第6話 ルナVSリューネと毎日柱を殴らせろ
「な? シアン、とりあえず一本でいいからよ、出してくんねェ? あとお前、間近で見たら結構かわいい顔してんのな。いいぞ、ソッチの世話もしてやらんでもない」
俺が六歳から十年間住んでいた街、ファーマルを出発し、目指すは遠くにある王都。
……申し訳ないが、俺はモンスターに襲われ滅んでしまった故郷の街と、避難先であった街、ファーマルしか知らないので、この国の王都がどこにあるかとか知らないんだ。
とりあえず、世界を飛び回っている歴戦の冒険者、Sランクパーティー『月下の宴』のメンバーであるルナに任せておけば大丈夫だろう。
長距離馬車に乗るのですら初めてで、しかも豪華なもんだから浮かれていたら、激しい馬車酔いが俺を襲う。
自分の馬車耐性の無さを恨みつつ青い顔で休憩ポイントで休んでいたら、いきなり上空から女性が隕石のように降ってきて、爆風で地面に転がった俺に覆いかぶさってきた。
謎のヤベぇセリフを吐きながら。
「お前が子供のころからずっと上から見てたけどよ、結構アタシ好みの良い男に育ってんじゃねぇか。ヒャハァ……じゅるり……」
「ひぃ……!」
「いい加減離れなさい不審者! これ以上シアンに危害を加えるのなら、こちらも相応の行動に出るわよ」
知らん女性が俺の顔を見てヨダレ垂らし、それを手で拭ったところでルナが剣を抜き、女性に警告をする。
た、助かった……一体誰なの、この発言ヤバめの女性。
頭に二本の角の生えたアクセサリーを付け、水着のような露出度の高い衣装なんだけど、手足にはゴッツイ武具を付けている。
近接格闘系の冒険者か?
「……ァあん? 誰だてめェ。このアタシに剣を向けるってのは……そういう意味だよなぁ? クソ雑魚の分際で良い度胸じゃねェか、ヒャハハ!」
俺に覆いかぶさっていた女性がルナの剣に全く動じず、むしろ挑発して睨みつける始末。
ちょ、さすがにSランクパーティー『月下の宴』のメンバーであるルナをクソ雑魚扱いは、世界を知らなすぎでは。
「雑魚……? いいでしょう、相手になるわ」
ルナが微笑みながらキレ、風の魔法を剣に纏わせ距離を取る。
「あ、ちょ、ダメですって二人とも! 怪我しちゃいますよ!」
「このアタシがシアン以外のやつに負けるわけねェだろ? ヒャッハー!」
女性が一瞬で俺の目の前から消え、少し離れた位置にいるルナの目の前に移動……え、早すぎる……!
ルナはその動きに反応出来ず、剣すら向けられない状況。
これはまずい……!
「ダメだ……! 二人ともそこまでです! 柱魔法アルズシルト!」
俺はルナの目の前に柱を出現させ、女性の攻撃から守る。
「ヒャハー!! すげぇなシアン! この速度のアタシを目で追えている! そしてこの……固くて長げぇやつ! 最高だぜェ!!」
女性が振りかぶった拳をルナの目の前に出現した柱にぶち込む。
「おら、おらァ! これだよ、これ! アタシがずっと欲しかったやつ! この世界でただ一つの、いくら殴っても壊れねぇシアンの長い棒!!」
耳が痛くなるような音が響き、女性の右拳が柱に跳ね返されるが、お構いなしに次は左拳を叩き込む。
「ヒャハハハハァ! 最高……最高だぜ! これ、いくら殴っても良いんだろ? ふォあァァァ! 満たさせるぜェ!!」
連打連打で女性が勢いよく柱に両の拳を叩き込む。
周囲には衝撃波が起きるほどの、とてつもない攻撃。
歴戦のSランクパーティー『月下の宴』のメンバーであるルナもこの光景に驚き、口をポカンと開け地面に座り込んでしまった。
この女性……強い。
Sランクパーティー『月下の宴』のメンバーであるルナが足元に及ばないレベル。
一体何者なんだ。
「そ、そこまでにして下さい……! 耳が痛いですって!」
