第17話 冒険者試験の内容はロイドVSシアン
「じゃあ行くよシアン君。手加減はしないよ。だって君には必要なさそうだしね」
冒険者センター王都マリンフォールズ支部で始まった、俺の冒険者試験。
普通は木製の人形に向かって攻撃し、それを試験官が見て判断、その方式では俺は受からないと判断したロイドさんがお膳立てをしてくれたのだが……。
「え、マジでやるんですか……」
「もちろん。それに僕もルウロウの爆発剣を受け止め、あの毒舌評価エルフ、ルナレディアが逸材と称したシアン君と戦ってみたいのさ!」
戸惑う俺に対し、ロイドさんがニッコニコ笑顔で超楽しそう。
ロイドさんって、あのSランクパーティー『月下の宴』のリーダーでしょ? さっき冒険者センターの支部長さんが、あなたの剣は分厚い鉄の盾すら斬り裂くとか言っていたけど……?
「では始め! 死ぬなよ少年!」
リーブル王子が合図し、ロイドさんが巨大な大剣を構える。
「まずは挨拶代わりだ、避けてくれよ……!」
そう言い、ロイドさんが空高くジャンプ。
大剣を振りかぶり、体重を乗せた一撃を放ってくる。
「うわわっ……!」
俺は慌てて避ける。迫力すごっ……!
ロイドさんの大剣が地面にぶつかり、その衝撃波で地面がガッポリとえぐれ、穴が開く。
ひぇぇ……あんなのまともに喰らったら、身体が左右に真っ二つだぞ。
「今のが僕の得意技、ジャッジブリンガー。巨大なモンスターの首を切断するのによく使うんだ。以前、五メートル近い巨大蛙を真っ二つにしたこともあるんだ」
巨大蛙を切断……ちょ、あんまり細かい解説は映像が頭に浮かぶんで勘弁して下さい。
「じゃあ行くよ……君の柱魔法を僕に見せてくれ!」
ロイドさんの顔から笑顔が消え、大剣を構えたと思ったら、ダッシュで俺に突撃をしてくる。
速い……!
あの重そうな大剣を持って、この速度……!
──だが俺はロイドさんと戦う前に、ルナの素早い動き、そしてルウロウさんの突撃を見ている。
その二人に比べれば、ロイドさんの動きは充分対処出来る……!
比較対象としてはおかしいが、柱を前にしたリューネの突撃の速さに比べたら全然問題ない。
リューネって人間じゃあなくて、あの伝説のドラゴンだからな。比較すること自体おかしなことか。
「斬り裂け……ソニックブレード!!」
「柱魔法……アルズシルト!!」
俺はロイドさんが左右に仕掛けてくる動きを目で追い、大剣を振りかぶったタイミングで目の前に柱魔法を展開。
ロイドさんの大剣がとんでもない速度で真横に空を斬り、その衝撃が俺の出した柱魔法と激突。
「防ぐ……か! だがまだ!」
自身の放つ斬撃が柱に受け止められたと分かると、すぐに左右に残像が見える速度で動き、追撃を放ってくる。
「柱魔法アルズシルト……二本目!」
ちょ、この人、動きがマジじゃないですか……!
戦闘経験の少ない俺相手に、冒険者の試験ですることじゃあないですよ!
「すごいなこの柱魔法……! 僕の剣が全く通じないとはね……!」
二撃目も柱魔法で受け止めると、ロイドさんが上空にジャンプ。
これは……最初に見せてくれたやつ……!
「行くよ、ジャッジブリンガー!!」
ロイドさんが俺に向かって上空から大剣を振り下ろすが、それに合わせて俺も柱魔法を展開。
「柱魔法アルズシルト……三本目!!」
それは一回見ているので、合わせ易い。
ロイドさんの重い一撃が柱魔法と激突。
金属が擦れるような嫌な音が響き、ロイドさんが地面に着地。
柱は……無事!
やったぞ、俺はロイドさんの攻撃を全部受け止められた!
「そこまで! 『月下の宴』のリーダー、ロイドの全力の攻撃を受けて無事であること、今回の試験内容を全てクリアを確認した、よってシアン=ソイルの冒険者試験を合格とする! この結果は私、リーブル=マリンフォールズが見届けた。それでよいな、フラッグ支部長」
「…………なんと、まさか……あのロイドさんの一撃を受け止められる冒険者がこの世界にいるとは……。はい、私も見ました……これは文句なく、合格です……」
試験官役をやってくれていたリーブル王子が試験の終了を宣言。
フラッグ支部長は大口をあんぐりと開け、ブルブルと震えながら『合格』と言ってくれた。
「……や、やった……俺が冒険者に合格……やった……俺はついに冒険者に……!」
「やったねシアン! おめでとう! ほら見なさい、シアンは逸材なのよ! これからはお姉さんが面倒見てあげるからね」
戦いの余韻で脳が止まっていたが、リーブル王子とフラッグ支部長の言葉をやっと理解し、喜びの声をあげようとしたら、ルナがダッシュで駆け寄ってきて俺を抱きしめる。
ほご……っ! ルナの柔らかい物がモロに顔に……!
お姉さん? いや、俺に兄弟はいないっすけど。
「おめでとうシアン=ソイル。本当にあのロイドの一撃を受け止めるとはな。素晴らしい、ルナレディア嬢が言うように、まさに逸材。君は数百年……いや数千年に一人の逸材だ。よければ君のその力、このマリンフォールズ王国に貸してもらいたい。キチンと対価も支払うし、何か困ったことがあればこの私、リーブル=マリンフォールズに言って欲しい。必ず君の一助になることをここに約束する」
「え、あ、は、はい……ぼ、僕でよろしければ……」
どうあがいてもルナが離してくれず困っていたら、リーブル王子が俺に手を差し出してきた。
え、あ、もちろん、俺は冒険者として、街の人や、戦えない人の為にこの力を使いますよ。
「うんうん、シアン君の力は本物だ。いやぁすごい、これで我ら『月下の宴』の戦力が格段に向上した! これなら……オークエンペラーさらにはドラゴンも……」
俺がリーブル王子と握手をしていたら、ロイドさんが満面の笑顔で俺の肩をバンバン叩いてくる。
おっふ、肩が外れるぐらいの衝撃ぃぃ……!
最後、ロイドさんが小声で何か言っていたが……オークエンペラーにドラゴン……?
「だっる……なんだよこの茶番。アタシのシアンがこんな人間ごときに負けるわけがねェだろうが。ってシアンの柱が予定より多い三本もあるじゃあねェか! いいよなシアン、これ殴って!」
大きなあくびをしながらリューネが近付いてきて、俺が出した柱を指で数え大興奮。
「リ、リューネ、ストップ! 先にあそこにある木製の人形を壊してから……」
俺は慌ててリューネを止め、先に冒険者試験用にある木製の人形を壊すように言う。
一応リューネは通常の試験を受けるはずだから、あれを壊せば試験には受かるはず。
「え、あァ? 木製の……? あァもうっ! 吹き飛べ木っ端ァァ! よし、オラぁぁ、シアンの三本の柱キター!!」
リューネが俺の言葉を聞きお預けをくらった犬のような顔になり、十メートルぐらい離れた位置にある人形に向かって興味無さそうに軽く拳を突き出し、素振りで起きた拳圧の衝撃波で木製の人形を撃破。
すっご……あの距離で壊せるほどの拳なんだ……
その後リューネが嬉しそうに俺が出した三本の柱を全力で殴りまくっていたら、フラッグ支部長が驚きの顔のまま「合格……」と言ってくれましたとさ。
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