第7話 新たな仲間、神武七龍のリューネフルエクス
「……山が二つに、知らない天井……」
深い眠りから目を覚ますと、そこにはぼんやり見える大きな山が二つに知らない木張りの天井。
……なんだかとても辛くて苦しい夢を見ていた気がするが、なんだっけ。
それより、なんか良い香りがするんだが、これはなんぞ。
ガタガタ動いている物に乗っているような震動もあるし……って、思い出したぞ!
初めての長距離馬車に浮かれてたら酔って、休憩ポイントで地面に転がっていたら知らない女性に襲われて、これから毎日殴らせろとか言われたんだ!
「あ、起きた? 良かったぁ、ピクリとも動かなくなったから、心配していたのよ」
山の向こうに顔が見え、俺を覗き込んでくる。
ってルナ……!
やっべぇ、なんか妙に柔らかくて良い香りがすると思ったら、俺馬車でルナに膝枕をしてもらっているぞ。
「うわっ……ごめんなさい! 決してやましい気持ちでやったわけではなく……!」
「どうしたのシアン? そんなに慌てて。まだ痛む? もう少し休んでいてもいいのよ?」
慌てて起き上がろうとするが、ルナが俺の頭を抑え、膝枕タイム続行。
「え、いや、どこも痛くはないです……」
「……悪かったって。だいぶ加減はしたつもりだったンだけどよ、人間って過去に握りつぶしたことはあっけど、安全に抱いたことはなかったンだって」
馬車の向かいの席に膨れっ面で座っている女性が、過去の殺人の思い出を語ってくる。
この場を和ませようと言ったジョークなのか知らないが、こっわっ……って俺を気絶するまで抱きしめた女性、リューネさんじゃないですか。
なんで同じ馬車に乗っているんだ?
「それで、あなたは何でこの馬車に乗っているの? 正直邪魔なんですけど」
「……くぁ……ねむ……馬車って遅っそ。飛んだほうがはええのによぉ」
とりあえず起き、三者会議開始。
ルナがムスっとした顔で言うが、当のリューネさんはつまらなそうに外を見て大あくび。どうにも、ルナの声に反応する気は無いみたいだ。
この人、本当に昨日襲ってきた赤いドラゴンなんだろうか。
さっき背中から翼をバサっと生やしたが、今はないな。
出し入れ自由なんだろうか。うーん。
「……えーと、リューネさんでしたっけ。その、あなたは昨日の赤いドラゴンで、今は人間の姿に化けている、で合っていますか?」
「おォ、なんだシアン、アタシに興味津々か! いいぜ、毎日殴らせてもらう代わりに、アタシの身体を好きにしていいぞ。童貞のシアンには最高の対価だろ? アタシも楽しめるし、シアンも喜ぶ。なンだよ、アタシたちって最高のコンビじゃねェか、ヒャハハハ!」
俺の問いに足をガバっと開き、自分の大きなお胸様を満面の笑みで指してくるリューネさん。
対価に抱いていい……? ええっと、会話になっていないぞ?
いくらスカートとかではなく水着みたいな服でも、女性に足をガバっと広げられると、どうしても男としては視線が行ってしまう……いやいかん、これが童貞行動……いやいやでもまぁ少し、ちょっとチラチラなら……
「ちょっと、ちゃんとシアンの質問に答えなさいよ」
ルナが俺の視線の先に気が付いたらしく、軽く肘で小突かれる。
おっふ……ご、ごめんなさい!
