第5話 王都へ行く途中に空から降ってきたヤベェ女
「じゃあ行きましょうか、王都へ!」
翌日朝、俺は十年間住んだ街、ファーマルに別れを告げる。
エルフであるルナレディアさんが馬車を呼んでくれたので、それに乗って街を出る。
一番近くの、列車の駅がある街まで行くらしい。
俺は滅んでしまった故郷の街と、このファーマルという街しか知らないので、周囲の地理が全く分からない。
「がんばってこいよシアン! ダメそうなら帰ってこい。いつでもうちのところで雇ってやるからよ。つか、お前はうちで面倒みようと計画していたんだがなぁ。そこだけが残念だ。ほら、お前が使ってた小さいスコップだ、持ってけ。道具は職人の魂だ、忘れんなよ」
「いってらっしゃいシアン君。変なものとか食べちゃだめよ、それから王都は誘惑の多いところだから、変な女につかまらないようにね」
早朝にも関わらず、お世話になっていた親方夫妻、モールさんと奥様が見送りに来てくれた。
親方が手渡してくれた小さいスコップ。俺が街の防壁の修復の作業のときに愛用していたやつ。
「ありがとうございます、大事にします。では行ってきます。今までお世話になりました。出来るだけ向こうで頑張ってみますよ。女性は……俺、モテないんで問題ないかと……あはは」
モール夫妻に見送られ、馬車が出発。
王都かぁ、一体どんなところなんだろうか。
人口は俺がいた街なんかじゃ比較にならないぐらいの数らしいし、お店とかもいっぱいあるらしい。
なんかすっげぇワクワクしてきたぞ。
馬車なんかもルナレディアさんがお高いやつを頼んでくれて、座るところも板張りの固いやつではなく、柔らかいクッション付きの椅子だし、内装も豪華だし、ちょっとしたお菓子なんかもサービスで貰えたし、正面にはルナレディアさんという超絶美人エルフさんがいるし、もう最高!
長距離馬車って、こんなにも楽しいものだったとは。
「────酔ったぁ……」
一時間後、俺は休憩ポイントで馬車を降り、青い顔で地面に転がる。
くそ……楽しくて最高の馬車なのに、俺の身体が馬車に向いてねぇとは……ゴッフ。
「大丈夫、シアン君? まぁこういうのは慣れね。冒険者になると馬車での移動が当たり前になるから、今から慣れておきましょう。私たちのパーティー『月下の宴』は、世界のあっちこちに呼ばれるから、酔っている暇なんてないわよ、ふふ」
ルナレディアさんが瀕死の俺の背中をさすってくれるが、出てくる言葉は手厳しい。
まぁSランクパーティーである『月下の宴』に助けてもらいたい人なんて、世界中にいるだろうしな。
当然お仕事で世界を飛び回る、と。
俺……移動だけで瀕死なのに、大丈夫なのか。
「あ、俺のことは呼び捨てでいいですよ。年下ですし」
「そう? じゃあシアン。そう呼ぶわね。ああ、私も敬称いらないかも。ルナとかルナレディアだけで大丈夫よ。戦闘の時、長いと呼びにくいでしょうし」
なんかこんな美人さんに「君」で呼ばれると背中がムズムズするので、呼び捨てをお願いするが、え、俺もルナレディアさんのこと呼び捨てでいいんすか!
