第9話 王都マリンフォールズと激レアの赤い魔宝石ネックレス





「さぁ着いたわよ、王都マリンフォールズ! 南側が港で、北側の小高い所にあるのがお城よ」



 ルナが嬉しそうに耳をピコピコ動かし、満面の笑み。


 まぁルナはSランクパーティー『月下の宴』のメンバーで王都在住。つまり家に帰って来たってことだろうし、嬉しいのだろう。


 俺にとっては初めての王都。さて、どんなところなんだろうか。



 ベイローグ駅を出発して二十四時間、残念ながら俺は列車酔いでベッドがお友達だったので、景色などは楽しめなかった。


 だが王都に着いてしまえば俺は徒歩。酔うことがないので無敵である。


 現在お昼、天気も良く絶好の観光日和。さぁ王都を楽しむぞ。


 パッと見で、建物がニョキニョキと建ち、どこも混雑していて人口の多さを感じる。



「まずは私たちの拠点に行きましょう。他のメンバーもスカウトに行っているから全員はいないかもしれないけどね。シアンはまず冒険者になることからスタートだけど、がんばろうね」


 ルナがニッコリ微笑み俺の頭を撫でてくる。


「う、うん……」


 あ、違った。そういや観光じゃあなかった。


 乗り物酔いに耐えに耐え、車窓の景色も見ることなく王都に来たのは、Sランクパーティー『月下の宴』のメンバーになるためだった。


 そう、俺ってまだ冒険者じゃあないから、正式には『月下の宴』に入れないんだよね。


 そうだった、よし、まずは目指せ冒険者だ。



「くァ……チッ、しっかしおっそい乗り物だったな。アタシが飛べば一瞬だったぞ、こんな距離。アタシの背中だったらシアンも酔わなかっただろうし、今度からそうしようぜ。ヒャッハハ」


 リューネが駅に降り、列車を見て舌打ち。


 俺の右腕に絡みつきながら爆笑し始めたが、あのリューネさん、ドラゴン基準で語られても困ると言いますか、列車って人間の文化の中では相当に早い乗り物なんですよ。


 あと、ドラゴン形態で王都に突入したら、絶対に大騒ぎになるのでダメです。


「リューネ、一応トラブル防止の為に、自分の正体はバラさない方向でお願い出来るかな」


 物語の英雄勇者が挑むクラスの存在なんだぞ、ドラゴンって。


 そんな奴が気軽に王都を飛び回ったら、王都を守ろうと騎士やら冒険者やらと戦いになってしまうかもしれない。


 しかも全面戦争クラスの。


「わーってるって。柱を殴らせてくれるんだから、言うこと聞くって。でもアレなんだよな、困ってるシアンの顔見るのも快感というか、上に跨って鳴かせてェっていうか、ヒャッハハハ!」


 こ、こいつ……


「そんな下品な人放っておいて、行きましょうシアン。まずはお昼ご飯ね。私たち『月下の宴』の拠点は食堂を経営していて、なんとパーティーメンバーならご飯は無料なの。いっぱい食べていいからね、シアン。ふふ」


 ルナが俺の左手を引き、駅から出ようとする。


 そういや列車では車内販売のパンとかだったので、野菜が欲しいというか、暖かいスープが飲みたい。


 あ、いや贅沢言った。お金の無い俺にはパンとお湯で充分……って無料? 


