第15話 無料朝食でおめかしルナと俺の冒険者試験必勝法は?
「昨日はごめんなさいね、シアン。せっかくの歓迎会だってのに、うちのアイリーンが試作中の睡眠薬なんてばら撒いちゃって……」
翌日早朝七時、一階の食堂で朝ごはんAセットを頂いていたら、ルナが二階から降りてきて俺の左の席へ座る。
「あ、いえ、俺には効果無かったですし。大変だったのは、俺とリューネ以外の人かと」
昨日の夕方から始まった俺とリューネの『月下の宴』加入歓迎会。
途中、色々あって皆さんが暴走し始め、狐耳パーカーの女性であるアイリーンさんに助けを求めたら、なぜか睡眠薬を投げてきてみんな眠ってしまったってやつ。
俺は伝説の神武七龍の一人、赤き翼の龍であるリューネにもらったネックレスがあったので効かなかったみたい。
ルナ曰く、その神武七龍ってのは全ての属性魔法と全ての状態異常が効かないまさに無敵の存在らしい。
そのリューネ本人からもらったネックレスは、自身の数千年分の魔力が込められた物で、持っているとリューネ本人同等の効果が得られるっぽい。
実際、ルウロウさんとの実技試験のときも剣からの爆発の効果をかき消していたし、アイリーンさんの投げた睡眠薬も俺には効かなかった。
なんというか、とんでもない物を貰ってしまったのでは。
結局アイリーンさんの睡眠薬は三十分ぐらいで効果が切れ、歓迎会は続けられた。
まぁ俺はお酒とか飲めないので、夜九時過ぎには用意してもらった三階の部屋で寝たのだが。
「そう、そういえばシアンはあのネックレスがあるから効かないのよね……。魔法が効かなかったり、状態異常無効だったり、まったく、あのドラゴンは異常よ。あ、今日のAセットは何? パンにコーンスープに薄切りハム、そしてスクランブルエッグね、うん私もそれにしようかな」
ルナがネックレスがある俺の胸元を指し溜息。そして俺の頼んだ朝食セットを覗き込み笑顔になる。
そしてご機嫌な感じで食堂のカウンターに向かい、Aセットを注文しているな。
今日のルナは紺色の身体のラインがよく分かるシャツに、紺色のふわっと下に向かって広がるタイプの長めのスカート。なんというか、お人形さんみたいに綺麗。
長い金髪にスタイル抜群の身体。朝の太陽の光が当たるとキラキラ光って、マジで絵物語に出てくる天使みたいな雰囲気だな。
「ぉはよぅごじゃいまぁす……って、うわぁあああ! ルナが朝からおめかししてるー! どうしたの? ほら、こないだ一緒に買ったおそろいの灰色ハーフパンツとダボっとパーカーはどこいったの?」
二階からショボショボした目でフラフラと降りてきた……あれ、メイメイさんだよな?
今セリフにあった、灰色のハーフパンツにダボっとパーカーにヘアバンドで前髪全上げの女性、昨日と全然違うので誰かと思ったら、メイメイさんだ。
その彼女が、朝からビシっとしているルナを見て目を見開き驚く。
「ちょ、や、やめてよメイメイ! 今日はこういう気分なの! いいでしょたまには」
ルナが顔を赤くし、焦ったようにチラチラ俺を見てくる。
なんだ?
「…………はっはーん、ほっほーん。そっかそっかー、出来るお姉さん路線で攻めるのかー。すぐにボロが出ると思うけどー」
メイメイさんも俺をチラチラ見ながら頷いているが、一体何を納得したのか。
なんにしても、朝食が美味い。
『月下の宴』のメンバーはこれが無料とか、マジでありがたい。
今まで朝ごはんなんて、食べないか、固いパンに水ぐらいだったから、とんでもない変化だ。
「えっとねシアン。昨日歓迎会を開きはしたけど、あなたはまだ冒険者ではないから、正式にはメンバーではないの。なので、まずはこの王都で冒険者になる為の試験突破を目指しましょうね」
朝食を食べ終え、追加で頼んだ紅茶を飲みながらルナが言う。
そうか、あの紅茶も無料なのか。俺も頼もう。
「シアン君、ルウロウの攻撃完全に防いだり、アイリーンの薬攻撃が効かないとかいうとんでもない強さなのに、まだ冒険者じゃなかったんだねー。なんか信じられないー」
「彼の能力『柱魔法』は、古い書物に『重い物を持ち上げる』としか書かれていないからね。それを見せられたとしても、普通の試験官は首を縦に振らないだろうね」
メイメイさんがダラーっとした格好で俺に言うと、その後ろから同じく朝食Aセットを持った男性、ロイドさんが現れた。
こちらも昨日とは違ってラフな格好。
「隣、失礼するよ。うん、今日のご飯も出来が良い。さて、先ほどルナレディアも言ったが、君にはまずは冒険者になってもらう。そうじゃないと、正式に『月下の宴』のメンバーにはなれないからね」
ロイドさんが俺の右隣りに座り、朝食セットを見て頷いてから食べ始める。
そういえば、この食堂のシェフでもあるんだっけ、ロイドさん。
当然シェフは他にもいるが、出来栄えを確認するということは、メニューを考えているのはロイドさんなんだろうか。
「でも……受かるかしら。シアンの実力は私たちが保証出来るけど、実戦での試験で、試験官に対してそれを証明出来るかなぁ」
ルナが溜息をつきながら言うが、そう、以前ファーマルの街の冒険者センターで冒険者になる為の試験で俺は柱魔法を見せたが、見事に不合格だった。
俺にはこれ以外に才能は無いし、試験を受けても同じことの繰り返しになってしまうのだろうか。
「そうだね、今まで通りの、木型の目標に向かって何かする、では受からないだろうね」
冒険者センターの試験は、木で作られた人型の対象に向かって剣技なり魔法を放つ、というもの。
動かない木型の人形の前に俺の柱魔法を出しても、何も起きませんね、で終わりだった。
攻撃ではない、回復魔法やサポート魔法は木型の人形にかけることが出来るが、俺の柱魔法はマジで目の前に石の柱が出来上がってお終いなんだよね。
「どういうこと? ロイド」
「シアン君の柱魔法の使い方は、盾。つまり、相手が攻撃をしてくるのを防ぐ、を見せればいいのさ。簡単だろ?」
ルナの問いに、ロイドさんがニッコリ笑顔で言う。
はて? ロイドさんは一体何をするつもりなのか。
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