「あ、じ、じゃあ……ルナ……」
「うん、なぁにシアン。ふふ」
年上の女性を呼び捨てとか気恥ずかしいのだが、これは彼女がさっき言ったように、戦闘時の連絡をスムーズにするためであって、親密度の話ではない。
……ないのだが、こんなお人形さんみたいに美しいエルフである女性を呼び捨てに出来るとか、なんかこう優越感がある……まぁ勘違い野郎の思考なのだが。
「そういえば今更だけど、私についてきて良かったの? 冒険者はいつも危険が付きまとうし、あの街で平和に暮らす道もあったと思うけど」
ルナが俺の顔を覗き込んでくる。
あ、やめて、あなた、自分がとんでもなくお美人さんだってことを自覚してくださいよ。
そういうことされると、免疫のない少年はコロっといってしまうんで。
「今更です。俺の夢は、両親や物語の英雄勇者のように冒険者になって戦えない人を守る、だし、Sランクパーティー『月下の宴』のルナについていけば、それが叶いそうだし。言い方は悪いですが、この状況を利用させてもらおうかと」
言葉遣い……いいのか? 急すぎだかな、ため口っぽいの。
「それは全然いいんだけど、多分これからずっと私がシアンをパートナーとして利用させてもらうから、お互い様かな? ふふ」
チラとルナを見ると、怒ってはいない。
友達みたいな感じで喋っても大丈夫そうか。
……ん? 俺がルナのパートナー……?
って、ああ、私生活ではなく、戦闘での話か。
ちょっとビックリした。
「シアンのご両親、残念だったけど、こうやって生き残ったシアンにしっかり想いは伝えられたんだね。頑張ったね、ほら、お姉さんの胸で泣いていいんだよ? ふふ」
ルナが急に手を広げ、抱きついていいよポーズ。
……ルナって、スタイルも最高なんスよ。
ほら、その飛び込んでもいいらしいお胸様とか、すっげぇ大きくて、怒られないのなら、今すぐにでも飛び込んで顔を左右に激しく振りたい。
「こ、子ども扱いはするなって。もう十六だぞ」
思考と発言が違う感じになってしまったが、思春期の少年なんてこんなもんだ。
はい、すっげぇルナのお胸様に飛び込みたいです。
「……ところでさ、街を出るときにシアンが自分は女性にモテないって言っていたけど、あれ、本当?」
どうしようか、お誘いに乗って柔らかそうなお胸様に飛び込むのは、犯罪にはならないのでは? いやいや、そういう欲を出して怒られて、パーティー加入のお話がなくなるのも困る。
でも……すげぇよなルナの大きいお胸様、と諦めきれずにチラチラ、時折り揺れる柔らかい物を見ていたら、ルナが空を見上げながら何か言ってきた。
「あ、ごめ、つい見てしまって……って、え、俺? あ、うん、生まれてこのかた彼女なんていませんし、全くモテませんでしたけど?」
やべぇ怒られるかと思ったら、違うのか。
つか、悲しい宣言させるのやめてくれ。
「ふぅん? シアン、結構かわいい顔してると思うけどなぁ。もしかして、鈍感君、自分で気が付かなかっただけで、モテていた可能性、ないかなぁ。だってほら、街を出てからずーーっと追いかけてくる女性がいるの」
ルナが空を指して言うが、実は俺がモテていた……?
ないない、さっきのお見送りですら、お世話になったモール夫妻しか来てくれなかったし、ましてや女性なんて来るわけがない。
そう、女性が俺を追っかけて空から降ってくるとか、どんな空想の絵物語なんだよ、と……
「──どーーんっとぉ! ヒャッハー! おー、新鮮なシアンだぜぇ! いやぁ昨日のお前の長くて固いやつ、最高だったぞ。ああああ、もうアレ無しじゃあアタシ生きていけねぇ。な、だから毎日ヤろうぜ、ヒャハハ!」
空から隕石みたいな物が降ってきて、俺の目の前で着弾、爆発。
爆風に耐えきれず倒れ地面をゴロゴロ転がっていたら、突然知らない女性が上から覆いかぶさってきて、狂喜の顔で謎の発言。
アレ……? 毎日ヤ……?
「アー……思い出したら昂ってきたァ! な、ヤらせてくれよ、昨日の。あんな良い思いしたの生まれて初めてでよ。お前は寝てるだけでもいいから、長くて固ってぇの出してくれよ。あとはアタシがガツンガツン自分のペースでヤっから!」
な、長……何……?
見れば見るほど、まっったく知らない女性なんですけど、とりあえずそのやべぇ発言、やめてくれないですかね。
ルナがすっげぇ顔で俺を見ているんですよ。
そしてあなた、誰?
マジで。
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