ミッション13:「スクランブル」

 ――そんな、変わった日常が流れるようになった世界世間。


 そのある日。


「――……ふぅ」

「……」


 場所は、浜松基地のアラートハンガー。そこに隣接して設けられる要員用の待機室。

 その内で、ソファや椅子などそれぞれの場所に身を置き。何か倦怠な色で過ごしている隼と鍾馗の姿が在った。

 姿と格好にあっては、今もそれぞれの性転換したもの。格好にあってはやはりグレーのボディスーツ装備姿。


 一見ボーっとしているように見える二人だが、何も今に在ってはサボりや怠けている訳ではない。

 アラートハンガーという今の場所が示す通り。二人は今にあってはアラート要員として待機し、備えている状態であるのだ。


(……もどかしいな)


 しかし、待機要員として備えておかなければならず。場を下手に離れる事はもちろん、半端に何かに興じる事も都合がよろしくなく。

 文字道理待っていなければならない状況に。少しの倦怠感と退屈さを感じていたのも、また正直なところであった。

 しかし、まるでそれに悪戯で答えるかのように――直後にそれは来た。


 警報――アラート音。

 アラートハンガー施設全体に直後に鳴り響いたのは、そのけたたましい音声。

 すなわち、スクランブル出動を命じるもの。


「ッッ!」

「回せェーーッ!!」


 直後瞬間、隼と鍾馗の二人は。

 それまでの倦怠と退屈を一瞬で吹き飛ばすように呼応。

 張り上げながら。座っていたソファに椅子を蹴っ飛ばすまでの勢いで立ち上がり、猛ダッシュのそれで駆け出していた。


 出入り口の扉を、一歩間違えば激突するのではないかという速さで潜り抜け。

 広く取られたアラートハンガー空間に踏み出る隼と鍾馗。

 同時にアラートハンガーの各所で同じく待機していた、整備員やアラート補佐要員の各員が、同じくダッシュのそれで駆け集ってくる。


 それぞれが目指すは、アラートハンガーの中央に主として鎮座駐機する、二機のF-27JA機。


《――フィアー出現情報。位置、太平洋、三重県志摩半島近海及び伊勢湾付近。アラート機は離陸後、西南西へ進路を取れ》


 アラートハンガーに響くは、フィアー出現の報。その位置関係に指示を最低限知らせる放送音声。


 それを聞きながら隼と鍾馗は、各員の内でも真っ先にそれぞれのF-27JA機の元に辿り着き。そのコックピットの側面胴体にぶつかる勢いで手を着く。

 元の戦闘機の運用の形ならば、これよりタラップを駆けあがってコックピットに収まる所だが。

 FTGS要員の二人にあっては、ここは少し異なる。


 二人がそれぞれの〝愛機〟に手を着いた瞬間――件の現象が発現を見せた。


 それぞれのF-27JAは、その巨体を青白い幻想的は発光を発現して包み。そのシルエットはみるみる驚くべき変貌を見せる。

 発光に包まれながら、まるで解けてばらけるように形を変え。隼と鍾馗のそれぞれの元へ収束するF-27JA。

 そして収束が完了して発光が収まった頃には、それぞれの機は人体にサイズを合わせたギア・デバイスの形態へと形を変え。

 隼、鍾馗の両名への着装を完了していた。


「――同調良好ッ!」

「各部ヨシッ!」


 周囲に配置した整備員等の要員から、伝える声が届く。

 一部の隊員は何らかのタブレット機器を手にし、それに目を落としながら張り上げる。それはFTGSの同調、着装のシンクロ率を数値化する装置をもって。それの異常が無いかを伝えるもの。

