ミッション17:「参上、そしてコンプリート」

 劈くまでの衝撃、炸裂音。

 それは、屠龍がフィアーの熱光線に撃たれてしまったものか。

 ――否。

 それは屠龍の側方で巻き起こっていた。

 まさに屠龍を射ち砕かんとしていた、しかしそのフィアーの体が。爆炎に包まれていたのだ。


「ッ!?」


 また、しかしそれまでとは別の意味で目を掻っ開く屠龍。


 直後には、自分を襲おうとしていたフィアーは、しかし自分の真横から消え。

 そして屠龍が気配を追って振り向けば、背後後方のやや下方。

 その禍々しい体を、しかしぼろ切れのように無残に千切り。

 降下――いや墜落していくフィアーの姿が見えた。


 そして直後、屠龍の側方上空を。

 劈く轟音を鳴り響かせて。何かのシルエットが、一瞬感じただけでも優美さを覚えるそれで、飛び抜けたのはその時。


「――!」


 またそれを追って見れば、その正体が明らかになる。

 それは自分と同じ、FTGS装備の。しかし自分とは異なる形式のそれを纏う、少女の姿。


 ――F-27JA。

 その機を元とするギア・デバイス装備を纏う、性転換少女の隊員。

 他ならぬ、隼の姿で在った――



「――一機撃墜ッ」


 通信に知らせの声を張り上げながら。眼下で墜ちて行くフィアーを。

 そして次にはそれに襲われる寸前であった、F-3AのFTGS装備隊員――屠龍のその無事を、視線を向けて確認する隼。


 最早明白であろうが、今にフィアーを墜とし屠龍の危機を救ったのは、他ならぬ隼。

 任務更新から駆け付け到着した隼の、その放った04式空対空誘導弾が成したものであった。


 それぞれを確認すると、隼は次には鋭くも美麗な旋回行動を描いて大きめに回頭。

 バーナーを吹かして追いかけるは、残る最後の戦闘機型フィアー。


《――ロックオン――フォックス2ッ!》


 そして、そのフィアーに斜め後方より追い付き、その姿をロックオン。

 ハードポイントに備わるAAM5-を、再び発射。


 見るに、屠龍を仲間が喰らい墜とす事を確信していた所への。しかし一転した事態に驚愕狼狽に陥った様子の、その最後のフィアー個体に。

 AAM-5は容易く追い付き、見事に着弾。


 フィアーのその体を炸裂で包み、千切り。

 そして墜落のする末路へと辿らせた。


「撃墜ッ」


 それを見止め、張り上げながらも。しかし淡々な色をそこに含める隼。


《撃墜、ラストボンバーダウンッ!》

「!」


 そこへ、隼の声とは反した。景気良く張り上げる声が通信に続けて飛び込む。

 それは最近によく聞くようになった、同期の隊員の、少女へと身を転じた際のそれ。すなわち飛燕のもの。


 前側方の向こうへ目をやれば、逃れた最期の爆撃機型フィアーが。

 しかし屠龍や隼の活躍によって妨害を免れ、無事に追いついた飛燕によって。見事に誘導弾を叩き込まれ、今まさに宙空で弾け千切れ。

 次にはその巨体を、しかし儚くも舞散らすように墜ちて行く姿となって見せた。


 爆撃型フィアーの撃墜を成した飛燕は、そのまま向こうの空で上昇から離脱。

 さらにその上空で旋回して、飛燕の側に援護を提供していたF-27JA少女に――今先にこの空に隼と一緒に駆け着た、鍾馗に合流する姿を見せた。


 さらに空気の少し高めの高度には。やはり隼や鍾馗と一緒に駆け着けた、小松の306飛のF-27JA性転換少女の二機編隊が。

 上空、空域全体の援護監視支援のために飛んでいる姿が見える。


 さらには少し遅れつつも、三沢の301飛よりのF-3A装備少女(無論中身は男性)の二機編隊も。追いつきその場に現れた。


 そんな各光景、動向を一度見た後。隼はまた旋回回頭。

 屠龍の後方へと回り追い付き、そのすぐ後ろ側方へと自分の身を着けて。編隊を組む。


「リュウセイ7-1、無事ですか?」

《!――あぁ……!》


 そして隼は、その屠龍に通信で呼びかける。

 その屠龍からは通信に少しの驚きの声色が混じり。何より直接見えるお嬢様系のその可憐な顔に、同様の驚きの色が見えたが。

 次には問いかけに対して、無事を肯定する答えが返る。


《――1-2、そちらもクリアか?リュウセイ7-1は?》

「クリアです。7-1も無事です」

《了》


 そこへ入れ替わりに隼の耳に届いたのは、鍾馗の側よりこちらの状況を確認する言葉。

 それに隼は肯定で端的に答える。


《ライデンよりホマレ。エネミーオールダウン、エリアクリア。全機被害ナシ、ミッションコンプリートッ》


 そして、全ての状況のクリア、完遂が確かに確認され。鍾馗より入間のSOCに向けての、任務完了を伝える通信が発せられた。


