ミッション6:「男児、武の少女となり舞え」

「――ッぅ……ッ!ゥォ……ッ!」


 上空をバーナーを限界まで吹かし、鋭い戦闘機動飛行を絶える事無く続けるF-35Aの姿がある。

 そのコックピットで。

 パイロットたる三等空佐は、しかし非常に苦しく、限界が近い呼吸を見せながら。懸命に気を操っていた。


 しかしそんな三佐を嘲るように。F-35Aを執拗に追撃するは複数のフィアー個体。

 そして散発的に、そのフィアー個体たちは熱光線――ビーム投射を狙い放って来る。

 三佐の巧みかつ懸命の操縦技術で、ここまで致命的な被弾こそ回避していたが。しかしレーザーは何度も機を掠め、傷つけ。

 先程からコックピット内では、警報が鳴り響き続けている。


 そして何より、機はここまで追われ回避に専念する一方で。反撃の機会を微塵も見いだせていなかった。

 このままでは、遅かれ早かれ撃ち落されるのは必然。


「ッぅ……ふざけんなよォ……ッ!」


 その現状に、三佐は剣幕を作り。唸り呻きに近い声を零した。


 爆音が――背後で響いたのは直後。


「!」


 突然のそれに驚愕し、背後をキャノピー越しに振り向き見る三佐。

 そこに見えたのは、驚くべき光景。

 自機を追撃していたフィアー個体。その一体が爆炎につつまれ、中空でその身を爆散させる姿だ。


 驚愕に目を剥いた三佐の目に、しかし驚くべき光景は続く。

 次には、さらに別の追撃のフィアー個体が爆発に包まれ四散。

 さらに三体目が。今度は中空で連続的に撃たれるように身を爆ぜ、千切り四散する。


 そして三佐は、その予兆を。別方より飛来した空対空ミサイルの軌跡に、機関砲の投射火線を確かに見た。


「――ッ!?」


 そしてさらに直後。

 F-35Aの前方を、背後から斜めに追い抜くように。一機の何らかの飛行隊が飛び抜ける。


「――はッ?」


 その時に、三佐は己が目と正気を疑う事となった。

 視界の向こうを尖る、優美なまでの軌道で飛び抜けていったのは。

 翼を身に携える少女の身であった――




「――撃墜ッ」


 その身体を、手足を。流れる空気に沿わせるように、また流し形作る姿勢を取りながら。

 隼は自らの身で、上空を飛び掛けていた。


 隼が身に纏う、F-27JAのそれである装備機器類は。現在はガトリング砲に、ミサイルを下げたハードポイントを繰り出し展開させ、火力投射のモードを取っている。

 そして隼の顔、眼前には。戦闘機などに用いられるHUDに数値類が、全て宙に電子的に投影され。

 彼女(彼)に情報と、戦闘のサポートを提供。


 それをもって、隼は空中戦に身を投じ。

 今しがたに、味方機のF-35Aを追撃していた複数のフィアー個体を。火力投射によって悉く撃墜して見せたのだ。


 F-35Aの窮地を救った隼は、一度振り向き。

 驚愕に目を剥いていたF-35Aのパイロットに、その気持ちは察しつつも。しかし今はともかく安全圏へ退避してもらうようハンドサインで促し。


 そして次には視線を流し、周囲の状況を再掌握。

 また別の、今度は地上へその攻撃を向けるフィアーの一群を見止め。それを次にターゲットと定めて、鋭い旋回軌道を描き、バーナーを吹かして接近強襲。

 一群の背後上空を取り、フィアーの背に機関砲火の雨を浴びせ、撃墜に至らしめる。


「――次ッ!」


 無我夢中で。

 与えられ携えるに至った戦う力を、今は考えるよりも先に、救うべくを救うために振るうべきと。

 上空大空を飛び掛け、機動し。

 憎きフィアーを手当たり次第に墜とし続けた隼。


 突如の脅威たる敵性存在の登場と、その被害からか。浜松基地と浜松の街を襲ったフィアーの軍勢が、撤退と思しき動きを見せ始め。


 浜松の空に静けさが戻ったのは。それから間もなくの事であった――




「――ハッ」


 哨戒飛行の岐路の最中。

 隼はそんな、先日に自身と。そして日本、世界に舞い込んだ衝撃の邂逅と起こりを思い返しつつ。

 今思い返して尚、現実感が希薄に感じられてしかたの無いそれ等に。小さな、皮肉交じりの溜息を零した。


《どうした、制斗〝臨尉〟?》


 そんな隼の元へ、今の戦闘機着装装備に備わる通信機から。その様子に気づいたのだろう、また前方を飛ぶポニーテール美少女より。


 明かせば――その人こそ先日に隼が窮地を救った、F-35Aパイロットの三佐。

 名を、飛戦ひせん 鍾馗しょうき 三等空佐という。美少女へと性転換変貌したその人自身――よりの。

 気遣い案ずる言葉が寄越される。


「いえ――先日の事を思い返して、少し気疲れが」


 それを受け。隼は正直な所を、状況に対しての少しの皮肉も混ぜた、少し倦怠感のある声色で答える。


《ははっ。多くは皆、同じ気持ちだろうな》


 それに、少し揶揄う色を混ぜつつも。同意の言葉を返してくる鍾馗。


《一仕事も終えた後だ。帰り着いたら、少しホッと一息着いて、諸々の疲れを癒やそうじゃないか》


 そして続けてそんな促す言葉を寄越し。前を行く鍾馗は、進行方向の眼下を視線で促す動きと見せる。

 その眼下地上に、二人の帰る場所。

 浜松の地に寝そべるように土地を有する浜松基地の、その滑走路が二人を迎え待つような様相で見えた。

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