第12話 爆発暴走娘ⅤS柱魔法
「あーもう! みんな勝手なんだから! いいルウロウ、私のシアンにケガさせたら許さないからね!」
「ひひ……悪鬼滅すべし……実技試験とはいえ、思わず手がすべってしまうことも……うひひひひ」
Sランクパーティー『月下の宴』の実技試験。
『月下の宴』が所有する食堂の裏に壁で囲われた大きな訓練場があって、そこで俺は不気味な笑みを浮かべブルブル震えている女性、ルウロウさんと対峙している。
ルナが審判をやってくれているので、殺されるようなことは……ない、と思いたい。
つか、マジでルウロウさんの目がヤバい。
なんというか、殺人に快楽を覚えた系の犯罪者の目。
さて、実際どうしようか。
試験と言われても、俺には柱魔法しかない。
とりあえず彼女の剣を一定時間防いでいればいいのだろうか。
「はじめ! シアン、彼女の剣は……」
「私のお姉様をたぶらかす悪鬼め……細切れにしてから爆発で灰にしてやる!!」
うっは、ルウロウさんの気迫がマジですごいんですけど……試験だからと手は抜かないってことか。
まぁ実戦では命の奪い合いになるし、それを想定して動いてみせろってことか。
ルナの言葉が終わる前に、ルウロウさんが剣を構え突撃をしてくる。
「爆発微塵、悪鬼滅殺!」
剣が俺の顔面に向かい迫ってくるが、身体をずらし回避……
「ひひぃ、馬鹿め! 私の剣は二段構えなんだよ! 砕け散れぇ!」
ルウロウさんの剣が俺の真横の空を突き刺す。
よし避けられた……と思ったら、剣に魔力が宿り発火。
「しまった……!」
そういえば食堂の前でルナとルウロウさんの戦いのとき、剣が爆発を起こしていたな。
これがルウロウさんの得意技なのか。
ルナは上手に風の魔法で上空に吹き飛ばしていたが、俺にはそんな器用な能力は無い。
柱魔法も間に合わなそう……って実技試験だし、さすがに手加減しているだろうし、服が燃えるぐらいは覚悟……
「……な、なに!? 顔が吹き飛ばない……だ、と……?」
俺の顔にモロに爆風と熱がくるが、うん、特に痛くも熱くもないな。
まぁ試験だし、手加減をしてくれたのだろう。
……にしてはルウロウさんの顔がマジの驚きの表情なんだけど、何?
「コラァ!! ルウロウ! 私のシアンを殺す気なの!?」
「ルウロウ! 何をしている、試験だぞ!」
ルナとロイドさんがガチギレ。
え、もしかして……マジ爆発?
「ばーか。アタシの魔力を突破出来るワケがねェだろ、雑魚が」
腕組みリューネが勝ち誇ったように言い、ルウロウさんを睨みつける。
「……あら、ルウロウの爆発で無傷。随分と頑丈な……いや、あの子に届く前にルウロウの放った爆発のエネルギーが霧散した? 力負けして弾かれるんじゃなくて、完全に消え去った。うふふ、すごいのね、あの子。何かの力の影響で常時魔法無効っぽい」
「あれー? ヴィアンが新人さん見に来るなんて、めっずらしー」
メイメイさんの横に、全身黒いドレスに大きな帽子をかぶった女性が立っている。足元に可愛い黒猫もいるな。
「……あの少年、ルウロウの、動きが全部見えている……。でも、絶対に攻撃を仕掛けない……。もしかして防御特化系……?」
「うわー、人嫌いのアイリーンまで? 大注目だ、あの少年ー」
さらに狐耳のパーカーを着た女性も追加で登場。
あの人も『月下の宴』のメンバーなのだろうか。
常時魔法無効……そういやさっきリューネにネックレスを貰ったな。
確かそんな効果があるとか言ってような。
ってことはこれ、リューネのネックレスが無かったら、俺の顔が吹き飛んでた……?
こっわ! なんなのこの人……!
「致命傷確実の私の爆発を無効化……何者だ貴様ぁ! 私のルナレディアお姉様に何をしようとしている……!」
ルウロウさんがブルブルと身体を震わし、怒り狂ったように剣を突き出してくる。
リューネのネックレスがあるとはいえ、爆風は受けたくないんで……いい加減こちらからも攻めますよ……!
ルナと共に俺が王都まで来た理由は、ただ一つ──
「俺はシアン=ソイル。冒険者になってルナと一緒に戦えない人を、街の人を守りたい! 有名な物語の英雄勇者のように……そして俺がこの世で一番尊敬している……父や母のように!! 柱魔法アルズシルト!」
ルウロウさんの突き出してきた剣の前に柱魔法を展開。
「……石の柱……? バカが、私の剣は例え分厚い鉄板でさえ簡単に貫く……! 死ねぇぇ不埒な悪鬼めぇ!」
俺の柱魔法とルウロウさんの剣が激突。
石と鉄がぶつかる激しい音が響き、剣から爆発が起きる。
悪いが、その程度では俺の柱は突破出来ない……!
「……!? バカな……私の剣が……」
ルウロウさんの戸惑う声が聞こえ見ると、手にあった剣が地面に突き刺さり、口をポカンと開け驚きの表情。
「そこまで! こんのバカぁ! シアン大丈夫? ああもうっ……この爆発暴走娘!」
審判をやっていたルナが叫び、ダッシュで俺に駆け寄り抱きついてくる。
うっは、良い香り……
「ほごぉ、ル、ルナレディアお姉様……おぶぅ、あ、良い、これも良い! お姉様の愛の打撃も私は受け入れぇぇ!」
ルナが俺に抱きつき頭を優しく撫でながら、ルウロウさんに足蹴り連打。
ルウロウさんがその衝撃に恍惚の顔で身悶え、身体をビクンビクンさせる。
「シアンなら負けないとは思っていたけど……大丈夫? 怪我していない? 今すぐ回復魔法をかけてあげるからね」
ルナが俺の顔に頬ずりをし、じんわりと暖かい回復魔法を発動。
あ、俺は無傷ですから大丈夫です。
その、大丈夫じゃあなくて、回復魔法を必要としているのは、むしろ今ルナに蹴られているルウロウさんかと……
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