第24話 エルフ大樹の森のオーク討伐1 騎士と冒険者と列車移動で乗り物酔いパニック





「このあいだの会議で話した通り、エルフ大樹の森付近のオークの異常増殖、これを至急止めないといけない。ファーマルの街はすでに二回襲われている。彼等は戦力を整え、必ずまた来るはずだ。だが我らも強力な新戦力を得た、我ら『月下の宴』はオークエンペラーを討ち、街を守る!」



 あれから一週間後、午前九時、俺たちは王都マリンフォールズ駅に集合していた。


 Sランクパーティー『月下の宴』のリーダーであるロイドさんの話を聞き、列車に乗り込む。


 


 

「街が襲われているのに、国からは騎士を派遣してもらえないのかな?」


 王都に来るときにも使った、列車最後尾にある豪華な部屋タイプ。そこに入り、荷物を置きながらルナに聞いてみる。


 ファーマルの街にも騎士さんはいたし、街を守るために戦ってくれてはいたけど、正直冒険者の数よりは少なかった。


 国として、街を守るために騎士の増員とかはないのだろうか。


「難しいわね……増殖をしているオークがいる森は、この王都の近くにまで広がっているの。つまり、この王都にもそのオークの襲撃が来ている。王都を落とされるわけにもいかないし、戦える騎士の数は限られている。嫌な話だけど、騎士を配置する場所に優先順位がついてしまっているのよ」


 ルナが悔しそうに言うが、そういえば会議でこの周辺地図を見たが、エルフ大樹の森はこの王都の北側にまで広がっていた。


 そうか、この王都にもオークたちは来ているのか。


「ゆ、優先順位……じ、じゃあファーマルの街は見捨てられたの?」


 人口が多い王都が優先……分からなくはないが……


「苦渋の決断ね……私たちSランクパーティー『月下の宴』でもオークエンペラー一匹を相手に、フルメンバーで防御に徹して逃げるのがやっとなの。国に所属している騎士に私たちより強い人はいないわ。数だけ揃えても勝てる相手でもない。騎士に無駄に犠牲が出てしまえば、それこそ王都が落とされかねない」


 そうか、無駄に突撃して全滅して、なんてことを繰り返していたら、国を守る騎士がいなくなってしまう。


「だから国が私たちを支援してくれている理由はそこ。数が必要なときは騎士が、そして少数精鋭が向いているときは私たち『月下の宴』が動く。それを期待されて、私たちには移動費が無料だったりしているわけね」


 ああ、そういえば『月下の宴』はこの列車とか無料だったっけ。


 なるほど、少数のほうが動きやすいだろうし、無料にするからあちこちに行ってくれって期待されているのか。


「オークエンペラーなんてとんでもないモンスター相手に、国でもどうしようもない……でも諦めているわけではないわ。守りに徹し、いつかそれを打破するタイミングをうかがっていた。そして今日、ついにその時が来たの。今回はリーブル王子も動いてくれている。頑張りましょう、シアン」


 ルナがニッコリ微笑み、俺の頭を撫でてくる。


 リーブル王子、こないだ俺の冒険者試験に立ち会ってくれた王族の方か。



「…………」


 ルナの向こうで、ルウロウさんが神妙な顔で装備の手入れをしている。


 そう、油断なんて絶対に出来ない。まずは装備のチェック……っても俺、武器使えないし、柱魔法しか脳が無いんだった……。


「……ルウロウはね、去年まで王都を守る、国所属の騎士だったの」


 俺がルウロウさんを見ていることに気が付いたルナが言うが、え、ルウロウさんって元騎士なんだ。


 どうりで言動が軍隊っぽい感じだと思った。


「戦えない人を、街の人を守りたいと、強い想いで騎士になったんだけど、いざオークが現れても、上の許可が出ないと何も出来ず、国所属の騎士の動きは鈍い。ルウロウの思うような行動が出来ず、彼女は騎士を辞め、冒険者になって私たちの元に来たの。今でも鮮明に覚えているけど、もうすごかったのよ、ルウロウの『月下の宴』に入りたいっていう気持ちの熱量とか勢いとか。あのロイドが押され気味に受け入れたぐらいなの、ふふ」


 へぇ、騎士から冒険者に、か。


 何か、よほどの強い想いがあったのだろうか。





 

