EP8.地理と歴史の話。なんかむつかしー。(1)
一行は大きな街にたどり着いた。水鏡川から運ばれてくる物資の中継地点で、交易の要衝であるこの街は、活気に溢れていた。
アカシャとパズルとカルロは、必要なものの買い出しに走っていた。そんな中ソーンは、人魚のチュリを預けられつつ、馬車の隣で暇を持て余していた。そんなソーンに、魔族の子供たちが声をかける。
「おじさん、見ない顔だね!冒険者なの?」
「あ?そうだよ、別に冒険者なんて大して珍しくねぇだろ。」
「俺たちのパパとママも冒険者なんだ!それでしばらく帰ってこないから、昼間は暇なんだよ!」
「ねぇねぇおじさん!お話聞かせて!おじさんはどんなところに行ってきたの?」
「お話ねぇ……大して話せることがあるわけでもねぇが、まぁ暇してたことだし、ちょっとなら話してやるよ。どんなことが聞きたい?」
「ドラゴンの話!ドラゴンって本当にいるの?」
「ドラゴン……ねぇ……。」
ドラゴンという言葉を聞いて、ソーンはため息をついた。その言葉に隠れた背景を、説明するのが手間取りそうだと感じたからだ。
「ドラゴンに俺は会ったことがあるが……その前に確認したい。お前らは『魔王』って知ってるか?」
「知らなーい!何それ?」
「僕知ってるよ!魔族だけで支配しようとする、悪い奴でしょ?」
「その理解は正しいが、足りてるとは言えねぇな。まず軽く地理の勉強の復習からしなきゃいけねぇな。」
そう言うとソーンは、地面に木の枝で、簡略化された地図を描き始めた。
「まず、ここら一帯の中心には、ヒュージー山って言うクソでかい山がある。向こうにうっすら見えるだろう?あれだ。」
ソーンは西方の空を指差した。確かにそちらの方角には、遠目に巨大な山があるのが見えた。
「で、そこから東に向かって一本、クソでかい川が流れてる。それがお前らも知ってるだろう、水鏡川だ。」
ソーンは一本の直線を描き、それが水鏡川であることを示した。
「ヒュージー山の東側、かつ水鏡川より北が、俺たちのいるノルド王国だ。逆に、その南側はいわゆる『南方諸国』と呼ばれる国々がある。そこら辺俺は詳しくないんだが……。」
「南方の話をしたかね?諸君。」
気がつけばカルロが背後に立っていた。
カルロは紙袋を抱えながらも、自慢げに薄ら笑いを浮かべている。
「あー、そういえばお前南方出身だったな。自分で話したい感じか?」
「もちろん!南方の話なら、このカルロ・フォン・ヴァージニアに任せたまえ!」
そう言ってカルロは、地面に描かれた簡易的な地図を見た。
「北方と南方では、色々と大きな違いがある。まず政治体制……どんな風に国が成り立っているかだが、北方では一人の王様が、広大な北方のほとんどを支配しているんだ。」
「北方王朝の権力は強大でな、こうした大きな街には、王様に仕える騎士が、街を守っていたりするんだ。これは普通のことではないのだぞ。」
「そうなの?じゃあ南方ではそうじゃないの?」
「よくぞ聞いてくれた!南方はそもそも、一人の王様が支配しているわけじゃないんだ!人々が話し合って国の行き先を決める、民主制の国があったり、北方同様に王様がいる国がある。共通しているのは、どの国も北方ほど大きい国ではないことくらいだ。」
「へー!そうなんだ!王様がいないってことは、騎士もあんまりいないの?」
「その通りだ。騎士はいないか、いたとしてもあまり数が多くない。まぁ大きい国ではないから、それでも充分数が足りるんだ。」
「そうなんだー。他にはどんな違いがあるの?」
「他には……そうだな、まず食べ物からして結構違う。北方ではパンを食べることが多いと思うが、南方では米を食べることが多い。お米、このあたりに住んでいれば、見たことあるんじゃないか?」
「あるー。あれ高いから食べたことないんだよな。」
「無理もない、南方からの輸入品だからな。あとは、南方ではさほど牧畜が盛んではないから、あまりチーズや牛乳は食べないな。代わりに、胡椒などの香辛料の栽培が盛んだ。」
「南方の料理は、スパイスの効いたものが多い、ああ、話をしていたら恋しくなってきたな……。」
「話が逸れてきてるぞ。」ソーンが口を挟んで軌道修正する。
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