第16話 俺の冒険者試験に王族様がご登場
「リーブル様、お忙しいところ、私の個人的なお願いを聞いて下さり、このロイド大変嬉しく……」
「いい、いい、私とロイドの間にそういう堅苦しいのはいいから。早く『月下の宴』の期待の新メンバーを見せてくれ」
お昼過ぎ、俺は『月下の宴』のリーダーであるロイドさんに連れられ、王都マリンフォールズのお城近くにある冒険者センターに来た。
ロイドさんがすぐに冒険者センターの支部長にかけあってくれ、午後に特別に試験を受けさせてもらえるというから来たのだが……
「あのロイドさん……あのお方は……?」
「え? ああ、彼はリーブル=マリンフォールズ様だよ。知っているだろ?」
試験会場の広場に来てみたが、なんかとんでもなく位のお高そうな方が一名いらっしゃるのですが。
「……まさかこの国の王子様を利用するとはね。いつも思うけど、ロイドって考え方が規格外ね……」
ルナが俺の横で溜息。
どうやらロイドさんの隣にいらっしゃる人物は、この国の現国王ランデル=マリンフォールズ様の息子さんである、リーブル王子様だそうです。
ええ、まさかのこの国の冠ネームを背負いしお方のご登場。
残念ながら俺は大陸西端の田舎街にいたので、王族様のお顔を拝見するのは初めてでございます。
つか、なんでそんな人がここにいるの?
「ふぁァ……だっっっっる……なんだよ試験ってよォ。アタシに何の得も無ェ……」
「リ、リューネ、頼むから今回はマジで暴れないでね。あそこにいらっしゃるのはこの国の王子様であられる……」
「知るかよ。アタシが認めている人間はシアンだけだ。お前以上の人間なんていねェ」
王都に来る途中で仲間になったリューネ。
ダルそうに大股開きでしゃがみ込み文句を言っているが、彼女の正体は人間ではなく、伝説に出てくるクラスの存在、ドラゴン。
俺が出す柱を殴ることが生きがいのようで、柱を毎日殴らせてくれ、と付いてきた。
ロイドさんが、リューネはとんでもなく強いのでは、とSランクパーティー『月下の宴』に入れてくれたのだが、当然彼女は冒険者ではない。
リューネ自身もこんな感じで、人間の決めたルールとか興味無し、なので、『月下の宴』のメンバーにも興味無し。
でもね、あなたには冒険者になって『月下の宴』の正式メンバーになってもらわないと、困るんですよ。
俺が。
あなた、いつも普通の人の二倍以上のご飯食べるよね?
その費用、実は俺が出していて、結構な金額になるんですよ。
ルナが出してくれると言ってくれたんだが、リューネを連れていくと決めたのは俺。責任は俺にある。
換金したら所持金が限界突破しそうなアイテム、全属性魔法無効、全状態異常無効のネックレスをもらってはいるのですが、これは貰った物だし売れない。
今の俺の手持ちの所持金ではキツいんす。
なので、あなたにはSランクパーティー『月下の宴』の正式メンバーになってもらって、無料でご飯が食べられる権利を絶対にゲットして下さい。
ロイドさんは優しい人なので、まだ冒険者ではない俺とリューネのご飯も無料で出してくれているが、これは厚意であって、甘えるわけにはいかない。
つか、俺と違ってリューネはとんでもねぇ火力の拳があるから、それを見せれば多分、一発合格です。
「頼むよリューネ、王子様相手に無礼でもしたら、俺の首が飛ぶかもしれないんだって」
「はァ? この世界にシアンの柱とアタシのネックレスの加護、そして側にいるアタシを突破してシアンの首を飛ばせる存在なんていねェよ。何面白れェこと言ってんだシアン、ヒャッハハハ!」
リューネが手に付けているゴツイ武具をガチンガチン突き合わせながら笑う。
いや、あの、戦いでのお話ではなくてね、王子様と俺では、どう逆立ちしても埋めることが出来ない、とんでもないレベルの身分差があってね……。
うーん……人間ではない、ドラゴンであるリューネに、人間が決めたルールの押しつけは良くないか。
「……リューネ。俺の言う通りやって冒険者試験に受かったら、今日は『二本』出してやるから」
俺はリューネにVサインのように二本の指を立て、提示。
「ヒャッハーー!! マジかよシアン! 今日は二本も出してくれンのかよォ! ヤるヤる! 言うこと聞く! な、約束だぞ、今日は二本だからな! よっしャァァァァ、アタシはシアンの冒険者になるぜェェ!」
ダルそうにしゃがんでいたリューネがグインと顔を上げ、満面の笑顔で俺に抱きついてくる。
おっふ、予想以上の食いつきぃ。
二本出すってのは、俺が出す柱魔法の数のこと。
いつもは一本だけ出して殴ってもらっているのだが、冒険者試験に受かったら二本出そうじゃあないか。
まぁリューネには、ご褒美を提示するのが一番早いな。
柱を殴ることがご褒美ってのはよく分からないが、リューネが喜んでいるし、良いのだろう。
あと、俺の冒険者になるってのはどういう意味だ?
