俺の柱魔法ってハズレ能力かと思ったら実は最強の盾でした ~土木作業魔法で成り上がる~
影木とふ@「犬」書籍化
第1話 重い物を持ち上げることしか出来ない俺とドラゴンの襲撃
「おーいシアン、石、上げてくれ」
「行きますよ」
俺は右手を格好良く構え、魔力を込める。
重い長方形の石の下から柱が出現し、上にいる親方の元までゆっくり持ち上がり、停止。
「あっはは! 相変わらず便利だな、お前の持ち上げ魔法!」
まるで歴戦の魔法使いのような格好いいポーズを決めている俺を見て、親方が爆笑。
「は、柱魔法ですって……」
大きな石を親方が受け取り、壊された壁を修復していく。
今俺がいるのは大陸の西端にある街、ファーマル。
この街は外周を巨大な壁で補強されているので、モンスターが多くいる森の近くでも滅びることなくやっていけている。
全ての街に壁があるわけではなく、壁の無い街は結構な頻度でモンスターに襲われ、滅びている。
ここは戦う力のある冒険者も多くいる街なので、他の街からの移住者も多い。
かく言う俺も、十年前に他の街から来た移住者だ。
街がモンスターに襲われ、冒険者だった両親は街を守り戦い、帰らぬ人となった。
俺は両親に守られつつ避難馬車に押し込まれ、一人この街に着いた。
受け入れてくれた孤児院では大変だったが、なんとか生きているぞ。
父さん母さん、守ってくれてありがとう。いつか二人の墓を作りに、滅びた故郷に立ち寄ります。
「まぁ夢だった冒険者になれなくて残念かもしれねぇけどよ、こうやってお前の魔法には使い道がある。冒険者なんていつ命を落とすか分からねぇ危険な職業やるよりよ、こうやって生きて土木作業で地道に稼いで、どこかで綺麗な奥さん見つけて結婚出来りゃあいいじゃねぇか、あっはは!」
親方がゲラゲラ笑うが、俺の生い立ちのことに気を使ってくれているのだろうか。
しかし実際親方、モールさんは十六歳でこの道に入り、現在三十歳にして親方と呼ばれる地位にまで昇りつめ、あげくとんでもなく美人な奥さんと可愛い子供がいるという幸せ者。
十六歳で彼女すらいない俺からしたら、羨ましいぐらいの順調な人生だぜ……。
「冒険者かぁ……」
先日、街がモンスターに襲われたときに壊れてしまった壁を修復するお仕事をしつつ、俺は溜息をつく。
修復中の壁の近くにある大きな建物、冒険者センターファーマル支部。あそこは、冒険者になった人が自分の実力に見合ったお仕事を貰える場所。
そこに入っていく、格好いい剣や鎧、魔法の杖をもった冒険者をジト目で見る。
別に土木、街を守る壁の修復に不満があるわけではない。
冒険者ってのは、モンスターを倒し、戦う力の無い人を守るのがお仕事。
戦えない俺が今やっているのは、街を守るために作られた壁を修復するお仕事。
モンスターにこの街が襲われたとき、この頑丈な壁が無ければ、多くの人命が失われていたかもしれなかった。
だから、この壁を維持するお仕事だって充分大事な、街の人を守るお仕事に繋がりはするのだが、なんというか、やはり俺としては子供のころ読んだ英雄譚に憧れてしまう。
勇者が振るう光の剣はドラゴンすら真っ二つ、魔法使いが放つ雷の魔法がオークの集団を薙ぎ払い、多くの人の命を守る……ああ、格好いいよなぁ。
冒険者であった俺の両親も、戦えなかった俺を命がけで守ってくれた。
あの後ろ姿は今でも鮮明に覚えている。
死ぬことが格好いいわけではない。だが、街の人を守りたいという信念と覚悟を二人の背中から感じた。
俺もいつか誰かを守り、冒険者の信念を後の人に伝えたい。
英雄譚と両親に憧れた少年は冒険者になるべく試験を受けたのだが、俺が使えたのはよく分からない石の柱が地面から出現してくるという『柱魔法』のみ。
冒険者センターの人のお話では、この魔法の使い手が過去にいたという記録は無い。
そして使い手がいないのに、古い文献に一文『重いものを持ち上げる』と書いてあるという謎魔法。
残念ながら危険なモンスターを相手にどうにかなる魔法ではない、との判断で、俺は冒険者にはなれなかった。
他に冒険者にとって有用な剣技や体術のスキルなど無く、ただのひょろい少年。
うなだれながら日銭を得るためアルバイトを探し、なんとかこの壊れた壁の修復のお仕事をゲットしたのだ。
「あ、いたいた無能落ちこぼれのシアンくーん。今日も地べたを這いつくばった土まみれの作業がお似合い……ってきったねぇ顔! ぎゃはは!」
お昼休憩。
お金もあまり無いので、安いパンに葉物野菜を挟んだものを一人モムモム食べていたら、冒険者センターから出てきた集団の二人が俺に絡んできた。
「俺たち、これからSランクパーティーの試験受けてくるからよ、受かったらお前を荷物持ちとして誘ってやるよ。ってワリィワリィ、お前、重い物が持てるんじゃなくて、持ち上げられるだけだったわ。ぎゃははは!」
「くくっ、やめろってロイネット。俺たちに守られないと生きていけない、か弱い街の人であるシアン君が涙目になってるって、ははは!」
俺の土まみれの顔を見て爆笑している二人、大剣を持った男がロイネット、そして腰巾着みたいな大男がウオント。
二人とも一応俺の子供のころからの知り合いなのだが、関係性としては金持ちでいじめっ子の二人と俺、って感じ。
こないだやっと柱魔法が使えるようになった俺とは違い、二人とも子供のころから強くて、ロイネットは大剣を使う剣技、そしてウオントはその大柄で筋肉質な体格を生かした体術が得意。
十二歳ですでにCランク冒険者ぐらいの実力があり、この地域では有名な二人。
十六歳で冒険者になってからは、この地域周辺で二人の名前を知らない者はいない、と言われるぐらいになった。
十九歳の現在、ここから遠く離れた場所にあるこの国の王都、そこには実力者がひしめいているらしいのだが、その王都にまで噂が届き、有名なパーティーからも勧誘が来ているとか。
「お仕事お疲れ様。あなたのお名前は?」
二人の男の後ろから出てきた女性がニッコリと微笑み、俺の目を見てくる。
軽鎧を身にまとい、剣を装備した……エルフ?
