ミッション8:「変貌した日常」
さて、ここまでが。
先日にフィアーの襲撃下でしかし舞い込み起こった、驚くべき一連の出来事の正体と実際。
そして、そこからがまた怒涛でしっちゃかめっちゃかであった。
事態の後。
政府、及び自衛隊の手によって。驚愕の現象の初の事例者となった隼と、元凶たるクルェスは最重要人物として保護回収の名目でしばらく軟禁され。
隼はいくつもの身体検査を受けるハメとなり。
クルェスはさまざまな質問聴取を受ける事となった。
そしてその調査、聴取からの判明の果てに。
政府に自衛隊は、クルェスの持ち込みもたらしたそのオカルトに片脚を突っ込んだ代物を。
しかし捨て退けることはできず。どころか、現在の地球世界の絶望的にも近い状況から、是が非でも手にしなければならないものと把握。
関係したお上他の各所各人は、誰もが大変に苦く、そして困った顔を隠しもしなかったが。
ともかくクルェスと彼の持ち込んだ身体転換着装技術は、地球日本に迎え入れられ。その実用化、実戦配備に向けての計画・手配が、急ピッチで進められる事となったのだ。
そしてそれは、当然の流れと言うように。隼も引き続き関係当事者となる事が決定していた――
《――ゲームマスターよりライデン1-1、ライデン1-2。順のスポットへのアプローチを許可する》
通信機より、浜松基地管制塔の誘導指示の音声が届く。
身体転換着装技術――捩った意訳により、Figure Trance Gear System。
その略称でFTGS(フットガスとも)と名称されたそれ。
それによって姿形態を変じた元の戦闘装備・兵器は。その特性を大きく変じて性能に利便性を格段に上げる。
本来は長大な滑走路を必要とするCTOL機であるF-27JAだが。
今にF-27JA装備、及びそれを着装する隼に鍾馗は。ほぼ垂直に近い緩やかな降下、STOVLによる飛行進入で、着陸のためのアプローチを行っている。
目指すは、長大な滑走路の脇に新たに設置された。航空機型のFTGS装備隊員が離着陸するための、ヘリポートに類似した発着スポット。
先んじてバディの長たる鍾馗が、それを下方に見ながら背後後方より隼が続いて。それぞれの指定されたスポットを目指し。
間もなく、隼がVTOL機の着陸する要領で、1番スポットに足を着いて降り。
その後方に隣接する2番スポットに、隼が続いて優雅なまでの動作で降り立って足を着けた。
「――ふぅッ」
一応、元サイズの機体が収まる程度の、人間一人を迎えるにはいささか広すぎる発着スポットに降り立ち。
無事に帰り着いた事に、隼は緊張感を解いて小さく息を吐く。
以前までは、一介の地上勤務の司令部要員の空士でしか無かった自分に。この異様な姿形で空を飛び、そして防空任務に当たる日々は、まだ慣れたものでは無かった。
――あの日の一件より。
隼は、もたらされた新たな技術装備の初の適応事例者として。そしてフィアー襲撃の内でその有用性を身をもって示し、成果を上げた経緯から。
当たり前のように、ほとんど拒否権など無い形で。
再編成され、新体制となった戦闘機型FTGSを運用する飛行隊に、要員として組み込まれ。そして鍾馗の指揮下に入りバディを組む事となったのだ。
そして実質パイロットの立ち位置となる事から。〝臨尉〟、臨時尉官幹部。
FTGS要員勤務に指定された隊員の内、幹部としておかなければならない者に応急的に任命するための。新たに設けられた階級を与えられていた。
ちなみに臨尉は准尉と三尉の間に位置し。隊員の内では一種の戦時任官と見られていた。
《お帰り。綺麗な帰還だ、ライデンユニット。ハンガーに向かい、調整確認を受けてくれ》
《ただいま、ゲームマスター。了解だ、移動する》
そこへ再び通信に、管制塔よりの帰還を迎え入れ。そして帰還後の行動を促す言葉が寄越される。
それには向こうのスポットに立つ鍾馗が返して声を上げる。
「……」
交信を長たる鍾馗に任せつつ、隼は一度何気なしに滑走路区画の向こうを見る。
その向こうでは、隼等の着陸に備えて待機していた、基地業務群の消防小隊の破壊機救難消防車が。
そしてそれと一緒に、真っ赤な装甲プレートをいくつも展開させて、他装備類を伴う。まるで鎧武者を思わせる、しかしその身そのものは競泳水着のようなインナーの重装備メカ娘。
――破壊機救難消防車を元とする、FTGS装備の消防小隊空曹。その身は今は十代後半のスポーツ美少女だが、中身は三十代半ばの男性隊員であり。
先日にはフィアーとの戦闘から生きて帰り、しかし不時着して燃え盛る空自機から。単身飛び込み、パイロットを救い出して見せて実用性を証明したそれが。
それぞれ待機スポットを離れ。
破壊機救難消防車が戻り、消防車TSメカ娘空曹が脚に備えるタイヤで、ローラースケートで滑るようにそれに続いて戻る様子が見えた。
異様な。マニアックなアニメ漫画、サブカルチャー世界の光景のようなそれ。
しかしそれが、少し前より変わり当たり前となり始めた、現実、日常の光景であった。
「……」
そんな笑うべきか嘆くべきかも判別に困る光景に。また今はあどけない美少女のその顔を、しかし三十路のおっさん感漂う微かに苦い色に顰めていた隼。
《制斗、どうした?行くぞ?》
「ッ。あぁ、了解」
しかし、そこへまた通信で呼び掛けられ。向こうにすでにスポットから歩み離れ始めていた鍾馗を見て。
隼も気を取り直し、返事を返してエプロンの向こうのハンガー施設へと向かった。
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