第3章:「オペレーション、〝イチゲキ〟」

ミッション18:「始動と、異国のフレンド」

 自衛隊が、いや人類に世界が。

 性を変貌する身体を、それにより生み出される力を。それを武力として携える事となってから、少しの月日が経過していた。

 心強い力を、希望を与えられ持つに至った人類世界だが。

 だが今もフィアーの脅威は大きく、そしてそれに脅かされる日々は続いていた。


 そしてしかし現在。その日々に終止符を討つべく、ある一つの大きな動きが始まっていた――



 その日の浜松基地は、騒々しさに包まれていた。


 東西に延びる滑走路。その向こうの空に、アプローチコースを取るシルエットがある。

 それはまたFTGS装備の少女の姿。

 しかし、ここまでに見て来た戦闘機型のものと比べ、それは遠目にもその巨大さが判別できた。


 中核となる人の身体は、小柄な少女のもの。しかしその両側に携えるは、まるで巨大な刃物のような後退型の主翼。

 そしてその翼の下に宿す、複数発のジェットエンジンを唸らせ吹かしている。


 自衛隊の機、FTGSでは無い。

 それは、アメリカ空軍の保有する戦略爆撃機。

 ――B-75E インヴィンシブルフォートレス。

 それを原型とするFTGSであった。


 異世界よりもたらされたFTGSは、今や世界の軍隊に伝えられ広まり、対フィアー作戦での運用が始まっていた。


「――迫力だな」

「すっげ……!」


 少女の身体にしかし反した、巨大なギア・デバイスを備える姿のB-75E機少女が。

 迫力の様相で滑走路に進入して来る様子。


 それをハンガー前のエプロン区画で、それぞれの反応の声に様子を零しつつ眺める、他ならぬ隼に飛燕の姿が在った。

 今に在っては二人どちらも、それぞれの本来の仕事である総務に警備の仕事から、休息のために抜けて来た所であるため。

 どちらも元の男性の身体で、迷彩作業服姿だ。


「アメリカ軍ってやっぱダイナミックだよなー……ッ」

「でかい作戦になるそうだからな。向こうさんも本腰を入れて来たんだろう」


 その二人は。

 今に滑走路に進入し、その巨体に反したVTOL機のような様相での降下から。

 ふわりとその脚を、次いで補助翼に支えられた主翼を降ろし着陸したB-75E少女を見つつ。

 それぞれの言葉を零す。


 今先から、B-75E飛行隊の少女たちが順次飛来、堂々の様相で着陸する姿を見せており。

 二人の言葉はその迫力の姿に、それぞれの感想他を示すものだ。



 ――現在、日本の自衛隊、そしてアメリカ軍の間では合同で。

 大規模な対フィアー作戦が始動、進行されつつあった。


 今に見える爆撃機少女たちの飛来は、その内の一環。

 アメリカ空軍爆撃隊が出張展開のために、この浜松基地を間借りの場所として訪れているのだ。



「――ウチの〝ボーイス〟は、麗しいだろう?」


 そんな二人の元へ。背後から何か低くしかし透る声色での、そんな言葉が寄越されたのは直後であった。


「?」

「っと?」


 二人が振り向いてまず見たのは、三人分の人の姿。

 一人は他ならぬ鍾馗、今は隼等と同じく男性の姿。

 そしてその鍾馗に案内を受けるような形で、さらに後ろに立つ二人分の姿がった。


 それはどちらも中年程の白人男性。

 一人は身長180cmを優に超えていそうな体に、ふんだんな筋肉を宿した。まさに筋肉モリモリマッチョマンな男性。

 もう一人は、今のマッチョマンよりはスマートだが、確かに鍛えられた身体を持つ。紳士そうな風体が特徴の男性。

 格好はどちらもフライトスーツ。

 そしてそれぞれマッチョマンの男性にはアメリカ空軍大佐の、紳士風の男性にはアメリカ海軍大尉の階級章が着いていて、彼らがアメリカ軍の軍人である事が分かった。


「うぉっ!」

「ん」


 唐突な同盟軍の上級士官の登場に、飛燕は少し驚く様子で、反射的に身に付いた様子で。

 対して隼は、さして驚くでも無くいつもの淡々とした色を崩さず。

 それぞれの色を見せながら、姿勢を正す動作を見せる。


「あぁ、いいんだジェイボーイズ。畏まらないでくれ」


 そんな二人にしかしすぐに、マッチョマンの大佐はフランクな様子で。そんな促す言葉を続けた。


「大佐、大尉。この二人が先にお話しした、制斗臨尉に式機臨尉です」


 その大佐の促す言葉の後に。両名を案内する形で同行していた鍾馗が、まずは身内である隼等を紹介。


「二人とも、こちらはアメリカ軍のローマック大佐とハンク大尉。どちらも今回の作戦の調整のために来隊された」


 それから、現れた大佐と大尉の二人の名と身分。そしてこの浜松基地に訪れたその目的を説明して見せた。


「アメリカ空軍、第111爆撃航空団のダニエル・B・ローマック空軍大佐だ。よろしくな

ジェイボーイズッ」

「海軍、空母ジョン・マーサー・ブルックの第16空母航空団所属。ラス・W・ハンク海軍大尉です、よろしくお願いします」


 その紹介の言葉に続け、ダニエルと言う名の空軍大佐はその見た目に違わぬ快活な色で。ラスと言う名の海軍大尉はまた風体に似合う静かな色で、それぞれの挨拶の言葉を寄越した。


