第20話 『月下の宴』メンバー全員参加のミーティング





「なんかさっき騒がしかったけど、なんかあったのかい?」


「あ、い、いえ? 特に何も……あはは、はは……」



 朝食後、紅茶をいただいていたら、厨房のほうからシェフの格好をしたロイドさんが近付いてきた。


 ルナが焦った顔になり、どう聞いても誤魔化しているトーンで答える。


「ルナレディアお姉様は犯罪者を止めようとしただけです」


「え、ん? まぁ、何でもないのならいいんだけど。今日は午後から二階の会議室に集まってくれ。全員参加だから、よろしくね」


 ルウロウさんがルナを擁護しようとしたらしいが、勝手に合鍵を作ったルナも犯罪に当たるのでは? と思っていたら、ロイドさんが二階を指しながら厨房に戻って行った。


 それを聞いたルナとルウロウさんがビシっと姿勢を正し、真面目な顔になる。


 え、会議?


 なんだろう、全員集合って。


 Sランクパーティーである『月下の宴』に大きなお仕事でも入ったのだろうか。


「ルナ、それ、俺も参加が必要なやつ?」


 よく分からないが、新人のうえに昨日冒険者になったばかりの俺が参加して意味があるのだろうか。


「……ええ。その為に私たち『月下の宴』はメンバーを募集したの。ここでは言えないお話だから、詳しくは午後にロイドから聞きましょう」


 ルナに聞いてみたが、どうやら結構真面目なお話のようだぞ。


 そういえばルナが俺が住んでいたファーマルに来たのは、『月下の宴』のメンバー募集の件だった。



 このマリンフォールズという国で一番強いと言われる、Sランクパーティー『月下の宴』。


 そこまで強い彼等がメンバー募集をする理由。


 果たしてそれは何なのか……。


「あれェ? シアン、それ食わねェならもらっとくぞ。これうめェんだよ」


 俺もルナやルウロウさんと同じようにビシっと姿勢を正していたら、右隣に座っていたリューネが紅茶の受け菓子として頼んでいた俺のクッキーをひょいと取り、モリモリ食い始める。


 ちょ、そ、それ最後に取っておいたやつ……


 その、リューネさん、あなたも昨日この『月下の宴』の正式メンバーになったんだから、この食堂での飲食は無料なんですよ。


 物足りなかったのなら、個人で追加注文してね……。






「いや、忙しいところみんなすまないね。では『月下の宴』のミーティングを始めるよ」



 お昼ご飯を終えた午後、『月下の宴』が所有する建物の二階の大きな部屋に、メンバー全員が集まった。


 二階にこんな大部屋があったのか。


 ドアのプレートには会議室と書いてあったので、まぁそういう部屋なのだろう。


 大きな丸いテーブルに全員が着席をし、紅茶が振る舞われる。


「ほええー、全員集合だー。これはあれかなー、よっぽど重要なやつなのかなー?」


 フワッとした白いワンピースを着たメイメイさんがニヤニヤと微笑み、俺を見てくる。


「まぁそうだろうね。その為に動いていたんだし。我々に足りなかった最後のピースがついに集まった、そういうことだろう? うふふ」


 豪華な黒いドレス風の衣装のヴィアンさんが悪い顔で笑い、こちらも俺を見てくる。


 足元にいる可愛い黒猫も俺を見ているが……何?


 つかヴィアンさん、その猫かわいいですね。お名前をお聞きしたい。


「……多分いける……シアンの能力、桁違い……」


 いつもの狐耳パーカー装備のアイリーンさんも、俺を無表情で見てボソっと呟く。


「ごめんなさい、みんな、結局巻き込む形になってしまって……」


 エルフ特有の長い耳を少し下げ気味に、ルナが申し訳なさそうに言う。


 最近気付いたが、なんというか、ルナって結構表情豊かな耳してるよな。


「何を言うのですかルナレディアお姉様! 人類皆兄弟! 困った時はお互い様! 私には個人的な想いもありますし、例え最後の一人になろうとも、私はお姉様を支持します!」


 ルウロウさんが立ち上がり、拳を握り熱く叫ぶ。


「チッ……なんだよダリぃな……お? さっきのクッキーってやつがあるじゃねェか! これいいのかシアン! なぁなぁ!」


「うん、いいよリューネ。だからキチンと話を聞いていてね」


 リューネが本当にダルそうに俺の横の椅子に座り文句を言うが、目の前に朝に食べたクッキーがあるのに気付き超笑顔。

 

 俺の両肩をがっしりつかみ、チラチラとクッキーを見ながら俺の言葉を待っている。


 ……なんか犬みたいだな……いや、リューネの正体はドラゴンだって知ってはいるんだけどさ。


「やったッ! 聞く聞く、これマジうまくてよォ、なんか木の実とか、フルーツ入ってるのもあって最高なんだよ!」


 俺が許可を出すと、リューネがモッシモシとクッキーを頬張り始める。


 まぁリューネも『月下の宴』のメンバーだしね。全員参加なら、話は聞いたほうがいいだろう。



「気に入ってもらえたようで何よりだ。さて、メイメイも言ったが、このタイミングで全員参加のミーティング、ということで察してはいると思う。資料を見てもらえば分かる通り、我々が四年追いかけ続けている、マリンフォールズ王国西にある通称『エルフ大樹の森』におけるオーク異常発生について、だ」


 最高の笑顔でクッキーを食べているリューネを嬉しそうな目で見たあと、一呼吸置き、ロイドさんが真面目な顔で一枚の紙を配り始める。



 『エルフ大樹の森』のオーク異常発生……もしかして、このあいだファーマルが襲われたことに関係しているのだろうか。















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