つかなんで俺が童貞って知ってるの、リューネさん……。
「……ふァ、全然進まねぇなァ。チっ、なァシアン、行きてぇ場所があンならよ、アタシが抱えて飛んでやっから、このうるせぇエルフ女がいる馬車からさっさと出ようぜ。遅っせェしよォ……」
リューネさんがつまらなそうにあくびをし、ルナに向かって舌打ちをする。
なんというか、とりあえずリューネさんはルナの言葉を聞く気は無いってことだろうか。
ルナもにこやか笑顔でキレてるし、早くどうにかしないと……狭い馬車でこの雰囲気はきついっす。
「あとよぉ、さん、とかやめろよな。リューネでいいっつったろ。七龍の一人、このアタシに勝った男なんだからよ、当然だろ。ヒャッハハ!」
「な、七龍……!? 七龍って、あの神武七龍? この世界を支配していて、過去に勇者が挑んだという……」
ルナが驚き、声を上げる。
神武七龍? そういえば俺が憧れた英雄譚の勇者が、そんな感じの龍に挑んで倒したとかだったような。
「……リューネ、でいいのかな。それは本当の話なのかな」
「おお、やぁっとアタシをちゃんと呼んでくれたな、シアン。ヒャッハハ! それでいいんだよ。そ、アタシがその七龍の一人、赤き龍リューネフルエクスだ」
リューネがニヤァと笑い、ビシっと自分を指す。
世界を支配してる龍とのことだが、なんというか、行動が軽いんだよな……この人。いや、このドラゴン。
まぁ、俺も一度戦ったし、さっきのルナとの戦いでも圧倒的な強さだったからな。
あのSランクパーティー『月下の宴』のメンバーであるルナが手も足も出なかったレベル、そして赤い翼もさっき見たし……本物、なのだろう。
「ええっと、俺たちはこれから王都にいくつもりなんだけど、リューネはどうするのかな」
「あァ? だから一緒に行くっつってんだろ。毎日シアンの柱を殴れるとか、最高じゃねぇか。こういうのを、数百年夢見ていたんだよ! ヒャハハ!」
うーん、どうしよう……この人、絶対今後もトラブル引き起こすよなぁ。
チラとルナを見るが、思いっきり手でバツの動作をしている。
リューネを見ると、楽しそうな笑顔。
数百年の夢、か……
「……分かりました。正直、リューネの言うことには分からないことが多いけど、その真っすぐな性格、俺は好きです。嘘をついているようにも見えないし、柱を殴っているときのリューネの顔は、本当に楽しそうだった。リューネの言う、数百年夢見ていたという言葉の全ては理解出来ませんが、もし俺の夢、冒険者になって父や母のように戦えない人を守る、を叶えられたら、リューネのような笑顔になっているかもしれない。いや、そうなりたい。つまり、俺はあなたに憧れを持ったし、リューネのその笑顔が好きになりました。共に行きましょう、ただし……」
「ちょ……! シアン!」
「ヒャハー! アタシが好きってか! いいねェ、人間がドラゴンに恋をする、そんな物語が人間の本にあったよなァ。いいぜ、それ、実践してみようじゃねェか、ヒャッハハハ!」
ルナが心配そうに見てくるが、多分、大丈夫です。
あとリューネ、俺が言ったこと端折り過ぎだ。
「……ただし、声を、俺の言うことをしっかり聞いてください。人間はあなたのように強くはありません。あなたの拳一つで簡単に壊れてしまいます。出来たらあなたの拳は壊すためではなく、守る為に使って欲しい。代わりに毎日かどうか分かりませんが、タイミングを見て柱を出しますので、その時は思いっきり殴っていいですよ」
ルナの言うことには聞く耳持たずな感じだったが、なぜか俺の言葉にはしっかり反応していた。
リューネの拳の破壊力は、人間なんか簡単に壊せるような桁外れな力。
これだけはこちらでコントロール出来ないと、大変なことになってしまう。
どうだろう……聞いてくれるか……?
「あァ、いいぜ。アタシに勝った男の言うことだ、それは聞くさ。拳で壊すと守るの違いはアタシにはいまいち分かンねェけどよ、シアンには分かってンだろ? だったらそれでいい。それにシアンの言うこと聞かねぇと、毎日柱殴れねェしな! ヒャハハハ!」
リューネが拳をガンガン突き合わせ、笑う。
俺が勝ったってのが、いまだに意味が分からないけど、まぁいいか。
「ああ、もう……なにがなんだか……」
ルナが顔を手で覆い呆れているが、正直リューネの拳は相当な戦力になる。
人間では太刀打ちできないような理不尽な力に対する切り札になってくれるのなら、これ以上ない頼れる仲間になるのでは。
「しっかしシアンがアタシを好きだったとは驚いたぜェ。邪魔なエルフ女がいないところで、二人でたっぷり楽しもうな、シアン。ヒャッハハハハ!」
「だ、誰が邪魔なエルフ女ですって!? いいシアン、絶対に私の側を離れちゃダメよ。王都にはこういう悪い女がいっぱいいるから、騙されないように、いい? シアン!」
とりあえず王都に行くメンバーが一人増えたのだが、なんというかルナとリューネは水と油って感じだろうか……
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