第2話 それは街を守るための魔法とルナレディア=エルディード
「近接系、戦える者は壊れた壁付近に集結! 街の中に一匹たりともオークを入れるなよ!」
「遠距離系、魔法使いは上空の赤いドラゴンを牽制! 下手に刺激すんなよ、なんとか遠ざけろ! 今この世界でドラゴン相手に戦えるのは、王都のSランクパーティー『月下の宴』だけなんだからよ……!」
この街の冒険者センターの一番偉い人、支部長が叫び、周囲の冒険者に指示を出す。
「見てろよ、俺は以前オークを五体狩った男だ! 今度は十体はやってやるぜ!」
「クソ……やってられっか! オークの群れにドラゴンとか、滅びるぞ、この街……!」
武器を構える者、どう考えても負け戦の状況に逃げ出す者、冒険者がそれぞれの動きを見せる中、さぁ、俺はどうする。
オオオオオオ!
森の中から耳を塞ぎたくなるような雄叫びが聞こえ、人間の背丈の三倍以上はある巨大なオークの群れが武器を構え、街に突撃してきた。
「放てぇ!」
冒険者たちが弓や投石での遠距離攻撃で迎撃をするが、数百はいるであろうオークの群れは止まることなく、前衛にいた近接系冒険者たちを薙ぎ払う。
「ぎゃあああ……!」
「こいつら……普通のオークじゃないぞ……」
盾や大剣を持った屈強な冒険者たちが吹き飛び、後ろに控えていたオークの群れが冒険者を無視し、街の壊れた壁に武器を構え突撃してくる。
おかしい、以前の襲撃でのオークの群れは、力のままに暴れ、こんな連携は無かった。
基本的にオークは知能が低く、目の前の動く物に攻撃を仕掛けてくる。
しかし、このオークたちは道を切り開く部隊、そして後ろに別の部隊が存在し、冒険者を攻撃せず、真っすぐ街に向かってきた。
オークが目的を持って動いている……?
「うわああああ! どけ……! どけと言っている!」
「ひぃ、ひぃ……待ってくれよロイネット……!」
森の中からロイネットとウオントが真っ青な顔で走ってくる。
おお、Cランク冒険者である彼らがいれば、街に侵入しようとしているオークたちを防げるかもしれないぞ。
「聞いていない……こんなの聞いていないぞ! やってられっか……こんなとこで弱ぇえやつに邪魔されて死にたくねぇんだよ!」
「うちに馬車があるから、それで王都まで逃げようぜロイネット!」
ロイネットとウオントが戦っている冒険者たちを押しのけ、巨大なオークの群れの間をスルリスルリと避けながら動き、逃げるように街に走っていく。
あいつら……逃げるのかよ……!
オオオオオオオ!
二人を追いかけるように、オークの群れが壊れた壁から街に入ろうとする。
冒険者たちがそれを防ごうと攻撃を仕掛けるが、オークの群れはそれを無視し、街へ……!
どうする……Cランク冒険者であるロイネットとウオントでも逃げ出すような状況、冒険者でもない俺は、逃げるのが正解……
いや、こんな俺でも一個だけ魔法が使える。
歴戦の魔法使いのように、火球や氷のランスを出せるわけではないが……
俺だって、父さんや母さんみたく街を守りたいんだ……!
「させるかよぉ……!」
オークの群れが突撃していった壊れた壁、俺はそこに向かって走り、目の前のオークに向かって格好良く手を構える。
「柱魔法アルズシルト!」
オークの群れがその勢いを落とせず、俺が目の前に出現させた石の柱に次々と衝突。
ゴギャアアア!
数匹のオークが顔面から血を流し、倒れていく。
行ける、行けるぞ……!
俺だって戦えるんだ!
ゴアアアアアア!
無事だったオークが怒り、巨大な拳を作り俺に殴りかかってくる。
「っぐあああ……!」
鈍い音が体の中に響き、体重の軽い俺の身体は宙を舞う。無様に地面を転がり、壁に激突。
「ぁああ……」
痛い……腕が、肩が、腹が、足が、全部痛い。そして、動かない。
だめだ、もう……
でもやったぜ、俺だってオークの数匹をやってやった。
俺だって街を……守ったんだ。
動けない俺の前に巨大な影。数匹のオークが武器を構え振り下ろしてくる。
「冒険者は……戦えない人を守る……俺はやったよ、父さん、母さん……」
「そう、冒険者は戦えない人を、街の人を守るのがお仕事。あなたはまさに冒険者、その勇気を、私、ルナレディア=エルディードが認めましょう」
俺の前に誰かが現れ、オークたちが振り下ろした武器をその剣で受け止める。
「切り裂け……ウィンディアブレード!」
女性の剣が緑に輝きだし、風切り音が周囲に響き始める。
オアアアアアア……!
女性が剣を一閃、オークたちの身体が真っ二つに切り裂かれ、断末魔をあげる。
すごい……あの巨大なオークを数匹まとめて切り裂くとか……
長く綺麗な髪をなびかせ剣を構えたエルフの女性の後ろ姿に、俺は思わず魅入ってしまった。
この女性、さっきロイネットとウオントを連れて行ったエルフの人では。
名前は確か、ルナレディアさん。
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