第4話 冒険者でもない俺がSランクパーティー『月下の宴』に加入
「やったぞ……俺たちは勝ったんだ!」
「あれほどのオークの群れなのに、街への侵入はゼロ! すごすぎる!」
「ほら、あの人だ。Sランクパーティーのルナレディアさん。あの人のおかげだ!」
街を守るために戦った冒険者たちが声を上げ、戦いの勝利を宣言する。
どうやら最悪の展開である、オークの街への侵入、は防げたようだ。良かった。
「ありがとう、Sランクパーティー『月下の宴』のルナレディアさん。あれほどの数のオークの群れの撃退、そして赤き龍をも追い払ってくれた。あなたがこの街にいてくれて本当に良かった。おかげで街は守られました」
冒険者センターの支部長がエルフの女性、ルナレディアさんに握手を求める。
「あ、いえ、それはシアン君……」
「あなたの活躍に見合う報酬をお出しできるか分かりませんが、冒険者センターファーマル支部として、出せるだけの物をご用意いたします」
「いやぁ参った参った、やはりこの街にはロイネット様が必要ってことだ。でもごめんね街のみんな、俺今日からそのSランクパーティー『月下の宴』のメンバーになるから王都に行かなきゃいけないんだよね。二度と会えなくなるけど、風の噂にでも俺の活躍を聞いててよ……ぎゃはははは!」
「ってわけだ。その報酬は俺たちにも出せよな。へへ」
ルナレディアさんが支部長の言葉に苦笑いをしていると、横から全く戦った形跡のない、小奇麗な装備の男二人が割り入ってきた。
ロイネットとウオント、お前ら森から一目散に逃げていっただろ。
つか馬車で王都まで逃げるとか言っていたような。
やめたのか?
「おお、それはすごい。この街の冒険者から、あのSランクパーティー『月下の宴』のメンバーが出るとは……!」
「いえ? 彼らは私たちのパーティー『月下の宴』とは全く関係無いわよ」
冒険者センターの支部長が二人の会話を鵜呑みにしかけるが、ルナレディアさんが不機嫌そうな顔で否定する。
「確かに私は彼ら、Cランク冒険者であるロイネット君とウオント君の噂を聞き見に来ましたが、残念ながら彼らには『月下の宴』に入れるだけの実力は無かった。ああ、でも二人のおかげで思いがけない人物に出会えたわね、そこには感謝しているわ」
ルナレディアさんがニッコリ微笑み、俺の手を握ってくる。
「シアン君、あなたは今ソロ? もしよければ私たちのパーティー、『月下の宴』に入ってくれないかしら。ううん違うわね、お願い、私たちにあなたの力を貸して欲しい。かな。ふふ」
「はぁ……? シ、シアンって……あれだろ? 重い物持ち上げるしか脳の無い……」
「というか、こいつは冒険者でもない、ただの肉体労働者じゃ」
誰も予想もしなかった彼女の行動に周囲の人が驚き、声を上げる。
「その、ルナレディアさん。何かの間違いではないですか? 彼、シアンは私も知っていますが、柱魔法という、重い物を持ち上げるしか出来ない、冒険者にもなれなかった人物です。『月下の宴』がどのようなクラスの人物をお求めか分かりませんが、どう考えても彼よりはCランク冒険者であるロイネットとウオントのほうが……」
「そ、そうですよルナレディアさん! どうしたんですか一体? Sランクパーティー『月下の宴』に相応しいのは僕らです。一緒にがんばりましょうよ!」
冒険者センターの支部長とロイネットもルナレディアさんの発言に驚く。
いや、一番驚いているのは多分、その当人である俺なんだけども。
お、俺がSランクパーティー『月下の宴』に……? ありえないだろ。
「あら? さっきの戦いでの彼の活躍を見ていなかったの? ここにいる誰よりも街の人を守ろうと行動していたわ。そう、誰よりも、ね」
ルナレディアさんが大げさな演技で言い、鋭い視線をロイネットに向ける。
俺はルナレディアさんの側でうろちょろしていたし、乱戦で周りまで見れる余裕のある冒険者は少なかったのでは。
「……う、うそだ! ありえない、俺よりこんなやつが……こんな弱くて何にも出来ないやつがSランクパーティー『月下の宴』に誘われるとか……! お前ルナレディアさんに何かやったろ! そうだそうに決まっている! 卑劣な……弱みを握り脅したんだ! クソ……これだから孤児は嫌いなんだ、卑しくて卑怯で平気で人を騙してくる……! 強い俺たちに守られているだけで、生きている価値すら無い弱者……いいだろう、この俺がこいつを斬ってルナレディアさんを助けます!」
ロイネットが身体をブルブルと揺らし、狂気の顔で大剣を構え俺に振りかぶってくる。
な、何を言っているんだこいつ……!