うわ、これは珍しい。
この世界には人間の他にもエルフなどの種族がいるのだが、こんな田舎の街で見られるとは思わなかった。
しかし……ありえないぐらいの、すっごい美人さんだなぁ。
「え、あっ……ぼ、僕はシアンと言います……」
「ぎゃはは、僕は……だってよ! こんな弱いやつ放っておいて、早く行きましょうよルナレディアさん。Sランクの僕らと無能のこいつとでは、生きている一秒の価値が違います。弱い奴に無駄な時間を使うとか、最悪ですよ」
ロイネットが笑い、俺を蔑むような目で見た後、ころっと表情を変えエルフの女性に微笑みかける。
「……ふぅ。そう、シアン君ね。街を守る壁の修復をしてくれてありがとう。それじゃ」
ロイネットの微笑みに少しつまらなそうに溜息をつき、エルフの女性は俺に微笑み、手を振りながら街の外に向けて歩いていく。
つかロイネット、お前らまだCランク冒険者だろうが。もう受かった気なのか。
「いやぁ、まさか生きているうちにあんな美しいエルフを拝めるとはなぁ。しかしあの噂は本当だったんだな」
親方であるモールさんが顎髭をさすり、エルフの女性の後ろ姿をじっくり見ながら近付いてくる。
「噂? なんですか、それ」
「ほら、王都にいるこの国で一番強いと言われるSランクパーティー『月下の宴』がメンバーを募集しているってやつよ。各地にいる実力者に声をかけまくっているとかなんとか。あのエルフさんがそのSランクパーティーの一人で、まさかうちの街のヤンチャ坊主たちをスカウトに来るとはなぁ」
王都のSランクパーティー『月下の宴』……!
それって人間には討伐不可能と言われた強敵に挑み、全てに勝ち続け、今ではこの国の王族様の信頼も得ているとかいう無敵の冒険者集団では……!
へぇあのエルフの女性、美しいだけではなくて強いのか。
「すごいなぁ、Sランクパーティーからのお誘いかぁ……」
「でもよぉ、いくらこの辺で強いって言っても、あいつらCランクだろ? 多分受からねぇよ。本当に、ただ見に来ただけじゃねぇのかなぁ」
モール親方が言うが、確かにSランクパーティーに入るのに、Cランク冒険者は厳しいと思う。
いや、もしかしたら、ランクでは計れない何かがあるのかもしれないが。
「……ん? なんだあれ」
お昼休憩も終え、午後のお仕事開始。
引き続き壁の修復に使う大きな石を柱魔法で持ち上げていたら、街の外の森から何かが打ち上がった。
ボン、と大きな音が鳴り、赤い光が周囲を照らす。
「やばいぞ……! あれは冒険者が放った、周囲の人に危険を知らせる信号弾、そして赤は……今すぐこの場から逃げろ、だ! お前ら、今すぐ走って逃げろ!」
モール親方が赤い信号弾を見て、俺たち作業員に向かって今すぐここから逃げるように言ってくる。
「うわぁあああ! 多分こないだ襲って来たモンスターがまた来たんだよ!」
「まだ壁の修復が終わってねぇってのによぉ! これじゃあ街の中に入り込まれちまうぞ!」
他の作業員たちも騒ぎ、荷物を放り出して逃げ始める。
に、逃げるって言ったって、どこへ……
こないだのモンスターの襲撃は、街の外周に沿ってある巨大な壁と冒険者の協力でなんとかしのいだが、壁が無いんじゃあ、街に安全な逃げ場なんてないぞ。
「見ろ! ドラゴンだ……! なんでこんな田舎の街にドラゴンが来るんだ……!」
作業員の一人が青ざめた顔で上空を見上げ、叫ぶ。
見ると、巨大な翼を広げた一匹の赤いドラゴンが街の上空を飛び回っている。
嘘だろ……ドラゴンとか、英雄譚に出てくる勇者が倒すクラスの強敵だぞ。確か遥か遠くの巨大な山にいるとか聞いたが、なんでこんな人里に……!
くそ、空を飛ぶモンスター相手に、どこに逃げろというのか。
森の方から戦闘音。
何人かの冒険者が必死に街のほうに逃げてくる。
「オークだ! 数えきれねぇぐらいのオークの群れがこっちに来てる! みんな逃げるんだ!」
「オ、オーク? それどころじゃねぇんだよ、街にはドラゴンが来てるんだよ!」
森から逃げてきた冒険者が叫ぶが、街の住民が上空のドラゴンを指す。
「ド……ドラゴンだと! 一体どうなっているんだ……!」
森から逃げてきた冒険者の顔が青ざめる。
上空にはドラゴン、そして森からは数えきれないほどのオークの群れ。
これは……かなりマズイ状況なのでは。
俺の柱魔法ってハズレ能力かと思ったら実は最強の盾でした ~土木作業魔法で成り上がる~ 影木とふ@「犬」書籍化 @tohutohu472
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