「ぅぅううう……気持ち悪い……」


「シ、シアン? 大丈夫? ほら、お姉さんが肩貸してあげる」



 王都マリンフォールズ駅を出て二十四時間後、港街ベイローグ駅に着いたのだが、例によって俺は列車酔いで撃沈。


 王都に行ったときと同じ、道中の記憶がほぼ無い列車移動となりました。


 一体いつになったら列車からの美しい景色が見れるのやら。



「だ、だめですよルナレディアお姉様! そうやって弱ったフリをして襲ってくる、悪鬼の考えそうなことです!」


 フラフラしながら列車を降り、転びそうになりながらも歩いていたら、ルナが心配そうに駆け寄ってきたが、ルウロウさんがそれを制す。


「あら? じゃあ私がシアン少年を抱いてあげる……おいで」


「ほーらルナー、お気に入りのシアン君を寝取っちゃうぞー! あはははー」


 マジで倒れそうになっていると、左右から柔らかい物が両腕に当たる。


 な、なんだ? と思っていたら、黒いドレス風の格好のヴィアンさんと、可愛い服を着てはいるけど筋肉結構すごいメイメイさんが俺を支えてくれていた。


 メイメイさんがすごい楽しそうに笑い、煽るようなセリフ。


「や、やめてよ二人とも……! 私のシアンを惑わさないで! シアンは真面目で純粋だから心が汚れている二人は悪影響なのー!」


 ルナが真っ赤な顔で怒っているが……いいように遊ばれているって気付いていないのかな……。


「あら酷い、ねぇシアン少年、私傷ついちゃった……癒してもらえる? うふふー」


「ひっどーいルナ。いいもん、もっとシアンで遊んじゃうもーん」


 ルナの毒舌に反応したヴィアンさんが俺に顔を近付け、耳に吐息をかけてくる。ひゃああ……。


 メイメイさんもグイグイ俺に身体を擦り付けてくる……ってやめて二人とも……あんまりルナをイジると、マジでキレるから……。


「あ、も、もう大丈夫です! 俺急に平気になりました! おっと……」


「……大丈夫、シアン……薬、飲む?」


 これ以上はルナが怒って大変なことになると、俺は二人から距離を取るが、やはり乗り物酔いで足元がフラつき、転びそうになる。


 だがビュンと残像が見える動きで狐耳パーカーの女性、アイリーンさんが正面からがっしり俺の身体を支えてくれ、なんとか転ばずにすんだ。


「あ、ありがとうございますアイリーンさん。い、いえ、薬は大丈夫です……」


 アイリーンさんが俺の胸元に顔を埋め、無表情でチラチラ俺を見上げてくる。


 ……? 心配してくれているのかな?


 つかアイリーンさんの薬って、以前試作の睡眠薬ばら撒かれたような……それじゃあないよね?


 酔い止めですよね?


「うわぁ……人嫌いのアイリーンが男にがっしり抱きついて嬉しそうにしてるよー? これはマズイんじゃないかなー、ねぇールナー?」


 メイメイさんがまた煽るようにルナに向かって言う。


 え、この無表情でチラチラ俺の顔を見てきているの、嬉しい顔なの?


「何だか楽しいパーティーになったなぁ、よぉし、僕もシアン君に抱きついちゃうぞー! そおれっ!」


 なんか背後から大きな影が近付いてきて、何かと思ったらロイドさんが俺にガッツリ抱きついてきた。


 ふぉあああああああ……!


 か、固い……胸板が、腕の筋肉が……腹筋が……全てがかたーい!


「い、いやぁあああああああああああ! わ、私のシアン……」


 俺が背後から大男、ロイドさんに抱きつかれている光景を見たルナが真っ青な顔になり、ガクンとルウロウさんのほうに倒れ込む。


 ちょ、ルナが……ん?


「…………良い……」


 ルナを支えながらルウロウさんが俺とロイドさんをジーっと見てきて、口をポカンと開け、小さい声で何か呟いた。


 え?


「うーわ……ルウロウの癖が出たよー。『筋肉男と少年』の組み合わせがどうにも心にヒット、らしいね。どうしようこれ、みんな欲のまんま行動するけど、止める人、このパーティーにいないね……」


 さすがのメイメイさんも困った顔でこの状況を見ている。


 ルウロウさんの癖? 


 よく分からないですけど、最初に煽ってきたのメイメイさんだし、あなたが止めて下さいよ!



「ファァァ……だる……おっそ、この列車ってやつ……あァ? なんだよシアン、男に抱かれてんじゃん。まぁシアンって顔かわいいからなぁ、ヒャッハハハ!」


 リューネがかったるそうに歩き、俺たちを見て指をさして笑う。



 ……だめだ、このパーティー、もう一人メンバー募集しましょう!


 そう、至急ツッコミ役を……
















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