第3話 オークとドラゴンから街を守った男
「ごめんなさい、私では簡単な回復魔法しか使えないの。メイメイだったらもっとすごいんだけど」
エルフの女性が申し訳なさそうに、俺の血まみれの顔を撫でる。
女性の手から緑の暖かい光が溢れ、俺の身体に光が入ってくる。
「え、あ、だ、大丈夫ですっ」
「うん、そう、良かった。やっぱり若いと治りが早いのね、ふふ」
俺の身体から痛みが消える。
あれ、動くぞ、身体が動く!
これが回復魔法か、初めて見たぞ。
確か世界でも使える人が限られる、かなり貴重な魔法だったはず。
「さっき、壁の修復をしてくれていた子よね。シアン君……で合ってる?」
「は、はい……って後ろ! は、柱魔法アルズシルト!」
女性の後ろの数匹のオークが、持っていた巨大な鉄の斧を力任せに投げてくる。
俺は慌てて柱魔法を女性の後ろに出現させ、鉄の斧を全て弾く。
「……ふぅん、彼らの斧って頑丈で、鉄の盾すら役に立たないってのに……すごいのね、あなたが出した柱ってやつ」
俺が出した直径一メートル、高さが五メートル程の石の柱を、女性が何かを確認するようにペタペタと触る。
「これ、大きさはどこまでいじれるの?」
「え、その、太さはそれぐらいで、高さなら結構伸ばせますけど……」
俺の柱魔法は地面から出現し、それこそ一センチで止めることも出来るし、伸ばせば塔ぐらいまではいける。
どんなに重く大きな石だろうと、折れることなく持ち上げられるという、この柱魔法。まさに建築土木の現場で使うために生まれたと言える。
まさか盾のように使えるとは思わなかったが。
「そう。じゃあこれは何本まで出せるの? 出せる距離制限は?」
「えっと、同時なら三本が限界です。それ以上、四本目を出すと、一本目が消えます。消す柱も選べますので、二本目と三本目を消したり出したりすれば、一本出しっぱなしに出来ます。距離は、俺から十メートルぐらいならどこでも」
女性が随分と熱心に俺の柱魔法のことを聞いてくるが、なんだろう。
「なるほどねー。見るのは初めてだけど、結構便利ね、これ。うん、いける。じゃあシアン君、一本は街の壁を塞ぐのに維持。そして二本目と三本目を上手く使って、私の盾となりなさい。あなたが協力してくれたら、オークの群れを全部倒して街を守ることが出来る。さぁ、私と共に戦いましょう」
エルフの女性、ルナレディアさんがニヤと笑い、俺の目を真っすぐに見て手を差し出してくる。
俺がさっき出した一本目の柱は、ちょうど壊れた壁を塞ぐように立っていて、人間は通れるが巨大なオークは通れない。
つまり、俺があの柱を維持すれば、オークたちは街に入れない。
そしてこの女性、ルナレディアさんはオークを倒す力がある。
俺とルナレディアさんが組めば……街を守れる!
「……やります! 俺も街を、みんなを守りたいです!」
「はい、パーティー成立ってね。ふふ、頼りにしているわよ」
差し出された手を握ると、ルナレディアさんがにっこりと微笑む。
パ、パーティー! 冒険者でもなく、戦えもしない俺がパーティー……! 嬉しい。しかも相手は王都で一番と言われるSランクパーティーの一人。
まさかそんな実力者から、頼りにしている、とか言われるなんて思いもしなかった。
「行くわよ。私の得意技はさっき見せた、風の魔力を纏わせた斬撃、ウィンディアブレード。でもこれ、連発が出来ないの。その間、あなたの柱で守ってくれると嬉しいかも!」
ルナレディアさんがそう言うと、持っている剣に風の魔力を纏わせ、オークの集団に斬り込んでいく。
「は、柱魔法……!」
俺はルナレディアさんの後を追い、オークの攻撃や体当たりを柱魔法で弾く。
「素敵……! 私が欲しいところに柱を出して守ってくれる……あなた最高よ! 少ない言葉だったのに、理解が早い! 頭も良いし、機転も利く。組んだ初回からこれって……もっと実戦積んで、二人の親密度が上がれば……無敵かも!」
ルナレディアさんの剣が数匹のオークをまとめて切り裂き、合間の時間は俺の柱魔法で守る。
オークの巨体から振り下ろす上からの攻撃には高めの柱を、そしてルナレディアさんが動き出す寸前には短めの柱で視界を確保しつつ、足場にも使えるように場所を選び、二本の柱を交互に出す。
「あはははは! 良い、良いわよあなた! これなら防御を考えなくていいから、速度を上げられそう……!」
ルナレディアさんが歓喜の笑顔になり、走る速度を上げていく。
す、すごい……こんな速度で動き回れて、同時にオークを倒せるとか……これなら本当に二人だけで、数えきれないほどいるオークの群れを全部倒せるかもしれない。
オオオオオオオ!
