第2話 神衣の掟は、俺が守る!
かつて、世界から色が奪われた日。
ある場所では、三色の羽衣を纏い、折り紙を持った魔法使いが、世界に色を取り戻すために戦っていた。
「この世から彩りを、奪われてなるものか!!!」
バサアアアッ!!!
その人は、大量の折り紙を形にして、世界を彩り、災いを鎮めたのであった。別の場所にいたスリージェのようにチカラを使い果たさなかったが……。
「この羽衣は、私の子供にも、孫にも、さらなる世代にも、未来永劫受け継がせるとしよう」
その魔法使いの持つ羽衣は、言葉通り一族に代々受け継がれていったのであった……。
* * * * * * *
時は流れ、現代。
とある国のとある場所にある『彩採市』にある、
「今日も空が綺麗だな、誰の悩みとも関係無さそうに……」
俺……いや、私の名は
「だが、今はこの景色に見とれている暇は無い、今日も今日とて舞踊の稽古だ」
神衣の一族に生まれた者は、男女問わず歴史と伝統を護るために生きねばならぬ。それが、生まれてすぐに俺……、私に告げられた宿命だった。
「さて、今日も始めよう」
舞を踊るための衣装に着替えると、神社の敷地内にある池の上に浮かぶ舞台の上に立ち、従者の笛の音が聞こえる中、私は両手に扇を持って、
「思い出せば……あれは、10歳の誕生日の出来事だった」
私は踊りながら、この前の誕生日の事を回想した。
* * * * * * *
神織神社を守る一族、神衣家に生まれた私、神衣志織は幼い頃より両親から神衣の伝統と文化を教えられて育てられた。同世代の子供と遊ぶ事は基本的に無く、学校から帰った後も舞踊の稽古やら神衣家の歴史の勉強やら、これら全てが世の中の美徳だと言わんばかりの勢いであれよこれよと教えられていった。
私には幼い頃から自由な時間は無かった。親の言う事は厭だと言ってもしなければならないと何度も言われ、気が付けば、両親や親族の言う事には絶対従わなければならないと無意識に思い込むようになっていた。
こうして迎えた神衣志織、10歳の誕生日。
「お誕生日おめでとう、志織」
「母さん、おはようございます」
「今日であなたは10歳になりましたね。この後見せたいものがあるから準備しなさい」
私は色々な支度を済ませると、白い衣装に身を包んだ母親に案内されて、家の奥にある大きな扉の前に連れて来られた。
「母さん、ここは普段立ち入りを禁じている部屋ですよね」
「はい、あなたがこの歳を迎えたからここに呼んだのです、では入りますよ」
扉は大きな音を立てて開いた。その奥にはほのかに光る何かが見える。
「少し、待っててちょうだい」
「はい……」
母は部屋の奥に光っているものを取り出すと、私の前に持ってきた。
「志織、これをご覧なさい」
それは、何とも美しい羽衣であった。しかもただの布ではなく、赤、青、緑の輝きがその布から溢れ出していた。
「母さん、これは……?」
「これは、神衣家を受け継ぐ者の証。私も、祖母も、あなたぐらいの歳になるとこれを纏って世のため人のためになすべき事をした。今まで厳しい修行に耐えられたあなたなら、これを纏う事が出来ます。さあ受け取りなさい」
俺、いいや私は、幼い頃から親の言う事は絶対厳守だと思って生きていた。これを手にするのも神衣家の掟だと思い、羽衣を受け取った。
「さあ、その羽衣を、肩に掛けてみなさい」
「はい……」
私は、その羽衣を肩に掛けた……すると!
ティロリラティロリラリン♪
琴の音色のような音と共に羽衣が光り出し、私の身体を包み始めた。身体中に、何か不思議なチカラが集まってくる感じがする……
「今までに無い感触が肌を包んでいる……!」
今までに感じた事の無いドキドキが強くなってくる……!