「はぁ……もういいわ、やっちゃいなさいシアン君。あ、ちゃんと手加減してね」
ルナレディアさんが面倒そうな身振りをし、ニッコリ笑顔で俺を見てくる。
いやいや、ロイネットたちに手加減とか……って、やるしかないのか!
「柱魔法アルズシルト!」
俺は叫び、自分の目の前に石の柱を出現させる。
ロイネットが大剣を俺に振り下ろしてくるが、柱でそれを受け止める。
鈍い音が響き、彼の自慢の大剣が弾かれ地面に刺さる。
「てめぇ……! 来いウオント、卑怯者を俺たちで制裁する!」
「おお、二度と立てない身体にしてやるぜ!」
ロイネットとウオントがなりふり構わず突っ込んでくるが、俺は彼らの目の前に柱魔法を一本ずつ出し、動きを止める。
「ぐぎゃあああ……! 俺の鼻が……鼻がぁ……!」
「ぶあああああ!」
勢いのまま石の柱に顔面から突っ込んだ形になった彼らが、血まみれの顔を抑え地面に転がる。
「な、なんと……まさかシアンが二人を……」
冒険者センターの支部長さんが二人が倒れている光景に驚いている。
「うん、これで目が覚めた? 私たち冒険者は戦う力の無い人を守るのがお仕事なの。それなのに、本来守るべき存在である、戦うことの出来ない街の人だったりシアン君を見下している時点で私たちのパーティーに二人は必要ないわ」
ルナレディアさんがロイネットとウオントに近付き、回復魔法をかける。
「私たちが求めているのは、戦う力はもちろんだけど、それ以上に強い心を持った人なの。与えられた才能に振り回されているだけの人は、自分より強い存在に相対したとき、恐怖に身体を支配されてしまい、何も出来ないか、逃げてしまう」
うむ、こいつら見事に逃げていたよな。
「でもあなたは違う。冒険者になれなくても、街の人を守りたいという強い想いで、モンスターの襲撃から街を守る壁の修復のお仕事をしていた」
ゆっくりと歩き、ルナレディアさんが俺の目の前に来る。
「そしてその強い想いは、例えどんな強大な相手であろうと揺るがず、前を向き行動を起こした。『重い物を持ち上げる』としか書かれていなかった柱魔法。でもあなたはその与えられた常識にとらわれず、自分の考えで新たな使い方を生み出した。どんな時でもぶれない強い想い。恐怖に打ち勝ち、行動を起こせる勇気。そして窮地に陥っても諦めず、今自分が出来ることを模索し、柱を盾として使おうとした、その発想力。どれも普通の人では出来ないこと」
にっこりと微笑んだルナレディアさんが、俺の手を優しく握ってくる。
「あなたは素晴らしい。私、ルナレディア=エルディードはあなたを心から尊敬する。私はシアン君と一緒に戦いたい。もう一度言わせてもらいます。どうか私たちのパーティーに入ってもらえないだろうか」
俺の目を真っすぐに見て言ってくる。
お、俺がSランクパーティー『月下の宴』に……?
それより、あんまり美人さんに見つめられると、心臓がバックバクでどうにかなってしまいそうになるんですが。
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