 また、同時にギア・デバイスを直接目視し確認した隊員からも、異常が無い旨が張り上げられる。

 出撃前の、コンマ数秒を惜しむ様相で完了されたチェック手順。

 FTGS運用によって形態こそ変わったが、整備員等からの密な補佐は未だに不可欠だ。


 それらの完了を聞くや否や。

 隼や鍾馗も、目の前に宙空投影されたHUDでステータスを確認しながらも。

 その脚は、身体はすでに動き始めていた。


 踵に装備されたランディングギアを用い、スケートの要領で開け放たれたハンガー扉を順に潜り抜ける二人。

 その際、出撃を見届ける誘導員の敬礼を受け。それぞれも敬礼を返す。


 タキシングで前方のエプロン空間へと順に出る二人。しかしここからの手順はまた、今までの戦闘機によるものとは異なる。

 ほぼ零距離の短距離離陸を可能とするようになった戦闘機型のFTGSに、滑走は必要ない。


 アラートハンガーを起点に伸び、元あった滑走路を斜めに交差するように。

 戦闘機型FTGSが緊急発進する際の導となるラインが、新たに応急的に敷かれている。


 エプロン上でそれを目視し、それぞれの身体を乗せる二人。

 瞬間。備えるエンジンモジュールがバーナーを吹かす。

 そして直後。

 鍾馗は、続いて隼も。

 踵のギアを浮かせ、つま先で地面をおもいっきり蹴り。

 まるで射出の勢いで、直後には宙空へと飛び出し飛び立った。


 斜め隊形のツインで飛び立った二人。

 その二人の身は一気に速度に乗り、飛行場の真上を斜めに横切りながら、高度を上げ――離陸していく。


 そして基地の敷地上空より飛び出て離れた所で。

 鍾馗は、続いて隼も。指定された方位へ向けて鋭い旋回軌道を描き。


 指示された――討つべくフィアーの出現した場所へと、飛び向かって行った――




 視点、場所は移る。

 そこは埼玉県の狭山市、入間市に跨り存在する入間基地。

 その内に設けられた、航空方面隊等戦闘指揮所――SOC。

 中部航空警戒管制団によって運用され、中部航空方面隊管区の警戒管制を担う、その中枢。


 無数の機器、コンソールが並び設けられ。何名もの要員の航空自衛官が詰めるSOCは、緊迫の色が張り詰めている。

 現在は、たった今飛び込んだフィアー出現の報から緊急態勢に入り。

 また同時に、フィアー要撃のためにこれより飛び立つ航空戦闘FTGS隊の。その地上要撃管制のための態勢に入っていた。


《――照合、予測データ出ました。中型フィアー――識別呼称ナイトメア。戦闘機型の波長が三機》

《出現予測地点は紀伊半島沖、南200km地点。現在は方位針路070、増速しつつ北東方向へ進行中》


 各要員から上がる情報を伝える声が、SOC空間に響き伝わる。


「中型か」

「威力偵察でしょうか?」


 そのSOC内の前席中央。

 この場の指揮官である空佐と、補佐である女空尉が推察の言葉を交わしている。

 フィアーは地球側のセオリーに類似した、作戦行動と思しき動向を見せることもあるが。それは必ずでは無く不可解な部分も未だに多い。

 これまでのデータから推測推察を立てることは作戦上必須だが、それを決して過信してはならなかった。


《要撃機、上がりましたッ》


 そのタイミングで、鈍く控えめな警報音のような音が響き。

 SOC要員より、その意味を明かし知らせる声が割り込む。


《浜松211よりライデン1-1及び1-2、小松306よりレップウ4-1及び4-2。会敵予想時刻、ライデンネクスト12(11:12)、レップウネクスト17(11:17)》


 それは、各基地より要撃機が上がった事を知らせるものだ――




「――ッー」


 上空高高度を、飛行姿勢を保ってジェットエンジンモジュールを唸らせ。

 二機編隊を組み飛行している隼と鍾馗。


 浜松基地を飛び立ち。現在は間もなく、静岡県と愛知県の県境近くの沖合に差し掛かろうとしていた。


《ホマレ、こちらはライデン1-1。現在は高度27000を維持中》


 通信に、前方を飛ぶライデン1-1――鍾馗の声が入り聞こえる。

 それは地上要撃管制を行う、入間のSOCに向けてこちらの現在高度を知らせるもの。


《ライデンユニットよりホマレ。了解、高度をそのまま方位240へ》

《了解》


 SOCよりの指示。

 それを受け、鍾馗が返した直後。

 当然と言うように鍾馗は前方で旋回から進路変更の動きを見せ。

 そして隼もまた当然と言うように、すかさずそれに続き身を傾け旋回する。




 状況は刻一刻と動く。


《動向補足、ナイトメア進路変更。ライデン会敵予測時刻修正、ネクスト14(11:14)ッ》


 レーダーサイトからの観測情報により、要撃隊とフィアーの会敵予測時刻が更新される。

 SOCの大型ディスプレイには日本とその周辺の情報が図で表示され。浜松からのライデンユニットに、小松からのレップウユニットの、現在地にリアルタイムの動向が。

 そして要撃対象である、フィアーの動向予測が表示されている。


 SOCの各員は、それを緊迫の様相で見つめている。




《ライデン、目標正面。距離、40まで接近。状況どうか?》


 隼等の元に、SOCより向こうの観測情報を伝え。そしてこちらの状況を訪ねる通信が届く。

 隼や鍾馗も、目を見開きながら周囲を索敵している。しかし本日は空にいささか雲がある。それが索敵をいささか阻んでいた。

 さらに厄介なことに、フィアーにはステルス性を有する個体も少なくない。


《ライデンよりホマレ。未だコンタクトは――!待てッ、レーダーコンタクトッ!》


 SOCの問いかけに返そうとした鍾馗。

 しかし。鍾馗の目の前に投影されるHUDのレーダー表示が、敵性の機影を捉え表示したのは直後。


「左、上方ッ!雲の向こうッ!」


 そして、隼が通信に張り上げた同時瞬間であった。



――――――――――



はい、パトレイバー2の「幻の爆撃」の丸 パ ク リ です。

やりたかったんだ。

本当に申し訳ない。

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