「こっ……これは……!」
……光が収まると、私の姿は赤、青、緑の極彩色の衣に包まれていた。Tシャツとハーフパンツのような衣服を着て、頭には三色の飾り、背中には三色の三枚の羽が付いている。両腕には二つの輪っかが付いた腕輪がある。
「なんだ……この姿は……!」
母が私を見てこう言う。
「これが神衣家を受け継ぐ者の証。その名も、カムオリノミコト!」
「カムオリの……ミコト……?それで、何が出来るんだ?」
母は、この姿の説明を始めた。
「この装束は、腕輪から耐水折り紙を放ち、念動力で折って形にする事で意のままに操り使役する事が出来ます。まずは赤い色を念じながら腕を突き出しなさい」
「こ、こうか!」
バシュ!
私は腕を突き出すと、一枚の赤い折り紙が出て来た。母の言う通り耐水素材なので、雨の日でも使えるようだ。
「次はその紙に作りたいものを念じて見て下さい」
「じゃあ、鶴になってくれ!」
すると、折り紙がひとりでに動き出した。
パタパタッ!
一秒も経たない内に折り鶴が一羽完成した。
「それはあなたの意思で自由に動かせます!」
「こうか!」
私は折り鶴に念を送ると、折り鶴は生きてるかのように飛び回った。
ビュンビュン!
「すごい……!」
私はしばらく折り鶴を操った……だが、一度念が途切れると、折り鶴は地面に落ちて動かなくなった。
「上出来です。このチカラを世のため人のために使う事が、神衣家に代々受け継がれる使命なのです。さあ、新たなるカムオリノミコトよ!世のため人のために飛び立つのです!」
「分かりました……母さん!」
「それから、元の姿に戻る時は、背中の羽を引き抜くのです」
「こうか……!」
てけてけてん♪
羽を引き抜くと、手には三色の羽衣を持ったいつもの青色の服装の私が立っているのであった。
「そのチカラが必要な時は、その羽衣を取り出して、
「分かりました、母さん」
* * * * * * *
以上が、この前の誕生日の出来事である。……なんて考えてる内に稽古も仕上げの時間が迫って来た。
「さて、行くか……」
私は懐から母より託された三色の羽衣を取り出してこう言った。
『
ティロリラティロリラリン♪
私は羽衣を身にまとってカムオリノミコトの姿に変身した。
「折り綴る色彩の調べ、カムオリノミコト!!!」
すると私は腕輪から何枚もの折り紙を出して様々な形を念動力で折って作った。
「いざ舞わん!神織神楽!!!」
ブワアッ……!!!
私は折り紙達と共に舞を踊り、稽古を締めくくったのであった。
パチパチパチ……
そこに、母がやって来た。
「今日も見事なお手前です、カムオリノミコトよ」
「お褒めに預かり光栄です」
「あなたならきっと、これまでに活躍した中でも最も優秀な折り紙の使い手となれるでしょう」
「日々、精進いたします」
「さて、この後も稽古はまだまだ続きます。次はこの私が勧める、素敵な折り紙の折り方を伝授いたしましょう」
「よろしくお願いします、母さん」
その後母から新たな折り紙の折り方を教わると、その形をどう使えば役に立つかも教わった。他にも、色と形には相性があるとか、衣の色を変える方法なども、母から直々に教えられたのだった。それが私、神衣志織の毎日。
そのチカラで世の中の災いを祓い、人々の暮らしをより良くしていく事。これが母から課せられた使命であるのなら……私……いや、やっぱり、『俺は!』カムオリノミコトとして役目を果たすまでだ!!!
これから俺は、沢山の試練に直面する事だろう。だが、母の教えを守っていれば、全ては上手くいくだろう……と長い間、思い込んでいたのだが、その後ある人との出会いが、この状況を少しずつ、いや、確実に変えていく事になろうとは……。
俺が本当にやりたい事は何なのか……。
それはまた、次の機会に語るとしよう。
つづく
マジックカラーズ 早苗月 令舞 @SANAEZUKI_RAVE
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