ミッション12:「可憐な変貌は、当たり前に」

「あ」


 隼始め、各々が視線を移せば。今の休憩スペースより伸びる廊下の向こうより、歩んで来る二人分の人影が見えた。

 その片方は他ならぬクルェス。そしてもう一人は、先日に隼等と危機の場を共にした医官であった。なお医官は名を百司ひゃくしという二等空佐だ。


「チッ」

「トリュウ君。来るのが遅いと思っていたら、こんな所で足を重くしていたか」


 その内のクルェスの姿を見て、屠龍が隠しもせずに顔を顰めて声を零したのは直後。


「百司医官に、クルェスさん」

「やぁ皆、割り込んで悪いね。複斜一尉はこれからFTGS転換の最終チェックの予定でね、でも来るのが遅くて様子を見に来たんだ」


 二人の登場に、その名を呼ぶ鍾馗。

 内の百司は隼等のほうへ歩んできて、自分等が現れた理由を簡単に説明。


「未知のままでいるから不安に感じるんだ。慣れ、馴染んでしまえばその有用性が分かる」


 一方のクルェスはというと、無遠慮に屠龍に歩み詰め寄ると。

 次にはおもむろにその片手を取り、そしてもう片方の手を屠龍の胸元に沿える。


「あっ」


 それの示す所に隼は気づく。

 そうそれは、隼を変貌に導いた時と同じもの。


「あッ、おい!」


 それに屠龍が見せたのは、少し慌てる色での抗議の声。

 しかしそれも虚しく――次には、〝変貌〟は発現した。


 隼の時にも目撃した、幻想的な発光現象。それが屠龍の身で起こり――それが間もなく収まり現れたのは、変貌した屠龍の身体であった。


「――ッぅ」


 現れたのは、一人の金髪美少女だ。


 歳は17~18程。煌びやかな金髪のロングストレート髪の元に、釣り目の眼の主張する、大変に端麗で気の強そうな顔が映えている。

 女子としては平均を上回る身長の、スレンダーな身体には。しかし反した豊満な乳房に、肉付きの良い尻に太腿他が主張。


 見るからに「お嬢様」。さらに言うと少し「悪役令嬢」っぽいキャラクターを想像する容姿。


 そしてその格好は、飛燕と同じ。濃紺寄りの青の洋上迷彩カラーの、ぴっちりボディスーツ装備に包まれて彩られている。

 それは飛燕と、同部隊である彼女(彼)と同じ、F-3AベースのFTGS装備。


 屠龍が、すごみすら感じる男性体から変貌してみせたのは。そんな金髪お嬢様美少女姿であった。


「っぅ……」


 その屠龍は、次には変貌した自らのボディを。その端麗な顔を少し赤らめながら、腕で抱き隠す様子を見せる。


「あぁ」

「ほぅ」

「ひゅーっ、ボスのお嬢様姿。たまらんですなぁっ」


 その当人をよそに。隼等各々は、屠龍のその姿にそれぞれの感想を声や言葉にする。


「恥じることなど無い。乙女の柔らかかつ強い身体に、男児の闘志を宿し。刃を携えるに至った強き身体だ、堂々と誇らしく思うがいい」

「ッ、んなこと言ったってなぁ……!」


 そしてその屠龍を問答無用で変貌させて見せた当の本人たるクルェスは、そんな説く言葉を屠龍に紡いで見せるが。

 その少し不敵な色の見える顔は、屠龍のいじらしい反応を少なからず面白がっている事は見え見えであった。

 それに屠龍は、お嬢様姿に反した荒げた声色で、また抗議の声を返す。


「まぁまぁ、ボス。慣れないのは分かります――なので、まずはその身を柔らかくしましょうかっ♡」


 しかしそれに、今度は飛燕が説得の言葉を向けたかと思えば。

 次には飛燕は隼の身を離れ、そして屠龍の方へと歩みより。


「は?――おぁっ!?」


 次にはその屠龍の身を。素早く回り込んで謎の手際の良さで、抱き着き捕まえた。


「おい、飛燕!ふざけ――きゃぅっ!?♡」


 それに言葉を荒げての抵抗の色を見せかけた屠龍だが。直後にはそれを遮り、屠龍の口から甘い悲鳴が上がったではないか。

 見れば、屠龍の身を捕まえた飛燕の腕が。屠龍の乳房に尻腰をまた、ふにふにさわさわと揉んで撫でて、いじめ始めていたのだ。


「むっふっふ♡ボスぅ、カワイイ声で鳴くじゃないですかぁ♡」

「い、今の……俺の……?飛燕ッ、マジでやめ……――んゃぅっ!?♡」


 屠龍の反応に気を良くしたのか。その幼馴染美少女フェイスに、しかし下心丸出しの怪しい笑みを浮かべてスケベオヤジのような台詞を紡ぐ飛燕。

 一方の屠龍は今の自分の悲鳴に驚愕しつつも、身を捩りながらも飛燕に抗議抵抗の声を向けかけるが。それは身に走った甘美な刺激に、またも可愛らしい悲鳴に変わってしまう。


「ぐっふっふっ。このたまらんボディが、ボスのあのワイルドボディから変貌したモノだと思うと、余計に昂ってきますなぁ♡」

「ひぅ……っ♡や、やめぇ……ひゃぅぅ……っ♡」


 屠龍のボディスーツ越しの乳房に五指を沈め、尻や腰に腹筋に指先を添わせていじめながら。

 抱き着く屠龍の耳元で囁く飛燕。

 一方の屠龍は甘い刺激にその身を解され溶かされ始め。そのお嬢様フェイスをトロけ顔に変貌させつつ、弱々しくなり始めた声で甘い悲鳴を零し続けるしかなくなっている。


「ふふ、微笑ましい光景じゃないか」

「ほ、ほどほどにな……?」


 そんなおっぱじまった、飛燕と屠龍の破廉恥なスキンシップの光景に。

 しかし元凶たるクルェスは、何か後方理解者面なドヤ顔で。そんな他人事のような言葉を零し。

 百司は少し戸惑いつつ、嗜める言葉を送る。


「いや、驚いたな……」


 鍾馗は、元よりその気質在り方を知っていた屠龍の変貌っぷりに。また当人の気もそっちのけで驚きと関心の声を零しており。


「よーやる」


 隼にあっては。

 白けたジト目でそんな破廉恥な光景を、また他人事のように眺めていた。

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