《――ッ、助けられちまったな、ライデン1-2ッ》


 そんな通信報告の終了を聞き届けた後に。通信にて隼に届いたのは、屠龍からのそんな言葉。

 今の危機を救われた事への、礼の意を込めたものであろうそれ。

 屠龍のその声色と、そして何より隼より直接見える。そっぽを向きつつも少し伺い見える表情は。

 バツが悪そう、というよりも少し気恥しそうなものに見えた。


 少し訝しんでいたFTGS装備の、性転換少女のその力に。

 今回で自他共に助けられ、その重要性を身をもって実感しつつも。しかし複雑な思いがまだあるのだろう。


「いえ、爆撃型の阻止を成したのはそちらです。自分は偶然いいタイミングに割り込めたに過ぎない」


 しかしそれに対して隼が返したのは、ストイックなまでの謙遜と。屠龍等の側の功績を淡々と評す言葉。


「……ハッ。可愛らしい見た目の癖に、可愛げの無ェ食えないヤツだぜッ」

《中身は可愛げのない男ですから》


 そんな隼のムーブに。

 次には屠龍は皮肉を全開にした言葉を吐き。しかいそれに隼が返すはブレないストイックな色。


《――ハハッ、ある意味おもしれーなッ》


 しかし次には、突き抜けて毒気が抜かれたかのような様子で。

 屠龍はそのお嬢様フェイスに、しかしニヒルで少し悪そうな笑みを見せて。隼に向けてそんな言葉を寄越した。


《――ボスーぅッ!無事っスかぁ!?》


 そんなやり取りが一区切りした所で、狙ったかのように何か快活で少し騒がしい声が通信に割り込む。

 前方の斜め上空を見れば。向こうよりこちらに飛び向かってくる飛燕の機体、身姿に。それを追って続く鍾馗の身姿が見えた。


 二機――二人はこちらまで到着すると、一度すれ違い後方に去ってから、しかしすぐに大きく旋回回頭。

 そして追い付き、飛燕は自分のボスたる屠龍の横に、鍾馗は隼の横隣に。それぞれの相棒に並びつけて、編隊を組んだ。


《騒ぐな、俺は支障無いッ》


 そんな、オーバーに心配する色を見せて合流した飛燕に。屠龍は呆れの色を見せつつも宥める言葉を返す。


《1-2――制斗、君も無傷のようだな》

「えぇ、運よく一方的な奇襲を決められましたから」


 そして鍾馗からは隼の無傷を、ほぼ信じ確信する声での確認が寄越され。それに隼はまた、謙遜の旨を淡々と返す。


《隼ぁっ!マジナイスタイミングぅっ!ボスをやらしいフィアー連中から助けてくれて、あんがとなァっ!》


 そして次には飛燕から隼に向けての、ボスである屠龍の危機を救ってくれた事への礼が。

 テンションの高い声色と、飛燕のその身に翼を揺らすジェスチャーで寄越される。


「おおげさだな、自分等はちょこっと最後に参加しただけだ。まっさきに駆け付けての主目標の無力化から、首都を護って見せたのはそっちだろう」


 それに隼は、また飛燕のおおげさなそれに呆れつつ。

 そして端的な可愛げの無い色で。しかしその通り、爆撃機型フィアーの全機撃墜を完遂し、その脅威から首都を護って見せた飛燕等を、評する言葉を返す。


《!――ヘヘッ、そんなら俺等の、チームワークの見せたミッションコンプリートってコトだなっ!》


 その言葉から飛燕は。その幼馴染美少女フェイスにニシッと悪戯っぽい笑みを見せ、そんなまとめるような言葉を寄越す。


「ハッ、よくも恥ずかし気もなく」


 そんな面映ゆい台詞をしかし平然と言ってのけた飛燕を、少し意地悪に鼻で笑ってやる隼。


《ヒトの危機をダシにイチャついてんなッ――ったく。パーティーはお開きだ、帰るとしよう》


 そんな二人のやり取りに苦言を飛ばし。そして作戦完了をもって、この空域よりの離脱帰還を促す屠龍。


《そうだな――ライデン1-1よりホマレ。ライデン及びリュウセイは合流再編成、差支え無ければ帰還行程に入る》

《ホマレよりライデン、了解です。各ユニットには帰還許可が出ています――お疲れ様、気をつけて》


 屠龍のそれに鍾馗も同意。そしてSOCに向けて報告と確認のための通信を上げ。

 SOCのオペレーターより、それの許可と。合わせて隼等皆の活躍を労う言葉が寄越される。


《了――帰還しよう》

「了解」


 それを受けて返し、そして鍾馗は皆に帰還の旨を促す。

 隼もそれに返し。


 そして四機、四名は端より順に。優雅に流れるまでの旋回、進路変更機動で帰還のためのルートに身を乗せ。

 帰るべき、帰りを待つ皆がいる基地に向けての帰路に就いた――

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