マジックカラーズ
早苗月 令舞
第1話 魔法のペンで、変身しちゃった!?
あの日、世界から色が消えた。
突然、世界中で巻き起こった大きな災害は、この世の全てを飲み込まんばかりに広がっていった。
天は荒れ、地は揺らぎ、人の住む街も、生命を育む自然も破壊された。
あの日、世界から色が消えた。誰もがそう記憶していたという……しかし。
その混沌とした大地で、最後まで災いに抗おうとした人達がいた。それが通称『色の魔法使い』なのである。
その人達は、手にはペンのような物を持つ者や、折り紙を持つ者など、世界中に数えるほどしかいなかったが、それぞれが強力な魔法を使える人達……そう、魔法使いだったのだ。
ある場所では、虹色の衣を着た魔法使いが、右手に持ったペンにチカラを込めて、魔法を放っていた。
「わたし達、色の魔法使いが……この世界を守ってみせる!!!」
パァァァアッ!!!シャラーーーン♪
彼女がその手に不思議なペンを掲げると、ペンから沢山の色が溢れ出して、空は青く染まり、地は緑の草木、赤や黄色の花が咲き乱れ、世界を喰い潰そうとした災いは、色の魔法の前に消え去った。
「良かった……世界に色が戻って……!」
こうして世界には色が戻り、人々は歓喜した。しかし……。
「……もうわたしには、これ以上動くチカラは無い……あとわたしに出来る事は、これだけ……」
全てのチカラを使い果たした彼女は、手にしたペンをぎゅっと握ると、光の霧となって立ち昇り、その光はペンの中に入って眠りについた。
「わたしのタマシイを受け継いでくれる人が来るまでは……」
それから、世界を救ったマジックカラーズの活躍は、おとぎ話として沢山の人達に語り継がれていき、数百年の時が経過した。
* * * * * * *
早苗月 令舞 Presents
『マジックカラーズ』
時は流れ、現代。季節は春。
「今日も、良い天気」
ここはとある国のとある場所にある彩り豊かな街、『
「今日も、良い景色」
わたしの名前は
「今日も、良い絵が描けそう」
物心ついた頃からペンで絵を描く事が好きなわたしは、季節ごとに色々な景色を見せる川沿いの並木通りが好きで、散歩の時はスケッチブックとペンを持って良く通っている。
「今日は何を描こうかな」
毎日、歩きながらこんな事を考えているわたしは、周りからはちょっと変わり者なのかなと思われているけど、日々思う事をペンに乗せて色々な絵を描いて、毎日楽しく過ごしていたの。そう、この間まではね……。
ある日曜日、天気が良いから、描きたい景色を探しにいつものように川沿いを歩いていたら、突然、橋の下の方から……。
『あなたこそが……こっちへきて……』
女性の不思議な声が聞こえたの。
「えっ……誰なの!?」
わたしは、橋の下から聞こえてきた声に導かれて、橋の下に来た。するとそこには道路の下を通るようにキラキラしたトンネルがあったの。最近この辺りが工事された様子は無かったと思うけど……。
「こんなの、今まで無かったはずなのに、いつ出来たのかな……」
『この先に、来て……』
わたしは辺りを見回して誰もいない事を確認すると、そのトンネルを潜って通っていった。
・
・
・
トンネルをしばらく歩いていると、出口に差し掛かった。トンネルを抜けると、そこには小さなガゼボがあって、真ん中には一本の大きなペンが立ててあったの。
「なんだろう、このペン……」
わたしがペンを手に取ろうとすると、またあの声が聞こえたの。
『ああ……あなたこそが、わたしのタマシイを受け継いでくれる人……さあ、わたしを持って!』
「ええっ!?ペンが喋った!?」
突然喋り出すペン。わたし、夢でも見てるのかしら?いや、これは夢じゃない。
「さっきからわたしに声をかけてくるあなたは誰なの?」
『申し遅れました。わたしは色の魔法使い、マジックカラーズのひとり、スリージェ・クープ』
「え?マジックカラーズ!?昔お母さんから聞いたおとぎ話に出て来る、あの?」
『おっしゃる通りです。わたしはあなたのような人が来る事をずっと待っていました。世界を救う為にチカラを使い果たして幾年月、ようやくわたしのチカラを受け継ぐにふさわしいウツワに出会えました』
何だか話が長いけど、わたしはそのスリージェさんに言った。
「急に言われても……チカラって、何のチカラなの?」
『この世界を守るためのチカラです』
「う〜ん……でもまずは、このペンを持てばいいんだよね!」
『そうです、さあ、掴んでみて……!』
わたしは目の前のペンを思い切って持ってみた。すると……!
