EP7.人魚ちゃんの名前考えてたら、溺れた!川って怖いね。(2)
「……あった!ええと……もう少し西に行った先に橋があるみたいですね。」
パズルは鞄の中をひっくり返して、ようやく目当ての地図を見つけた。
荷台の外に出ると、カルロとソーンは各々の作業に集中していた。アカシャはどうしているかと周囲を見渡すと、突然赤子の泣き声が聞こえてきた。
「あーっ!あー!あーー!」
「どうしたんですか人魚ちゃん!」
声のする方にパズルが駆けると、人魚は何故か河原へと上がっていた。河原は石だらけで、人魚は河原の上を這って移動しようとして、鱗に覆われた皮膚が擦れる痛みで泣き始めたのだろうと思われた。
パズルは人魚を火傷しないよう抱き抱えた。
「よしよし……なんでまた川から出ようとしたんですか?」
そしてふと、とある事実を見落としていることに気がついた。
「そういえば、アカシャさんはどこにいるんですか?人魚ちゃんを置いてどこかに行く人にも見えませんし……」
そうして川の方を見ると、パズルはぞっとするような光景を目にした。
川の中でアカシャが、すっかり沈んだ状態で倒れているのだ。全身が完全に水に沈み、後頭部からは僅かに血が流れているのが、川の中を走る赤い水流から見て取れた。
パズルは直感的に彼女の命の危機を察した。そして、こうも思った。
この状態になってから、何分経った?と。
「ソーンさんカルロさん!来てください!アカシャさんが溺れてます!」
パズルは大声で助けを呼んだ。その声に二人は驚きながらも、すぐにパズルの方に駆けつける。
「どうした……ってうわっ!!!」
「溺れたって本当か……?本当じゃないか!!!」
「カルロさんは人魚ちゃんを桶に戻しておいてください、緊急事態です。」
「これだけ浅い川なら、僕も溺れる心配はないと思いますが……万一の時は、頼みましたよ。」
そう言ってパズルは履物も脱がずに川の中に入り、アカシャの胴体に手を回し、頭を揺らさないように抱え込んだ。
この時パズルは、とある強烈な違和感を感じ取った。だがアカシャが命の危機に瀕しているのは変わりないため、行動方針は変えず、アカシャを抱き上げ、川から引き上げた。
河原にアカシャを寝かせ、次にパズルは呼吸を確認した。その結果、今のアカシャは呼吸をしていないことがわかった。
「……アカシャさん、息をしていません。」
「息をしていないだと!?では彼女は、もう……!」
「まだです!まだ蘇生の見込みはある!ゲートキーパーの間に伝わる、最新の救命法が効けば、彼女はまだ助かります!」
「お、俺たちは、どうすればいいんだ?」
「ソーンさんは僕の杖を持ってきてください!カルロさんは、アカシャさんに声をかけてあげてください!」
「「わかった!!」」
急ぎソーンは駆け出し、カルロはアカシャに向かって救命の声をかけ続ける。
そしてパズルは、ゲートキーパーの間で編み出された、最新の救命法を確認していた。
「まずは心臓の動きを蘇生させる!一分間に60回の速さで、心臓を圧迫する!」
パズルはアカシャの胸元に手を置き、胸骨圧迫を開始した。胸が沈み込むほど強く押す必要があるそれは、パズルを息切れさせるのには充分だったが、パズルは構わず次の工程へと移行した。
「次に……呼吸を補う!鼻を軽く持ち上げて気道を確保してから、口から息を吹き込む!」
気道が確保されたのを確認し、パズルはアカシャの口に口をつけ、思いっきり息を吹き込んだ。その行動が理解できないカルロは、驚きを隠せずにいたが、あまりに鬼気迫るパズルの様子に口を挟むことができなかった。
「杖、持ってきたぞ!次はどうすればいい!」
「ありがとうございます!次に上の服を全部脱がせます!」
「はぁ!?」
驚くソーンを無視しながらパズルは杖を受け取り、アカシャの服に手をかけた。
「構造がわからないな……濡れているし、切った方が良さそうですね。」
杖の先端を刃物に変形させ、器用にアカシャの服を、下着ごと引き裂いた。ソーンとカルロが呆気に取られているのを無視しつつ、アカシャの胸に、変形を戻した杖をかざして、呪文を唱える。
(後は心肺蘇生用の、微弱な電気魔法をかければ、生きていれば息を吹き返すはず……!頼みますよ……!)
呪文の詠唱が完了し、杖から微弱な電流が流れる。その結果がどうなるか、三人はアカシャの顔を覗き込んだ。
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