底なしの体力なのか、連打を続ける女性。いい加減音がすごいし、うるさい。
周囲に人も集まってきてしまったし、この辺にしていただきたいのだが……。
「お? ああ、わりぃわりぃ、シアンの柱が最高過ぎて時間の感覚失ってた。良かったなエルフ女、シアンの柱が無かったら消し飛んでたぞ。ヒャハハ」
俺の言葉が届いたようで、やっと女性が拳を止め、座り込んでいるルナを睨んでから俺の後ろに来る。
……ん? なんでこの女性、俺の後ろに来るの。
「あの、寸止めする気だったのは分かりますけど、もう少し抑えてくれないと、音がすごいですし、衝撃波出るレベルのはちょっと控えてくれたら……」
なんでか俺のすぐ後ろに来た女性に苦言を言う。
「悪かったって。ひっさしぶり、いや、初めて殴っても壊れねぇ物を出すやつが現れたからよ、興奮しちまって抑えられなかったんだって。これからはキチンとシアンの言うこと聞くからよ、それで許してくれって。つかやっぱ見えてたのか、さすがシアンだぜ、ヒャハー」
女性が申し訳なさそうに片手を上げ、謝るポーズを取る。
……これからは俺の言うことを聞く?
ん?
「お、驚いた……まさかこの私が剣すら振れないとはね……。世間的には強いつもりでいたけど、こんな強い無名の人がいるなんてね。私ももっと強くならないと……で、シアン、この女性は……誰? 知り合いっぽいけど?」
お尻に付いた土を払い、ルナがゆっくりと俺の目の前に歩いてきて、にっこり微笑みながら聞いてくる。
あの、ルナさん……ちょっと顔が怖いんですが?
「い、いや、俺はこの女性とは初対面ですって。名前すら知らない……」
「名前か? リューネフルエクスだ。なげぇからリューネでいいぞ、シアン」
俺がルナの急激な圧力に焦っていると、後ろから女性が名乗る。
……リューネ? うん、全く聞いたことがないです。
「いえ、その、聞いたことが無い名前で……」
「おいおい、ひでぇな。昨日コテンパンにアタシをやっつけておいて、お前なんて知りませんとかよォ。ンだよ、アタシはシアンの記憶にすら残らねぇ雑魚なのかァ?」
女性が俺の言葉に残念そうに肩を落とし、俺の背中をツンツン突いてくる。
昨日コテンパンに……?
なんのことだ? 俺は女性と戦った記憶はないが。
「昨日……?」
「おお、思い出したか? ほら、この赤い翼、覚えてンだろ?」
俺がウンウン唸っていると、女性がニッコリ笑い、背中からゴッツイ翼を出現させる。
え、ちょ、何? なんなのこの人……!
「ん……? この赤い翼……そういえば昨日、オークたちとの戦いの途中で、空から赤いドラゴンが襲ってきたような……その翼とよく似て……」
待てよ、そういえば昨日、上空にいた赤いドラゴン、あの翼がこんな感じだった。
「やっと思い出したのかよ。ったくよォ、それがアタシだってぇの。っつーワケでよ、今日から毎日シアンの柱、殴らせてくれよ。もー数百年ずーーーっと毎日つまんなくてよ、やぁっとまともに殴れる存在に出会えたぜ。ああァァーー、昂ってきたァァ!」
「むぎゃあああああ……!」
「ちょ、ちょっと、離しなさい! シアンが……!」
昨日の赤いドラゴンがこの人……?
どう映像を重ね合わせようとも、微塵も合わないんだけど……と思っていたら、女性、リューネさんが背後からがっしり抱きついてくる。
ほごぉぉ……腕力すご……! 締め付けすご……!
リューネさん、ルナ同様、結構お胸様が大きいのだが、残念ながら柔らかいそれを味わえる状況ではなく……
へぇ、伝説のドラゴンに抱きつかれるって、こういう感じなんだ……
……そう思いながら、俺の意識は遠くなっていった──
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