シュピリーーーーーン♪
ペンから眩しい光が溢れ出して、わたしは光に包まれた。
「わっ……なに……なにこれ……!」
わたしは身体中から光を放ち、何か不思議なチカラを身にまとうような感覚の中にいた。さらにわたしの服が、何だか別のものに変わっていくのを感じる。
「ふしぎなチカラを、着ているみたい……!」
そして、光が収まると、わたしの姿は、まるでおとぎ話に出てくるような魔法使いの姿になっていた……!ピンクと、水色と、黄色の三色で彩られた服を着ていた……!頭には桜の花のような飾りの付いたトンガリ帽子を被っている。それと、なんか露出度がちょっぴり高い気がする……///
「な、なに……なんなの、この格好……!」
『これからはあなたが、スリージェ・クープです!さあ、困っている人達を助けましょう!』
「えっ、人助けって……えええええっ!!!」
うろたえるわたし。急に突然、そんな事言われたって何をすればいいか分かんない……。
「こ、これで、何をすればいいの!?」
『このペンは、あなたの想いを形にして、実体化させる事が出来ます。さあ、何か描いてみて』
「わ、分かった!それじゃあ!これで!」
わたしは試しに、このペンでちょうちょを描いてみた。
すると……!
パアッ♪ヒラヒラヒラ……
「わあっ!本物のちょうちょになった!」
ちょうちょはしばらく飛んでいくと……。
しゅわっ
シャボン玉が割れちゃうみたいに消えちゃった。
『このペンは持ち主の想いを実体化する。このペンで描いたものはきっとあなたの想いに応えてくれる事でしょう』
ともかく、今のわたしに出来る事は、このクーピーで何かを描くと、一時的に実体化して色々な事をしてくれるみたいなの。
「とりあえず、ここから外に出ていいかな」
『はい、きっとあなたの助けが必要な人がいるかもしれませんよ』
わたしは、スリージェ・クープの姿のままで、さっき通った道を引き返していった。
・
・
・
トンネルから外に出て、後ろを振り向くと、さっきまであったトンネルは、綺麗さっぱり無くなっていた。
「これも、スリージェさんの魔法なの?」
『はい、わたしの望んだ人が来るまでこのトンネルを隠していました』
「そうだったんだ……それで、人助けと言ったって何をすればいいのかしら……あ、あれは……!」
「ひっく……うえええん……!」
ふと見ると、目の前に泣きじゃくる男の子がいたの。歳は6歳ぐらいかな。わたしはその子の前に駆け寄った。
「どうしたの?」
「ボクの紙飛行機が、木に引っ掛かっちゃっただあ……クレヨンでかっこいい模様まで描いたのに……うええええん……」
男の子の指差した先には、確かに木に引っかかった紙飛行機があった。飛ばして遊んでいたらここに引っ掛かったみたいだ。
「分かったわ、じゃあわたしに任せてくれる?」
「う、うん、おねがい!」
わたしはあの紙飛行機を取ろうとしたけど、わたしの身長じゃ届きそうに無い。だったら。
「それじゃあ、これでまたちょうちょを描いて……」
わたしは、ペンでちょうちょを三匹描いて実体化させると、ちょうちょ達にお願いした。
「あの紙飛行機をこの子の所に持ってきてくれる?」
すると、ちょうちょ達は紙飛行機に向かって飛んでいき、紙飛行機を取り出すと男の子の所に届けに来た。
「あっ!僕の紙飛行機!」
「すごい……本当に届けてくれた……」
男の子はちょうちょ達が届けた紙飛行機を受け取ると、ちょうちょ達はまたしゅわっと消えた。
「これからは気をつけて遊んでね!」
「うん……ありがとうお姉さん!!!」
男の子の顔に笑顔が戻り、男の子は帰っていった。
『そう、こんな風に人々に笑顔を灯してあげるのが、わたし達……マジックカラーズの使命なの』
「そうなんだ。このペンで人助けをするものを描いて、誰かを笑顔にする……わたし、やってみたい!とにかく、これからよろしくね!スリージェさん!」
『わたしのタマシイは、いつでもあなたと共にあります……と言いたいところですが、もうすぐチカラが無くなりそうなので、変身を解きますね』
「えっ……わっ!」
ぱしゅんっ♪
すると、わたしはスリージェ・クープの姿から、元の桃色のお洋服を着た姿に戻った。
『今後ともわたしのチカラが本当に必要な時は、いつでもこのペンを使って下さいね』
「分かったよ!また必要になったら使ってみるからね!……って、あれ?
「うわーん!困った事になったよー!」
世の中、何かに困っている人は思ったよりも沢山いるみたい。
「また目の前に何だか困っている人がいる!だからお願い、またチカラを貸して!」
『分かりました。わたしだってもう少し頑張らなければ。変身する時は、そのペンをぎゅっと握って「フルール・ドゥ・スリージェ・カラーズ」と言うのですよ』
「分かった、じゃあ行くよ!」
わたしはペンを構えてこう言った。
『フルール・ドゥ・スリージェ・カラーズ!!!』
シュピリーーーーーン♪
わたしはもう一度、色の魔法使いに変身した。
『世界を彩る一撃!スリージェ・クープ!!!』
こうしてわたしは、さらなる困難を解決するために飛び出した。……うん、まずは小さい事からコツコツと、誰かを助けて支えてあげるのが、わたし、スリージェ・クープの使命なんだから!
そんなわけで、わたし会垣十色は、普段は絵が好きな女の子、誰かがピンチな時は色の魔法使いスリージェ・クープとなって人助けをするようになった。
これからの日々、わたしだって思いもよらなかった事を沢山経験するんだけど、一体どんな事があるのかは、まだまだ先のお話。
つづく
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