……!」


 ロイドさんの合図と共に、全員同時にルナが開いた移動結界に入る。


 さて、鬼が出るか蛇が出るか……




「…………! オークの群れのど真ん中! アイリーン、ヴィアン、頼むよ!」


 光の輪をくぐり、違う景色の森に出る。


 ……が、さっきとは違い、周囲に俺の身長の倍以上、五メートル近いオークの群れ。


「……吹き飛べ……」


 ロイドさんが叫び、アイリーンさんが全方位に向け魔宝石をばら撒く。


 魔宝石がオークの分厚い鎧や頭の兜に当たると強烈な爆発が起き、次々とオークが倒れていく。


 驚いたオークたちが一回引き、俺たちの周囲に円状の空間が出来上がる。


「うふ……行くよ、燃やし貫け……黒猫ニャーン! 燃やしうつせ、黒猫ニューン!」


 ヴィアンさんが杖をかざし、不思議な言葉を叫ぶ。


 え? く、黒猫ニャ? ニュ?


 杖から黒い猫の形をした炎が勢いよく飛び出し、オークの巨体を鎧ごと貫通。次に放たれた複数の黒猫の形の炎が飛び回り、オークたちを燃やしていく。


 そうか、ヴィアンさんって魔法使いだったっけ。


 随分可愛らしいネーミングの魔法だけど、威力は極悪。


 あの分厚い鎧を装備しているオークの身体を貫通とか……。おっそろしい魔法だぞ、あれ。


「よそ見をするな、バカが!」


 ヴィアンさんの魔法に見惚れていたら、背後から斬撃音。


 驚いて振り返ると、後ろのオークが俺に向かって巨大な斧を振りかぶっていた。


 ルウロウさんがそれを受け止め、剣から起こる爆発でオークの巨大な斧を吹き飛ばす。


「す、すいませんルウロウさん! 助かりました!」


「いいから早くルナレディアお姉様をお守りするんだ!」


 俺は一体何をしているんだ。緊張感が無いにも程がある。


 見るとリューネも拳を構えていてくれて、俺を守ろうとしてくれたようだ。ありがとうリューネ。


 俺はルウロウさんとリューネにお礼を言い、すぐにルナの近くへ。


 

 周囲を見ると、とある木の側にいたオークの集団が突然消えたり、遥か上空からオークが数体降って来たりしている。


 なんだこの地獄みたいな光景は……。


 そうか、あれがランダムジャンプってやつか。


 あちこちにある特定の木、それに近付くと罠が発動、周囲のオークを巻き込みどこかへ強制的に飛ばす、というわけか。


 地上ならラッキー、運が悪いと崖や沼底行き……なんと恐ろしい場所なのか。



「……三回目、開きます! オークを入れないように、二秒のみ! カウント……五、四……ロイド、メイメイ、吹き飛ばして!」


「おう、任せろ!」


「おっしゃああああ、いっくよーー!」


 ルナが木の間で光の輪を形成し始める。それを邪魔されないようにロイドさんが巨大な大剣を、メイメイさんが巨大な鉄球付きのこん棒を振り回す。


 二人の攻撃を受けたオークをたちが吹き飛び、ルナの周囲に緑の光が溢れだす。


 移動結界が開く……! 飛び込まないと!


 俺は慌ててルナの側に行く。


「……一、ゼロ!」


 ルナのカウントが終わり、光の輪が完成。


 全員が同時にそこへ飛び込む。




「た、助かった……って、こっちにもオークの群れぇ!」


 ルナが開いてくれた光の輪をくぐり、一安心と思ったが、着いた先にも同じような光景、オークの集団が周囲を囲んでいて、上空からオークが降ってきている状況。


「ヒャッハハハ! おっもしれェことになってんなァ、シアン! 森ではオークの雨が降るでしょうってとこか? ヒャハハ!」


 隣のリューネが降ってくるオークを見て爆笑。


 いやいや、笑い事じゃあないって。その言い方、雲の動きなどを見て天気を予想する人はいるけど、油断したら、俺たちだって飛ばされるんだし。


 さっきの飛ばされたオークの状況を見る限り、特定の木に近付かなければ大丈夫……だと思うが、森で木に近付くなとか無理だろう。



 せめて目印とか無いんですか? ルナさーん!


















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る