EP7.人魚ちゃんの名前考えてたら、溺れた!川って怖いね。(3)
アカシャの瞼が不快そうにぎゅっと閉じられたかと思うと、突然アカシャは咳き込み、水を吐き始め、意識を取り戻した。
「やった……!やった!アカシャさん!うわあああん!」
パズルは無事アカシャが息を吹き返したことに安堵し、涙を流し始めてしまった。ソーンとカルロの二人も、アカシャの蘇生に胸を撫で下ろしていたが、口づけをしたり服を引き裂いたりしたパズルの行動に疑問を持ちつつも、結果的に助かったから良いのか?と、心の中で無理矢理納得させていた。
「あれ……みんな、どうしたの?あたし、どうしてたっけ。」
「……お前、川で溺れて死にかけてたんだよ。……タオル持ってくる。」
「そうだ!身体も冷えていることだろう。火にあたった方がいい、すぐに薪を持ってくる。」
視線のやり場に困ったソーンとカルロは、そそくさと必要なものを取りに戻っていった。彼らの心配も知らず、アカシャは呑気に語りかける。
「なーんか昔の夢見てた気がするんだよね。夢の中で人魚ちゃんの名前考えてたんだ。」
「走馬灯ですね。」
「あっそうだ!人魚ちゃんの名前、いいの思いついた!」
「へぇ、なんて言うんですか?」
危機的状況だったことに気づかず、アカシャは語る。
「チュリちゃん!鱗の色が、昔故郷で咲いてたチューリップに似てるの!」
「へぇ、それは、いい名前だと思いますよ。」
パズルは完全に人魚の名前のことはどうてもいいことだった。ただアカシャが無事で、思考も回っていることに安心するばかりであった。
「……っていうか、服破れてるんだけど!?どうなってるの!?」
「すみませんね、蘇生に必要だったので破きました。街に着くまでは、予備の服を着てください。」
パズルは少しも申し訳なさを感じさせない声音で言った。戸惑うアカシャに、後ろからソーンがタオルをかける。
「その……災難だったな。もう川には入るなよ。」
「薪持ってきたぞ、パズル、火を頼む。アカシャも身体が冷えて仕方ないだろう。」
カルロが持ってきた薪に、パズルは軽く火球を飛ばして火をつけた。計らずとも火を囲み、団欒の空気が周囲に流れる。
「ここからしばらく西に行ったところに、橋があるようです。川の危険さは充分わかりましたし、迂回して橋を渡りましょうか。」
カルロとソーンはその提案に積極的に賛成した。それを見て、なんとなくアカシャは、三人の団結が強まっているように感じていた。
タオルに包まりながら、桶の中のチュリに囁いた。
「みんな仲良くなった気がしない?……雨降って地固まるって、こういうことなのかな。」
ふとした仲間の危機を越え、種族の壁が取り払われたような気がしていた。自分がどれだけ危険な状況にあったか理解していないアカシャは、そのことを呑気に喜んでいた。
一方カルロはパズルに、こう耳打ちした。
「先ほどの口づけは……あれは本当に、救命に必要なものだったんだよな?」
「はい。命の危機が迫ってるのに、必要でないことなどしませんよ。」
「……彼女、恋愛経験はまだ浅いと思うのだが……。」
「人工呼吸は口づけの内に入りません。ノーカウントです。」
パズルはきっぱりと言い切った。それを聞いてカルロは、パズルがそう言うならそういうことにしておこうと、自身を納得させた。
思わぬ危機を乗り越え、パーティの絆はいっそう深まった。水鏡川への道のりは、もう少しだけ続く。
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