 す、すげぇ……やっぱSランクパーティー『月下の宴』ってすげぇ。


 列車が無料だったり、拠点でのご飯も無料とか、お金の無い俺には夢みたいな場所だ。これは絶対に冒険者になって正式にメンバーにならねば。


「あァ、列車でのパンとか最悪だったな。早くまともなメシが欲しいぜ、ヒャッハハ!」


 リューネってドラゴンだけど、普通に人間のご飯食べるんだよね。


 量は普通の人の二倍ぐらいだったけど。


「……あなたは『月下の宴』のメンバーではないので、お金が必要よ」


 喜ぶリューネにルナが冷たいまなざしで言い放つ。


「ぇぇェえって、マジかよ! アタシだけのけ者とかひでぇって、な、シアン、おかしいよな、これっておかしいよなァ!」


 ルナの一言でリューネの笑顔が消え、泣きそうな顔で俺にすがってくる。


 ……さっきまでの自信満々の態度やガラの悪さがどこへやら。急にリューネが可愛くなったぞ。


「ルナ、リューネは俺たちの大事な友人じゃないか。その、なんとかならないかな」


 俺はリューネの頭を撫で、ルナに言う。


 お金は多少あるが、リューネって大飯食らいっぽいし、俺の手持ちで足りるかな……。


「…………ああもう、シアンは可愛い……いえ甘いんだから。というか、あなた伝説レベルのドラゴン、神武七龍の一人なんでしょう? 換金出来る宝石とかそういうの、無いの?」


 ルナが俺のお願いに顔を赤くする。どうしたんだ?


 あ、そういやリューネって伝説のドラゴンなんだよな。とんでもないお宝とかいっぱい持っていそうだけど。


「リューネ、これからは人間の文化の中で生活することが増えるだろうから、もしかしたら多少のお金が必要かもしれない。換金出来そうなアイテムとか、ないのかな」


「そういうのは邪魔だから山に置いてきた……。あれ、なンかこれ……くるぞ? シアンの頭ナデナデ……なンかくるーー!」


 泣きそうなリューネの頭を撫でながら優しく聞くと、急に目をバチーンと見開き、笑顔で俺に抱きついてくる。


 ちょ……何がくるの……って苦しいって、リューネ!


「……あ、ある。そういやあるぞ。ほらこれ。アタシの数千年分の魔力が溜まっている魔宝石」


 俺への締め付けを止め、胸元でリューネがもぞもぞと動く。


 水着みたいな服の胸元をガバーっと広げ、その中を俺に見せてく……ちょ……! お胸様が見え……!


 ってよく見たら、首にネックレスをしているのか。


 それに綺麗な赤い宝石が付いていて、ほんのり光っている。


 魔宝石? なんかお高そうだけど?


「……っ! ちょっと、これ……魔力が込められた魔宝石はよく使うし知っているけど、込められた魔力が光っているって……とんでもないレベルの魔宝石よ、これ! そ、そうか、神武七龍の一人、伝説の「赤き龍」の魔力……人間なんかが込めた魔力とじゃ比較にすらならない……! だ、だめよ、こんなのが世に出たら、世界がひっくり返るぐらいの出来事よ!」


 リューネから赤く光るネックレスを受け取り眺めていたら、ルナが俺の手を掴みブルブルと震え始めた。


 え、世界がひっくり返る……?


「触んな、クソエルフ。これはシアンにあげるンだからよ。柱も殴らせてもらうし、こいつはアタシの物ってマーキングしとかねェとな、ヒャッハハ!」


 ルナが宝石に触ろうとすると、リューネが舌打ちをしながらネックレスを持ち上げ、俺の首に付ける。


 え、こんなお高そうな物、もらっていいの?


「これ付けときゃ、炎とか毒とか、人間やモンスターの弱ェぇ攻撃なら余裕で守ってくれるぞ。まぁシアンの柱を突破してくる存在なんて、この世界にいねぇけどな、ヒャハハ! まぁ保険だ保険。このアタシの加護をちょっとだけプレゼントってやつだ」


「あ、ありがとうリューネ。よく分からないけど、嬉しいよ」


 炎? 毒? よく分からないが、俺なんかがお高そうな宝石を貰っていいものなのか。



「全属性魔法無効、全状態異常無効……確か神武七龍って、そういうものなのよ……それがシアンに……。す、すごいどころじゃなくて、あなた本当に無敵になったかもしれないわ……」


 赤くて綺麗な宝石入りネックレスを貰い、リューネの頭を撫でていると、ルナが震える声で何か言っている。


「ァああああー! くるー! シアンのナデナデ……くるー!!」


 リューネがトロンとした顔になり、奇声を発し始めた。



 うーんと……なんか周囲の注目を集めているし、早くルナの拠点とやらに行こうよ……















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