ミッション11:「一悶着――と思いきや」

「――何を頭悪い悪ふざけしてんだ、飛燕ッ」


 そんな、隼と飛燕が爛れたスキンシップを繰り広げていた所へ。

 低く、そして何か少し尖る色での。咎めるそれの言葉が割り入ったのはその時だ。


「?」

「おっと」


 それに隼と飛燕はスキンシップの動きを止め、それぞれ声のした方を向く。

 階段前の踊り場、そこに人影――一人の男性隊員の姿があった。


 180cm近い高身長に、尖りすごみすら感じる、少しアウトローな雰囲気を感じる容姿。纏うは航空自衛隊のフライトスーツ、その襟には一等空尉の階級章。

 そこにあったのはパイロット幹部の姿で在った。

 そしてその顔色はあからさまに険しく、隼等の行いを非難するまでのそれだ。


「失礼ボスっ、同期と交友を深めていた所っすっ」


 しかしそんな色の一等空尉を、飛燕は「ボス」と呼んで悪びれない様子で返す。

 その一等空尉は、飛燕の上官。FTGS要員として飛燕が所属する事となった飛行隊の幹部パイロットで在り、名を複斜ふくしゃ 屠龍とりゅうと言った。


「何が交流だ――ったく。女になれるようになってから、どいつもこいつも浮かれやがって」


 その飛燕の悪びれない返答に、しかし屠龍はまた厳しい色で返す。

 屠龍は、FTGS技術の導入運用開始以来。女の身体となった事に少なからず浮かれ、おふざけに興じる隊員が出て来ている現状に、良い顔をしていない人物であった。


「まぁまぁ、あまり目くじらを立ててやるな屠龍」


 そんな屠龍へ、宥め説く言葉を飛ばしたのは鍾馗。


「アンタもだよ飛戦。尖ってた211飛のエースが、その姿になってから腑抜けちまったんじゃねぇのか?」

「はぁ……確かに少し感化されたのは事実だが、腑抜けたつもりはないさ」


 しかし、屠龍はその鍾馗にも圧を込めた言葉を飛ばした。それに鍾馗は少し困った様子で返す。



 実の所。先日にF-27A少女と化した隼に危機を救われてから、最初の内は。

 鍾馗にあってもその事実と、一変した状況には少し複雑な思いであった。


 それまで自分等は厳しい試練を潜り抜けて来て、その果てに日本の空を護る防人となり、命を懸けて戦って来たのだ。

 しかしフィアーには苦渋を舐めさせられ。極めつけには、正体は男性とはいえ身体は小娘である存在が、得体の知れない技術装備を纏って、そのフィアーを易々と屠ってしまった。

 そして、その得体の知れない技術――FTGS技術の本格導入が決まり。日本の空の守りはそれに任される事となった。

 正直、面白い訳がない。

 鍾馗も最初は、救われた身で言えた事では無いとは分かっていたが。そこに不服や複雑な思いを抱かずには居られなかった。


 ――もっとも、それは思わぬ形で塗り替えられたが。


 FTGSは個々人の純然たる適正も重要だが、同時に元となった装備類の特性に精通していることもまた求められた。

 その上で、元より自衛隊機を操って来たパイロット隊員等にもまた。FTGS要員化――女となって戦う指令が下されたのだ。


 つまり、自分等に代わって少女が戦う事になると考え、不服を抱いていた鍾馗等パイロットの元に舞い込んだのは。

 「何を言っている、君等も少女になって戦うんだよ」という指令命令 。


 その予想の斜め上を行く展開に、鍾馗始めパイロットは驚きを通り越して目を点にして。

 それからの怒涛の展開に、鍾馗等はそれまでの不服も複雑な心情もどこかに吹っ飛び。

 そしてあれよあれよという間に事態は動き変貌し。

 彼等元よりのパイロットもまた。美少女となって新たな力を得ての空を掛け戦う日常を、気付けば迎えていたのであった。



「屠龍、お前の気持ちも分かるが」


 さらに一言を屠龍に向ける鍾馗。

 その向けられた言葉は、自身の体験したそんな経緯と身の上から。

 一方では美少女となった隊員側と。一方ではそれを訝しむ目で見る、それまで戦いを担って来た側の。

 両方の感情に理解を示しての、仲裁から宥める言葉であった。


「それを腑抜けたって言うんじゃねぇのかよッ、たくッ」


 しかしそれを受けてなお、屠龍は吐き捨てるようにそんな言葉を向ける。


「皆が、受け入れられはしないか」


 そんな屠龍の様子を見て。しかし隼は「まぁ面白くはないだろうな」と状況事情に同意する所はあり、そんな言葉を零す。


「ハハっ。いやいやなんかストイックにしてるけど、ボスのはそういうんじゃないってっ」


 しかしだ。そんな空気が張り詰めかけた所で、しかし飛燕が次に発したのは、何か揶揄う色でのそんな言葉。


「ボスは、自分が女の子になっちゃうのが単に恥ずかしいんだよ」


 そして飛燕は続け、あっさりとそんな暴露をしてしまった。


「ッぅ……!」

「え?」

「あぁ」


 その暴露の言葉に。

 屠龍はまさにそれが正解とばらしてしまうそれで、苦い色を顔に浮かべ。

 鍾馗は少し驚き、隼は納得の声を上げた。


「せっかくボスもハイレベルな可愛い子ちゃんに変身できるようになったんだから、受け入れて楽しまないと損っスよぉ?」

「おい」


 飛燕はさらに言葉を続け。

 その例とでも示すように。今に抱き着き捕まえる隼のボディを、その乳腰を支えて飾り、見せつけるように主張する。

 そこに一応の隼当人の抗議の声が入る。


「なんだ屠龍?お前もFTGS指定要員になっていたのか?」


 一方。そこまでの屠龍の様子の所へ、しかし反して飛び込んだ思わぬ情報に。鍾馗は意外そうな顔を作り答える。


「先日指示命令が降りた、それを断ることはできねぇからな……チッ、なんで俺まで小娘に、気色悪ぃ……ッ」


 判明したその事実を、屠龍は苦い声で経緯と合わせて肯定。そして次には不機嫌そうな顔をあからさまに浮かべて、悪態を吐く。

 どうやら屠龍も他の例外に漏れず、FTGS要員となる事がすでに決定していたようであり。

 彼の苦い色は、どうやら少女が自分等に成り代わって戦う事に、気に入らなさを感じているそれと言うよりも。自分もそれの仲間入りを命じられた事に、複雑さを感じてるそれであるようだ。


「――そう腐るな。そこまで嫌悪するものでは無いぞ?」


 そんな事実が明かされた所へ傍より。透る声で、何か芝居じみた声が割り込まれたのは直後であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る