第11話 食堂前でバトルからの実技試験






「誰だルナレディアお姉様をたぶらかす野郎は……貴様かぁ!!」



 Sランクパーティー『月下の宴』の拠点だという食堂。


 メイメイという女性がルナと俺を見て目を見開き驚き、叫びながら店内に飛び込んでいった。


 よく分からないが、とりあえず混雑するお店の前で騒ぎを起こすのも悪いので、拠点である食堂に入りませんか、と思ったら、メイメイさんと入れ替わりで、違う女性が抜刀状態で飛び出してきた。


 そしてなぜか俺をターゲット。



「例え子供だろうと私のお姉様を傷モノにしやがった罪の対価は……貴様の命だ!」


 軽鎧を装備した女性が、なんだかとんでもない速度で接近して剣を突き出してくるが、メイメイさんといい、一体何なの、さっきから。


 傷モノ?


 Sランクパーティー『月下の宴』のメンバーって、こういうヤンチャ系の人の集まりなの?



「……ァああ? チッ、なンだてめェ……アタシの炎で消し炭にされてェのか?」


 リューネが不機嫌そうに舌打ちをし、俺に剣を突き出してきた女性に拳を構えるが、慌てて止める。


 あの、リューネのそういう発言って、マジで躊躇なくやりそうで冗談に聞こえないんですよ……。


「柱魔法……」


「いい加減にしなさい、ルウロウ! 彼は私の大切な仲間でパートナーなのよ!」


 女性の剣は、リューネの速度に比べたら格段に遅い。


 でも生身で剣は受けられないので、柱魔法で防ごうとしたら、烈火の如く怒った様子のルナが剣を抜き、女性の剣を受け止める。


 二人の剣が交わった瞬間、女性の剣が光り、爆発が起こる。


 だがルナがそれに対し焦った様子もなく、緑に光る魔法、おそらく風の魔法で爆発を上空へ逃がす。


 おっふ……さすがルナ。


 こんな人が多くいる場所で爆発とか、けが人が出てしまうからな。よくぞ瞬時に判断したものだ。


「わ、私の大切なパートナー……! そんな……まさか……ルナレディアお姉様にパートナー……」


 女性が膝からガクンと落ち、涙を流しながら力なく地面にうずくまる。


「おおおお! すげぇ!」

「月下の宴のルナレディアさんとルウロウさんの剣技がこんな間近で見れるなんて……」

「パフォーマンス? いいぞ、もっとやれ!」


 お店に並んでいた人たちがヒューヒュー騒ぎだすが、ああ、なるほど、俺が知らないだけで、もしかしてこれが『月下の宴』流の歓迎ってことなのかな?





「ルナレディア、ルウロウ、二度とこういうことをしちゃダメだからね。僕らはSランクパーティー『月下の宴』なんだ。街の人が、冒険者が、騎士が、子供たちが、みんなが憧れの目で見ている。それを裏切るような行動は……ダメ、だからね?」


「……ご、ごめんなさいロイド。軽率だったわ……」


「も、申し訳ありません! 私のお姉様の一大事、悪鬼は滅せねばと……」


 その後、ニコニコ顔の背の高い男性に建物の個室に案内され、ルナと襲ってきた女性が正座させられ、こってりと怒られている。


 どうやら先ほどのバトルは『月下の宴』特有の歓迎ではなく、この女性、ルウロウさんという女性の暴走だった模様。



「それで、君がシアン君かい? うちのルナレディアがゴミや虫ではなく『逸材』と称した人物。そうか、『逸材』かぁ。僕なんか最初『背の高い枯れ木』なんて言われてさ……逸材かぁ、すごいなぁ。戦いたいなぁ……ふふ」


 二人のお説教が終わったと思ったら、ロイドさんがクルリと俺の方を向き、ぐいぐいと壁際に追いやられ、耳元で熱く呟かれる。


 ちょ、怖っ!


 ロイドさんて背が高くてヒョロっとしているけど、なんというか、放つオーラが強者……!


 気迫だけで……お、押される……!


「ちょっとロイド! 私のシアンに圧迫面接はやめてよね。実技試験なら私が現地でやっているから必要ない……」


「私がやります! やらせて下さいロイド! 私のお姉様がいきなり連れてきた男を『私のパートナー』とか言ったり、なんかおかしいです! 絶対にこの悪鬼に幻術でもかけられて混乱しているんです! 悪鬼絶つべし! 私のお姉様を取り戻します!」


 ルナがロイドさんを止めるが、後ろからまた先ほどの女性、ルウロウさんが抜刀し、俺を睨んでくる。


 さっきから俺のこと悪鬼とか、何なの、この人……。


 俺が使えるのは柱魔法だけですって。


 相手を惑わす幻術とか、そんなの使えたらもっと早く冒険者になってますよ。


「てめェ、マジで焼き殺す……わっふ、シアン分かった、静かにするって」


 またリューネがキレかけるが、すぐに口を手で塞ぐ。



「……ルナレディア、そういえばさっきから少年の後ろにいる彼女は?」


 俺とリューネの動きを見たロイドさんが、不思議そうにルナに聞く。


「あー……えぇっと、なんと言うか……『ドラゴン』かしら……」


「ド、ドラ……!!」

「お、お姉様がドラゴン……!」


 ルナの発言に、ロイドさんとルウロウさんが驚く。


 あ、ルナ、リューネの正体言うなって!


「ルナレディアが『逸材』だったり『ドラゴン』と称するとは……君たちは一体何者なんだ……? ああ、いいね、それを聞いて余計に君と戦いたくなったよ!」


「だ、だめですロイド! 悪鬼を滅するのは私です!」


 えーと、大丈夫そうか。


 ルナの『相手の強さ評価のランク』の表現だと思われているっぽい。





「えっと、ごめんねシアン君。うちのリーダーのロイドって料理は上手なんだけどバカで熱血漢だからー、拳で語らないと理解出来ないとかいう理由で、パーティーに新加入した人と戦いたがるんだよー」


 よく分からないが、食堂の裏にある広場に案内され、メイメイさんが謝ってくる。


「ここは……?」


「あ、ここは私たち『月下の宴』専用の訓練場でー、聞いたらルナがすでにあなたの実技試験はやったって言うんだけどー、あのルナが『逸材』と称する人物の実力を私たちも見たいっていうかー」


 周囲を高い壁で囲われた、かなりの広さの訓練場。


 そこで俺はさっきの女性、ルウロウさんと対峙している。


 え、実技試験?


 Sランクパーティー『月下の宴』のパーティーに加入するには、実力が見たいと。それは納得。


 っても俺、柱魔法しか使えないんですけど。



「さぁかかってこい悪鬼め! その化けの皮をひん剥いて、お尻丸出しでヒィヒィ言わせてやる!」


 ルウロウさんが鼻息荒く剣を構えてくる。



 さっきから俺を悪鬼だのなんだの、やけにこの女性に嫌われているのだが、俺なんかした?


 あとお尻丸出しでヒィヒィって、何されんの俺。















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る