「君が『月下の宴』の期待の新人、シアンか。あのロイドが私を呼び出すほどだ、良い物を見せてくれよ」
「は、はいっ……!」
リューネと揉めていたら、王子であられるリーブル様が俺の肩を叩き、笑顔を見せてくれた。
ひいっ……俺の冒険者試験を王族様が見に来るとか、なんでこんな大変なことになっているんだ……。
「それでロイドさん、彼の試験方法を変えて欲しいというのは、どういうことでしょうか?」
冒険者センターで試験を受けるには、それを見届けて判断する試験官がいるのだが、今回はなぜか冒険者センター王都マリンフォールズ支部長という肩書をお持ちの、フラッグさんというガタイのいい紳士が来られている。
この人もロイドさんに呼ばれたんだろうか……。
とんでもなく顔の広い人だな、ロイドさんって。
「フラッグさんもお忙しいところ申し訳ない。彼、シアン君は以前冒険者センターファーマル支部で冒険者になるための試験を受けたが、落ちたそうだ。理由は、『柱魔法ではモンスターに対して何も出来ないから』だったとか」
ロイドさんが俺の横に来て、肩をポンポン叩きながら言う。
「確かに『柱魔法』というものは、古い書物に一文『重い物を持ち上げる』としか書かれていない。そして説明文があるのに、この魔法は過去に使用者がいたという情報が無い。不思議ですよね。僕もてっきり土木作業用に生み出された生活魔法かと思ったんだけど、どうやらこの魔法、説明文とは違う使い方があるようです。おそらく、世界がひっくり返るレベルの可能性に満ちた物かと」
「世界がひっくり返る……? まさか、ロイドさんほどの人が一体どうしたっていうんですか。使い道がないから廃れた、そういうことでしょう。柱魔法がいつからあったかは知りませんが、当時は重い物を持ち上げる道具の技術が低かったから使えた。でも今は重い物を持ち上げる道具の技術は飛躍的に上がっている。それにより柱魔法がいらなくなった。そういうことでは?」
ロイドさんの言葉に、冒険者センター支部長のフラッグさんが反論してくる。
重い物を持ち上げる、ではモンスターに何も出来ない。そのままその人を冒険者にしてしまうと、すぐにモンスターに襲われ命を落としてしまうかもしれない。
それを防ぐために、冒険者の命を守るために、冒険者センターは俺を試験に落とした。
多分そうなんだと思う。
「細かなことは、うちのヴィアンが『柱魔法』のことに興味を持ち調べ始めましたので、いずれ結果が出るかと。そして柱魔法の別の使い方、それをこれからシアン君が見せてくれます」
ロイドさんがでっかい大剣を軽々と持ち上げ、天に掲げる。
「それでは今から僕が彼に全力で斬りかかります。当然手加減はしません。もしそれで彼が無傷だった場合、試験を合格とさせていただきたい」
「な……! ロイドさん、あなた何を言っているんですか! 自分の剣が分厚い鉄の盾すら簡単に斬り裂くものだと分かって言っているんですか!? 全力って……この子が死んでしまいますよ!」
え? マジで?
冒険者センター支部長のフラッグさんと俺が驚きの顔。
ルナがそこまでやらなくても……と溜息をついているが、ロイドさんってSランクパーティー『月下の宴』のリーダーでしょう? とんでもなく強い一撃なのでは……。
「あはは! なるほど、ロイドが見せたいというのはこれか。いいではないかフラッグ支部長。あのロイドの重い一撃を受けて生きていられるのならば、冒険者の能力としては最高レベルではないか。しかも手加減無しとは……よほど彼の柱魔法というのはすごいのだな? ロイド」
「ええ。多分この試験の後、僕は自分の剣の未熟さを痛感し、急に訓練を始めるぐらいかと」
リーブル様が腹を抱え爆笑。ロイドさんもニヤリと笑い言葉を返す。
「よし、では少しイレギュラーではあるが、シアン=ソイルの冒険者試験を始める! 試験内容は、Sランクパーティー『月下の宴』のリーダー、ロイドの全力の一撃を受けて無事であること! 責任はこの私、リーブル=マリンフォールズが取る! あはは、こんな面白いイベントは久しぶりだ! さぁ生き残れよ少年。この私を満足させてみよ!」
リーブル王子が心底楽しそうに宣言をし、俺の冒険者試験が始まった。
なるほど、ロイドさんがリーブル王子を連れてきた理由はこれか。
まぁそれはいいのだが、俺、マジでロイドさんの全力の一撃を受け止めるの?
すっげぇ怖いんですけど。
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