第10話 Sランクパーティー『月下の宴』の拠点は食堂?





「長旅お疲れ様! ここが私たちの拠点である『月下の宴』よ!」



 エルフ特有の長い耳をピコピコ動かしながらルナが言う。


 こういうときのルナは機嫌が良い証拠。




「でっか……って食堂?」


 王都マリンフォールズ駅からお城方面に真っすぐ伸びる道を歩き、大きな建物の前でルナが楽しそうに看板を指すが……ここって食堂じゃないのか?


 時刻はお昼過ぎ、お店には多くの人が並び順番を待っている。


 人気店なのだろうか、建物の裏あたりまでかなりの行列が出来ているぞ。


「そう、『月下の宴』のパーティー名の由来は食堂の名前なのよ。リーダーをやっているロイドの料理の腕前がすごくって、シアンも絶対に気に入ると思うわ!」


 三階建ての大きな建物。


 お店の入口には確かに『月下の宴』の看板が飾ってあるが、拠点が食堂なのか。


「二階と三階はパーティーメンバーの住居になっていて、メンバーなら無料で寝泊まり出来るの。そういえば説明も無しに連れてきてしまってごめんね、シアン。でも大丈夫、今日からなんの心配もなくここに住めるから」


 へぇ、ご飯無料に住む部屋も無料ですか。


 Sランクパーティー『月下の宴』って、マジすげぇな。


「あの、ルナ。リューネは……」


「……さっきはああ言ったけど、ロイドが底抜けに良い人だから、多分大丈夫よ。ちゃんと二人分……」


「あァ? アタシはシアンと一緒の部屋で問題無いぞ。そのほうが色々早ぇしよ、ヒャッハハハ!」


 リューネは『月下の宴』のメンバーではない。


 俺がルナに誘われて王都に行く途中に出会ったので、ダメなのは分かるけど、そこを何とか、と思ったら大丈夫なのか。


 良かった……ってリューネ? 俺と一緒……だと?


「だ、ダメよ! 年頃の女の子と男の子が一緒の部屋とか、絶対にダメ! そうだった、シアンを守るためにも、絶対に部屋を用意するわ! 絶対に、私が自腹を切ってでも……!」


 リューネがゲラゲラ笑いながら言うと、ルナの顔が真っ青になり、俺を抱き寄せリューネから遠ざける。


 おっふ、ルナの大きなお胸様が顔にがっつりくる……。


「年頃だァ? てめぇ、アタシの年齢知ってンのかよ。そんな人間の細けェルールとか知ったことか。アタシはシアンを気に入ってんだ。抱きてェときに抱くし、シアンから求められたら応えるまでだ。ああァァ……早くシアンの上に跨って、可愛い顔でヒンヒン言わせてぇェ……! ヒャハー!」


 ルナの発言にちょっとイラっとした顔になったリューネだが、途中から恍惚の表情になり、空に向かってヤベェ発言を吼えだす。


 これ、さっきの駅前と同じ状態じゃないか。


 せっかく逃げるように移動してきたのに、こっちでも同じことになってんぞ。


 ああもう……。


「リューネ、そこまで。さっき約束したよね、俺の言うことを聞くって。あんまりトラブルを起こしちゃだめだよ。……柱、俺に出して欲しいんだよね?」


 俺はリューネの頭を優しく撫で言う。


 ルナはSランクパーティー『月下の宴』のメンバーで知名度すごいし、食堂に並んでいる人たちがすっげぇこっち見ているんだって。


 このへんで収めておかないと。


「ヤっば……聞く聞く、アタシはシアンの言うことなら何でも聞くって。だからシアンのあの固くて長っげェ柱を取り上げないでくれよォ……出来たら毎日アタシの為に出して欲しいし、あの快楽を知ってしまったら、もう無理ィィってやっぱシアンのナデナデ……くるゥゥゥ!」


 焦ったように俺にすがってきたリューネだが、また途中から恍惚の表情になり、卑猥そうに聞こえる言葉で吼えだす。


 あああああ、もう……ルナも真っ赤な顔で俺をリューネから引きはがそうとしてくるし、リューネは空に向かってヤバ発言だし……なんなのこのメンバー……。


 ってそういやリューネって何歳なんだろうね。


 正体ドラゴンとはいえ、女性に年齢聞くとか失礼過ぎて出来ないけど、興味はある。



「あれぇ? なんかお店の前が騒がしいと思ったら、ルナだー! 帰ってきてたんだねぇあははー!」


 お店からひょこっと出てきた女性が、ニコニコ顔でルナに抱きついていく。


「あ、メイメイ、ただいま。みんないる?」


「うん、みんな帰ってきてるよ。ルナが最後ー」


 た、助かった……誰だか知りませんが、おかげでどうしようもない状況を脱せました……。



「……なんだかルナが楽しそうー。めっずらしー。あれぇ、誰?」


 フワフワとした可愛い服だが、よく見ると結構筋肉ががっしりしている。


 その女性が、じーっと俺を見てくる。


「あ、紹介するわね。彼はシアン。ファーマルの街で私がスカウトしてきた逸材よ」


 ルナが笑顔で俺を紹介してくれている。


 ってことはこの女性、Sランクパーティー『月下の宴』のメンバーってことか……!


「は、初めまして! シアンといいます! まだ冒険者ではありませんが、よろしくお願いします!」


 俺が元気よく挨拶するも、女性は目を見開き驚き顔のまま動かない。


 え、あれ? 俺なんか失敗した?


「ほ、ほえええええええー! み、みんな……ルナが、ルナが男を連れ込んできたよー! しかも逸材とか……今までどんな冒険者を見ても冷たい目で『ゴミね』とか、最大でも『……虫以下』とかしか評価しなかったあのルナが『逸材』評価……こ、これは明日には世界が終わるかもー!」


 女性が目をグルグルさせ大声で叫び、食堂内に転びそうになりながら走っていく。


 ゴミ? 虫以下……?


「ちょ……! もうちょっとマイルドに言ったわよ! 落ちている小枝とか、枯れた野草とか……!」


 ルナが長い耳を真っ赤にさせ弁解しているが、それほど弁解出来ていないのは気のせいか。



 もしかしてルナって……結構毒舌?














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