まずい……! オークたちが斧をルナレディアさんに向けて投げてきたぞ。
これは彼女の左右に二本出さないと……
ゴアアアアアア!
ルナレディアさんに向けられた巨大な斧を全て弾くべく、二本の柱を彼女の左右に展開。
だが、その瞬間を狙っていたかのように、他のオークたちが集団で俺に斬りかかってきた。
しまった……こいつら……!
一本目は街を守るために消すことは出来ない。
二本目、三本目もルナレディアさんを守るために必要。
守るべきは街、そこに暮らす人々。
そしてオークを倒せる戦力があるルナレディアさんを守るべき……!
「バカ……! こういうときは自分を守りなさい……!」
俺の考えが伝わってしまったのか、ルナレディアさんが悲痛の叫び声を上げる。
ルナレディアさんを守る二本の柱をしっかり維持、彼女の無事を確認し、俺は目を閉じる。
ゴギャアアアアア……!
──あれ、おかしいな。痛くない。
死ぬときってすんげぇ痛いと思っていたけど、そうでもないんだな。
むしろ、さっき壁に叩きつけられたときのほうが痛かった。
つか、熱い。
なんかパチパチ音が聞こえて、焦げ臭いし……
「……ってなんだこりゃあああ!」
いつまでたっても訪れない最後の時にしびれを切らし、俺は目を開ける。
……が、俺の目に飛び込んできた光景は、激しく焦げたオークの丸焼きたち……って、なんだこれ。
ああそうか、ルナレディアさんが助けてくれたのか、と思い彼女のほうを見ると、真っ青な顔で上を指している。
上?
「オオオオオオオン!」
びっくりするぐらいの音量の咆哮が聞こえ、驚き上を見ると、赤い翼のドラゴンが大口を開け、真下に向かって極太の炎を放っている。
応戦しつつ、逃げ惑う巨大オークたち。
俺の周囲のオークたちが全てドラゴンの炎によって焼き払われ、次の瞬間、ドラゴンが俺に狙いを定め、上空からとんでもない速度で突っ込んでくる。
そ、そういえばドラゴンもいたっけ……
くそ、せっかく助かったってのに、お次はドラゴンかよ!
でも周囲のオークはいなくなったし、ルナレディアさんも無事。
ならば俺は柱を二本出せる。
俺の柱で勇者が倒すクラスの強敵、ドラゴンの攻撃を防げるとは思えないが、やってみるさ!
「耐えてみせろ……! 柱魔法……アルズシルト!」
頭から突っ込んでくるドラゴン。
俺は自分の前に長めの柱を二本並べて出現させ、迎え撃つ。
こっわ、でっか……ドラゴンなんて、絵物語が描かれた本でしか見たことが無かったが、こんなにでかくて恐ろしい顔をしているんだな。
つか伝説クラスのドラゴンを間近で見れるとか、死ぬ間際の最後の映像としては、みんなに自慢出来るレベルだよな……
「オオオオオオ!」
巨大な赤いドラゴンと俺の柱魔法が激突。
耳が痛いぐらいの咆哮が響き、ドラゴンが大口を開ける。
だめか……
いや、柱はまだ二本とも残っている。
「グオオオオオン……!!」
俺の柱魔法がドラゴンの突撃を受け止め、ビクともしない柱にドラゴンが顔をしかめ、上空に退避していく。
「あれ……生きてる……? え、俺、ドラゴンの攻撃に耐えた……? や、やった……」
「す、すごい……! あの伝説のドラゴンの攻撃を一人で受け止めて跳ね返すとか……! あなたすごいわ!」
なんだかいまいち状況が掴めないが、とりあえず生きている、と喜ぼうとしたら、ルナレディアさんが笑顔で抱きついてきた。
ごふ……や、柔らかい……う、生まれて初めて女性に抱きつかれたかも……。
しかもとんでもなく美しいエルフであるルナレディアさん。
こ、これは良い思い出が出来た……
街を襲ってきたオークたちもドラゴンの攻撃を受けてほぼ全滅。
生き残った少数は、森に逃げ帰っていった。
襲ってきたドラゴンも、街から離れ、どこかへ飛んで行ってしまった。
ほぼ確実に街が滅びるような状況だったのが、なんとかなったようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます