第8話 列車の個室で二十四時間美女二人と一緒だけど……?





 出発してから三時間後、俺たちの馬車は列車の駅がある街に着いた。


「ここがベイローグの街よ。魚介の美味しいお店があるんだけど、今は王都に行くことを優先しましょうか」



 ファーマルの街から南に進み、現在午前十一時。お腹がすきだす時間。


 へぇ、ここって大きな漁港があるんだ。


 俺の街にもあったが、小さい規模だったからなぁ。



 ルナが馬車を降りて混雑する駅へ向かい、窓口でチケットを購入している。


 さすが世界を飛び回っているSランクパーティー『月下の宴』のメンバーであるルナ、こういうことの手際が良い。


 俺は列車に乗ることすら初めてなので、ただただ見ているしか出来ないのは情けない。


 つか、馬車で酔った俺とかいうザコがいるんですけど、列車ってのは大丈夫な乗り物なんですかね。



「おい見ろよ、エルフだ」

「おお、俺初めてみた。すっげぇ美人だな」


「うわぁ、もしかして『月下の宴』のルナレディアさんじゃない?」

「本当だ、これから王都に帰るのかな。間近で初めて見た……サインもらえないかなぁ」


 ベイローグ駅はかなりの混雑で、人とすれ違うのですら大変な状況。


 そんな中でも、俺の前を歩くルナに注目が集まる。


 まぁ、エルフって滅多にお目にかかれないし、耳が特徴的だからすぐ分かるしね。


 雑踏の中でも輝く、ルナのキラキラとしたオーラ。そして誰もが振り返るほどの美貌にスタイルの良さ。加えて知名度の高さもあるので、周囲に人が集まってきて大変なことになってきたぞ。


「あァァ……チッ、うっぜぇー! なんだよこの人間の数。ちょっと減らしたほうがスッキリすんじゃねぇのか? な、シアン、そう思わねェ?」


 それとは正反対、かったるそうに歩き、じろじろ見てくる周囲の人に攻撃的な視線を送り、舌打ち&悪態のコンボを放つリューネ。


 正直リューネも見た目が良いし、スタイルも最高、水着っぽい服で露出度が高いので注目はされているのだが、なんというか、にじみ出るどころか全方向に射出されるガラの悪さが……。


「後ろのは何かな? すっごい悪人顔だけど」

「あれじゃないか、ルナレディアさんが犯罪者を連行中なんだよ」

「なるほど、前の少年を脅しているっぽいし、それで正解じゃないかな」


 ……周囲の皆さん、確かにリューネは今、すっごく不機嫌そうで、混雑で離れないように俺の服を掴んで歩いてはいるが、これは犯罪者の連行中でもなければ、俺が脅されてもいませんって。


「あァん? 丸焼きにすンぞ? アタシの炎は人間なんて跡形も残らないやつで……」


「リ、リューネ、ほら行くよ。さっき柱を殴ったよね? 約束、覚えているよね?」


 後ろのリューネの口からちょっと火が漏れ始め、俺は慌てて手を引っ張る。


「おォ、そういや今日のはもう殴ったな。そうだった。おかげで身体の調子がバッキバキに良くてよォ。つかそんなに情熱的にアタシの手を引っ張るとか、アレか、興奮が抑えきれないってやつだろ? いいぜ、アタシも身体が良い感じだし、列車でヤるか、ヒャハハハ!」


 俺がグイグイとリューネを引っ張ると、後ろからヤベェ発言と爆笑が。


 ああもう……予想はしていたけど、杞憂で終わって欲しかった……





「うわああ、すげぇえ! まさか列車に部屋があるとは!」


 すぐに乗れる列車があったらしくルナのあとについて列車に入るが、通されたのは部屋。え、列車って座席がズラーっと並んでいるわけじゃあないのか。


「ふふ、すごいでしょう。私たちSランクパーティー『月下の宴』のメンバーはね、国からの特別移動支援があって、空いていればこうやって無料で個室が取れるの」


 驚く俺にルナが得意気に説明してくれたが、うへぇ、やっぱすげぇんだなSランクパーティー『月下の宴』って。


 国から特別扱いかよ。


 本来はこの部屋、結構お高いらしいですよ。


「普通の席も取れるんだけど、せっかくだからこちらにしましょう。シアンの初めての王都なんだから、豪華にね」


「ありがとうルナ! 俺すっげぇ嬉しいよ! うわぁ、これが列車の個室かぁ、ベッドも三つ、ソファとかテーブルもある!」


 初めての豪華列車に、俺が大興奮。


 ……ん? ベッドが三つ?


「あのルナ、王都まではどのぐらいかかるの?」


 なんか寝るところがあるけど……まさか?


「そうね、王都マリンフォールズに着くのは明日のお昼ね。大丈夫、このお部屋でのんびりしましょう? ここならシアンの乗り物酔いも大丈夫かもしれないし、ふふ」


 ルナがニッコリ笑顔で言うが……え、明日のお昼に到着予定?


 え、つまり、今日はここでお泊り……と。


 え、俺、ルナとお泊り……!


「なンだここ? ああ、アレか、ヤるための部屋か。ンだよ、お高くとまってたクセに、溜まるモンは溜まってたのかよ、ヒャハハハハ!」


 俺がこれから起きたら良いな、という妄想を五十は妄想していたら、背後からがっつり肩を組んでくる女性が。


 だ、誰だよ俺のエロ妄想を現実に引き戻す野郎は……ってリューネいた。


 リューネは手足のゴツイ武具を外し、着ているのは水着みたいな肌露出の多いものだけ。


 その、肩とか背中に柔らかい物がガッツリ……キテマス。


 そうだ、俺、ルナっていう超絶お美人エルフさんだけじゃあなくて、正体ドラゴンではあるけど、こちらも美人様、リューネとも同じ部屋で寝ることになるのか……!


 すごい、Sランクパーティーってすごい!


「おいでシアン。そっちにいたら下品が移っちゃうから、ふふ」


 あれ? ルナが怖い笑顔……


「ヤるのに下品も上品もねェんだっての、クソエルフが。ヒャッハハハ!」


 はて、なんだか美女二人に挟まれてしまったが、俺の運命やいかに。





「ぅうぅ……気持ちワルイ……」


 出発から一時間後、無事俺は乗り物酔いになり、窓の景色すらまともに見れないベッドがお友達の二十四時間列車旅デビューとなった。

















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る