「あぁ、作戦の――しかし、なぜこちらに?」


 その紹介、そして明かされた身分から。

 その二人がこれより始動しようとしている大規模対フィアー作戦に参加するためのアメリカ軍側の軍人。そしてその主要士官、指揮官クラスである事は容易に察しがついた。

 しかしそれに伴い生まれた疑問。

 そんな身分のダニエル等がなぜ、アメリカ軍の到着の姿を端っこで野次馬のように見ていた自分等の元にわざわざ現れたのか。

 それを隼は端的に問い返した。


「何、ジエイタイのエースと名を馳せているトランスボーイに会ってみたくてねッ」


 そんな質問に、ダニエルはその厳つい顔に反した陽気な色を浮かべてカラカラと笑い伝える。


「隼、お前さんがお目当てだってよっ」

「あぁ」


 次にはダニエルのそれに乗っかる様に、隣に居た飛燕も揶揄うような声を隼に向ける。

 対して隼が零したのは、何か納得しながらも少しの気だるさを見せるような、小さな一声だった。



 ――異世界より力がもたらされ、隼が刃を携えるに至ったあの日以来。

 隼はスクランブルを始め、いくつもの任務に参加従事。

 その度に憎きフィアーを砕き、墜とし、討ち。味方を、人々を護り救って見せ。

 いつしか自衛隊内で、〝エース〟と持て囃されるようになっていた。


 さらに。

 武を携え舞い、怪物を倒して人々を救う美少女たち(中身は男性だが)の存在は。自衛隊に留まらず世間でも大きな注目を集め。

 恐怖と不安の内にあった世間に、希望として――そしてある種のアイドルのような形でも受け入れられ始めていた。

 そんな中でも、エースに値する戦歴を持ち始め。おまけにこの世界でその初めてのケースとなった身である隼は。

 現在に在っては英雄兼、トップアイドルのような目を世間から向けられていたのだ。


 もっとも隼自身の気質は、それと相性の良いものとはお世辞にも言えないものであるため。

 任務作戦に支障を出さないよう自衛隊側が厳選、カットしているとはいえ。広報の都合から時々ある取材や他関係活動(最近は配信とかまでさせられ始めている)に。

 隼は日々、そのしかめっ面を隠すことなく見せていたが――



 そんな事情背景があって、隼の顔には微かに苦く倦怠の色が混じり浮かぶ。


「ニュースでその姿はいくらか見させてもらってるよ。しかしその正体は、なかなかにクールガイそうだな」


 すでに資料などで隼のFTGS装備時の姿は知っているのだろう、その旨を。男性時の隼を見た今にあっての感想と合わせて寄越すダニエル。


「興味を持って頂いて光栄ですが、残念ながら自分はご期待に沿えるような男ではないかと」


 そんなダニエルの言葉に。隼は謙遜と、合わせての微かな皮肉を含ませての言葉を返す。


「制斗」


 そんな隼の色を見抜き、しかし「同時に気持ちは分かるが」とでも言うように。鍾馗から困った色交じりの注意の一声が飛ぶ。


「ハハッ、またクールに返してくれるッ。一筋縄ではいかないエースだ、それくらいの強い個を宿していないとな!」

「英雄とは得てして、そういう気質を有するものかもしれませんね」


 しかし、ダニエルにあっては隼のそれを何か気に入ったらしい。豪快に笑い、そんな言葉を寄越し。

 隣に立つラスも、それに同意するようにそんな補足の言葉を零す。


「こちらでは短い間だが、間借りさせてもらう身だ。その間のキミ等との日々が、今から楽しみだよッ」


 そしてまた挨拶を兼ねた言葉を寄越すダニエル。


「三佐、寄り道のワガママを言ってすまない」

「いえ、ではハンガーの方に行きますか」


 それからダニエルは、案内の鍾馗に寄り道を詫びる言葉を向け。その鍾馗も返し、これよりの予定を口にする。


「二人とも、悪かったな」

「バーイ、ボーイズッ」

「失礼するよ」


 それから鍾馗は隼等に詫び、ダニエルとラスもそれぞれの去り際の挨拶の言葉を向け。それぞれ身を翻してハンガーの方向へと去っていく。


「……なんか、まさにアメリカンな大佐だったな……ッ」

「しに来たのはただの冷やかしだったがな」


 そんな姿を見送りつつ。飛燕は豪快な同盟軍大佐の登場に肝を冷やし、そして同時にそのムーヴに一種感心した様子を零し。

 対して隼は変わらずの淡々とした色で、そんな構わぬ皮肉気な言葉を零した。

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