第2章:「変化した世界、彼女(彼)等の日常」

ミッション7:「その経緯」

 ――あれからの。

 先日の事件、フィアーの襲撃を乗り越えてからの事を。順に説明する。



 まずはその一番の元凶となった、謎の金髪の子について。

 後に本人から説明され、聞き出せた所によるとその子は。この地球、宇宙世界とは別に存在する異世界からやって来たと言うのだ。

 普通であれば、真に受ける事などできずに正気を疑う所だろう。


 だが今現在の地球世界は。すでに異次元の存在たるフィアーの存在を確認し、その襲撃を受けている真っただ中。

 その上に、その子が起こして見せた。隼の身に起こった驚異の現象も合わせて考えれば、とりあえずは信じるしか無かった。


 その異世界から来た金髪の子――本人は自分をクルェスと名乗ったその子。

 合わせて明かされたのは、その容姿からお嬢様な美少女かと最初は皆思っていたが。実はれっきとした男子あり、美少年であることが判明したクルェスは。

 自身がこの地球世界にやって来た理由を語った。


 曰く、彼の住まう世界もまた異次元生物であるフィアーの襲撃を受け。そして文明は滅ぼされ、ほぼ完全にその侵略下に置かれてしまう悲劇を迎えたのだと言う。


 その中で、ごくわずかに生き残り潜み。最後まで希望を失わずに、抗う術の開発を試みていたのがクルェスの研究コミュニティ。

 そしてクルェスもまた、若いながらもその研究者の一人なのだという。


 その研究の最中、クルェスたちはフィアーがまた別の異世界へ「コネクター」を開き、大規模侵攻を開始したことを察知。

 しかし、その研究コミュニティがついにフィアーに発見され、襲撃を受けたのは悲劇にも同時。


 その最中で最年少であったクルェスは。ついに完成にこじつけたばかりの、フィアーに抗う「力」、「技術」を託され。

 

 一縷の望みを掛けて。フィアーが新たに侵攻を開始した異世界にその「力」と「技術」を伝え。そして望めるならば、その世界がフィアーへ反抗の拠点となり、自分らの世界に救いをもたらす事を期待して。

 クルェスは仲間の手により、備えておいた小型機に乗せられ。異世界へと逃がされたのだと言う。


 そしてそう。その逃がれて来たクルェスにとって、辿り着いたその異世界こそ。

 この地球、日本の、浜松の地の浜松基地であったのだ。



 説明は次の順序に移る。



 そのクルェスが託され持ち込んだ、フィアーに対抗しうる「力」と「技術」。

 それこそが、クルェスの手によって発現され。隼の身体に驚くべき変貌を起こした事態現象。

 男性の身体を女性、少女のものへと変え。そして戦闘装備・兵器類と融合して力を得る御業。

 クルェスが伝えた呼称は――〝身体転換着装技術〟。


 しかし、地球日本のサブカルチャー文化のそれを借りて表現すれば――TSメカ少女化。


 ――であった。


 事態の後に、地球日本でのその初の事例となった隼は。当のクルェスよりその説明を受け、そしてしかし大変に顔を顰める事となった。


 百歩譲って戦闘装備との融合はまだ分かる。

 しかし、なぜ性転換を伴う必要が――少女の身になる必要があるのかと。


 しかしクルェスからまた聞くには、そここそが重要なのだと言う。

 性転換技術そのものにあっては、元より向こうの世界で研究が本格化していたそうなのだが。クルェスたちの研究が発見したのは、男性が女性へと変貌した際に、ある種のとてつもないパワー・エネルギーを発生させる事実現象であった。


 柔らかながらも、芯に強さを備える女体に。男児の確たる闘志を持つ心が宿った時。

 その精神、意志は融合から比類なきパワー・エネルギーを発言させるのだという。


「麗らかながらも強い少女の身と、鋼鉄の男児の心が協奏した、奇跡の力さ――」


 クルェスは説明の途中で、芝居がかった様子でそんな表現を口にして見せた。


 その力の正体に在っては、クルェスたちも未だに未知数な部分が大半だと言うが。

 ともかくこれは、希望となる力とクルェスたちは確信。

 そして自分らがフィアーへの対抗策として研究開発中であった、戦闘装備の融合着装により人体を強化する技術に、この性転換特性を組み込み。


 企みは開花。性転換者の生み出す未知の力は、融合戦闘装備の火力威力を始めとする性能を、驚くべきまでに引き上げた。

 こうして、身体転換着装技術は完成に至ったのだと言う。


 そしてその技術と共にこの地球日本に逃れ辿り着いたクルェスは。

 フィアーの襲撃化にある内で、自分を危険を顧みずに救いに来た隼を。力を与えるに値する者と見抜き。

 同じくその場にあったF-27JAを融合装備として。

 隼を身体転換着装技術をもって、力を携える少女の姿へと変貌させたのである。


 なお、逆になぜ女性から男性への転換では無いのかとも隼は問うたが。

 また聞くに、その逆の形でも強力な力を生み出す事は可能。むしろ、男性の強靭な身に女性の強き心が宿った時、その力はより一層強力な発現を見せると言うのだが。

 この逆の形態にあってはその分、パワー・エネルギーが非常に不安定となり暴走の危険すら孕み。最悪転換者の身を自壊させかねないリスクが多分に確認されたらしいのだ。

 ハイリターン、ハイリスク。


 対して、男性が女性に転換した場合には。バランス良く強力な力を宿し、実用化に最適であったと言うのだ。


「男子はその実は厳かに、女子はその実は猛々しく。それぞれの性別の一種の在り方を、反映しているのかもしれないねっ」


 その締めくくりに、シュクエは旨い事言ったようなドヤ顔でそんな事を宣ってみせたが。

 その自慢気な色に、隼が少しムカっと来てシラけた眼を向けたのは零れ話。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る