第25話 エルフ大樹の森のオーク討伐2 エルフの集落へは魔法で飛ぶ?
「それではまずはエルフ大樹の森に向かい、エルフの集落付近を目指そう」
王都マリンフォールズから列車で二十四時間、俺たちは港街ベイローグにいる。
少し休憩とお昼をいただき、ついにオーク討伐へと向かう。
Sランクパーティー『月下の宴』のリーダーであるロイドさんが地図を指し、とりあえずの行先を教えてくれた。
まずは馬車で北上って感じか。
「ルナ、エルフの集落って森のどこにあるのかな。俺、聞いたことがないんだけど」
俺はここから馬車で三時間ほど北へ向かうとあるファーマルの街に十年住んでいたが、エルフの集落があるなんて聞いたことがなかった。
「一応場所は秘密ってことになっているから、一般の人は知らないと思うわ。今回のも私からの依頼だから特別に近くに行けるだけで、普通は近寄ることも出来ないの」
ルナが申し訳なさそうに言う。
ああそうか、エルフって人間からしたら滅多に出会えない種族で、下手に場所を知られると、良からぬことを考える人間が近付いて来て危険ってことか。
エルフって……その、ルナを見れば分かるが、すんごい美しいんだよね、見た目が。
その美貌を持つエルフを手に入れようと、力で強引に奪ってやろう、なんて考えるやつもいるだろうしな。
実際、エルフであるルナが街を歩いていると、すごい色々な目が一気に向いてくるのが分かる。羨望だったり妬みだったり、欲、だったり。
ルナはそういう視線が来ても、特に気にした様子もなく、慣れてます風に受け流している。
実際のルナがどう思っているかは分からないが、隣を歩いている俺がそういう視線が来ているって気が付くぐらいだし、当人であるルナが気にならないわけがない。
いつか俺が一人前の男になって、堂々とルナをそういう視線から守りたい。
「そ、その、ルナ……今の俺じゃあ頼りないと思うけど、もっと頑張って強くなって、いつかルナを守れるようになってみせるよ」
あれ、俺、一人で興奮して話の流れと関係ないこと言ったような。
「ん? ……ふふ、ありがとうシアン。そっか、ということは、ずっと私の側にいてくれるってことだよね? お姉さん嬉しい」
俺の言葉に一瞬考えた顔になったルナだが、すぐに笑顔になり、優しい顔で俺の頭を撫でてくる。
ふああ……やっぱルナって美しいなぁ……って、やばい、これじゃあ俺がその美貌目当ての悪いやつみたいだ。
「ち、違うんだ……! 見た目が好きだからとかじゃあなくて、俺はルナという人が好きだから、いつも笑顔でいてもらいたいし、幸せになってもらいたいと言うか……」
「それもう告白じゃん。ねーねールナー、どうするー? すっごい年下から純粋な告白されちゃったけどー。多分シアン君、ルナの本性全然知らないと思うんだー。あの子普段はボロッボロのパーカーとか着ててー、パッと見、エルフって分からないぐらい酷い格好でー」
後ろからメイメイさんがひょいと顔を出してきて、ジト目で俺を見てくる。
え、告白……?
え、いや、そういう意味ではないですって!
「ちょ……や、やめて、せっかくシアンが可愛い告白をしてくれたんだから……! 私は生まれ変わったの! 今の私、ルナレディア=エルディードはシアンを守る素敵な大人の女性なのよ!」
ルナが真っ赤な顔で慌てだす。
ああ……またメイメイさんのおもちゃにされてる……。ルナって見た目、凛としていて近寄りがたい雰囲気なんだけど、喋るとコロコロ表情変わって可愛いよなぁ。
「あはは、ごめんごめん。いっつもルナってツンツンしてたからさ、シアン君と出会ってからすっごい生き生きとしていて、私は良いと思うよ。笑顔も増えたし、まぁあれかな、種族と歳の差を超えた恋する乙女って感じ?」
メイメイさんがゲラゲラ笑うが、そういえば……最初、ルナは普段冷静とか、表情をコロコロ変えているのを珍しいって言っていたな。
「メイメイ! 歳は関係ないでしょ! いい加減にしないと怒るからね!」
やっば、ルナがキレそう。
俺は慌てて二人の間に入り、ルナを諫める。
……昔のルナ、か……俺には分からないけど、今のルナはすごく楽しそう。
なら、これでいいのではないだろうか。
俺も今の、メイメイさんに色々言われて表情をコロコロ変えているルナが好きだし。
というか、ルナって実際何歳なんだろうか……聞いたら……マズイのかな。
エルフって絵物語とかでは長寿って聞くけども。
「うげェェ……まーたおっそい乗り物かよォォ……なぁシアン、アタシが飛んで……」
「リューネ、文句言わない。遅くても、それが楽しいってことがあるんだから」
馬車での移動中、リューネが不満そうに足をバタバタとさせる。
まぁリューネって俺とルナだけの秘密だけど、正体はドラゴンだしな……。
彼女にとって、ドラゴンの代名詞とも言える大きな翼で飛び回るのが普通なんだろう。
──でも、こういうのんびりとした移動だからこそ楽しいってことも……あ、ごめんなさい、俺、偉そうにすごい嘘を言いました。
俺、すんごい乗り物酔いをするボーイなので、いつかリューネの言う飛んで移動ってのを試してみたいです……。
空なんて飛んだことがないから分からないけど、もしかして快適だったりしないかな。
ベイローグを馬車で出てから二時間ほど、目の前に広大な森が近付いきたところで馬車を降りる。
例によって俺は馬車酔いで瀕死。
「──我らを見守りし命の大樹よ、私たちを想い同じ友の元へお導き下さい」
馬車を降りて少し歩き、ちょっとだけ森に入ったところでルナが手を合わせ、空へ向かって祈る。
普通の、なんでもない木と木の間にルナが立っているが……あれはなんだろう。
「──ありがとうございます」
ルナの周りに緑の光が溢れ、人が通れそうな光の輪が木の間に出来上がる。
え、どういうことだ?
「あれはエルフの血がなせる魔法、移動結界の魔法さ」
俺が不思議そうな顔で見ていると、ロイドさんが教えてくれた。
「移動……?」
「そう、エルフの集落って手順を踏めば一応行けるんだけど、距離があるし面倒だし、オークの軍勢もいるから今は大変なんだ。でもルナがいれば、ああやってエルフの魔法で集落の近くまで飛べるってやつ。便利だよね」
飛べる……? はて、学の無い俺には何を言っているのかさっぱりで……。
「ルナレディア、道を開いてくれてありがとう。じゃあみんな準備はいいかい? 飛んだ先に、いきなりオークの軍勢がいるかもしれないからね、臨戦態勢で飛び込むよ」
ロイドさんが全員に指示をすると、皆が装備を整え始める。
え、どういうこと?
「大丈夫よ、シアン。私の側にいれば大丈夫だから」
周りをキョロキョロ見ていたら、ルナが側に来て微笑む。
「へぇ、これがエルフの移動結界ってやつか。飛んだほうが速ェけど、魔法で飛ぶのは初めてだし楽しみだぜェ、ヒャハハ」
リューネが興奮気味に拳を突き合わせ、興味津々の顔。
飛んだほうが速いけど、魔法で飛ぶのは初めて……?
やべぇ、意味が分からん。
リューネの言う飛ぶ、と、エルフの魔法で飛ぶ、は違う意味なのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます