ミッション5:「携えた力」

 隼始め、振り向いた皆の視線の向こう――退避用バンカーの扉の外に、「それ」は居た。


 ――フィアー。


 異次元より湧き出て、人類社会を襲う人類の仇敵。

 まるで怪異神話の如き恐ろしい姿の、その巨体が。確認されている内では中型に部類される個体だが、そんな事は細事である脅威を宿すそれが。

 退避用ハンガーの大扉を破壊し抉じ開け。こちらを眼であろう部位で、身の毛のよだつ眼光で覗き込んでいた。


「フィアーッ!!」

「まずッ……みんな下がるんだッ!!」


 飛燕がまずフィアー名を、その出現を警告する意を込めて発し。同時に医官が皆に退避の声を張り上げる。


「ッ!」


 隼もフィアーの出現を見て、その美少女顔を険しく歪める。

 今この場に、フィアーに対抗する術は、武力は無い――窮地。

 隼も、誰もがそう脳裏に走らせ浮かべ、そして一種の覚悟を抱こうとした。


「抗う意思を向けたまえッ!」


 しかし隼の背後で、金髪の子が張り上げ、促す言葉を紡いだのは直後。


「えッ?」

「あるのだろうッ、戦い抗う意思が!それを向けたまえッ!」


 不可解な色を最初返した隼に、しかし金髪の子は訴え掛けるようにまた発する。


「――ッ!」


 それを受け、直後には隼は。

 再び向こうのフィアーの巨体を、今度は確たる抗いの意思を眼に宿して、視線で刺し射貫き。

 同時に直感の赴くままに、片手を突き出し翳してフィアーに向ける。


 直後、隼の背中の後ろ腰付近より。その意志に呼応して連動するように、そこに付随装着されていたポッド機器が展開、繰り出され突き出された。

 それこそ、F-27JAの主武装の一つ。25mmガトリング砲 GAU-22/Aを収める機関砲ポッド。


 そして瞬間。

 主である隼の抵抗、戦いの意思を受け取ったかのように――砲は凄まじい唸り声を上げた。


 ――決着は、一瞬で着いた。


 そのガトリング砲の砲火を直近で叩き込まれた中型のフィアー個体は。機関砲弾のその残酷なまでの破撃の雨に、その身に大穴を無数に開け。

 千切れ飛び、四散。

 一瞬の後には、フィアー個体は肉片へと四散させ。地面へと沈み動く事は無くなった。


「――ッゥー……!」


 咆哮の唸り劈く音を真横の身元で聞き。しかしそれ以上に驚くべき、視線向こうの怨敵が消し飛び沈んだ光景に。

 それを成した当人たる隼は、口を鳴らしながらも驚愕に目を剥いた。


「フィアーを……こんなに容易に……!?」


 そして、自身でまた驚く声を零す隼。

 25mmガトリング砲 GAU-22/Aは、確かに反則技なまでの凄まじい威力を誇る。

 しかし実は。フィアーはほぼすべての個体形態において、機関砲はもちろん人類側の多くの火器の威力を、絶え凌ぐ堅牢さを持つことが確認されている。

 それが、人類がフィアーに苦戦し旗色を悪くしている大きな理由の一つであった。


 しかし今に在っては、中型であり強固な肉体を持つはずのフィアー個体を。しかし隼の意思で撃ち込まれた機関砲の投射は、見事に容易く屠って見せた。

 隼の今の驚きは、それ等の認識からのものであった。


「機と装備は、今や君と一心同体、君の抗う意思を力として反映する。すでにただの無機質な機械では無く、君の携える‶刃〟だッ」


 その戸惑う隼に、金髪の子は少し芝居がかった色さえ見せて。そんな説明と合わせての訴える言葉をまた寄越す。


「刃――君は、一体ッ」


 その言葉を繰り返して零しつつ。

 しかし自身の身に起きた驚愕の変貌を始め、不可解、摩訶不思議の最たる現象に現状の数々に。

 隼はまた、金髪の子へ振り向き言葉を向ける。


「ッ!」


 だが、問答の時間は無いとでも言うように。

 退避用バンカーの外部の間近より、劈く轟音が飛び抜け聞こえたのはその直後であった。



 劈く轟音に、異変を察し。

 戦闘機装備美少女の姿となった隼を始め、退避用バンカーに集まっていた飛燕や医官などの数名が、危険を承知で退避用ハンガーから外へと駆け出てくる。


「――ッ!」

「味方がッ!」


 短い間で、上空を見上げて視線を流し。各々はすぐに状況を把握する。


 上空ではわずかに上がった味方機、浜松機基地に出張展開していたF-35Aが。基地に、浜松の街の上空を飛び交う何体ものフィアー個体と、決死懸命の空中戦を展開している。


 しかしその旗色が自衛隊側に悪い事は見るにも明らか。

 今にも、先に退避用ハンガー上を飛び抜けたF-35Aが、複数体の空中制空戦を担うフィアー個体に追撃を受けていた。


「まずいぜ……ッ!上がった味方が追い詰められてるッ!」


 それを上空に見て、式機が苦い声を上げる。


「――君!」


 それを同じく見ていた隼も、一旦は苦い色を見せたが。

 次には視線を降ろして振り向き、当たり前と言うように一緒に出て来て、背後に立っていた金髪の子に声を向ける。


「あの連中にも、自分の力は通用するんだなッ?」

「君の揺るがぬ、抗い戦う意思が在るならばね」


 そして確認するように紡いだ、隼の冷静だが確たる色の言葉に。金髪の子は飄々と物語を語る様なそれで回答。


「――」


 それを受け、隼はしかしそれ以上の言葉は返さず。確固たる意志を宿した眼で、上空向こうを見上げる。


「制斗……マジでやるのかッ?」


 その隼の意思を様相から感じ取り、確信し。飛燕は微かに目を剥き、緊迫した色で一応の尋ねる言葉を向けて来る。


「今の状況に、今の自分のこの姿と力――それ以外に無いだろうッ」


 それに、当然と言うように端的に発し返す隼。


「――行ってくるッ」


 そして、一言告げると。

 直後には隼は、エプロン区画の地面を蹴るように。スタートダッシュを切る様に飛び出す。

 瞬間、隼のその意志に呼応するように。

 隼の美少女体の、後ろ腰部分に備わる双発のジェットエンジンユニットが、バーナーを吹かし。

 短い助走――滑走を得た後に。

 隼はその身で、上空大空へと飛び立った――

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